Fuckは日常英会話のなかで最頻出ワードなのに、学校では絶対に教えてくれない英語の代表格だ。適切に使えば場が和み相手との距離も縮まるが、むやみに使えば命の危険すらある。英語には使い方を間違えると酷い誤解や怒りを招き、たったひと言で人生を棒に振りかねない表現が数多くあるのだ。ではどんな言葉がパワハラ、セクハラと認識され、差別的だと大問題になるのか。
幻冬舎新書の話題作『あぶない英語』は、実社会を渡るための英語力(教養)を身につけることで危機管理を徹底し、その背景にある英語圏の文化をも学ぶ、英語初心者から上級者まで楽しめる英語と英会話の教養書です。
プライベートに踏み込まず、ストレートに用件だけ伝えよう
日本の職場でも、さすがに「俺の酒が飲めないのか」という上司はもう絶滅していると思います。しかしながら、そのようなハラスメントは形を変えて生き残っています。
パワハラというと、割と新しい概念のように聞こえますが、要は権力を背景にした「いじめ」(bullying)です。小・中・高ではbullying、職場ではharassment in the workplace、大学ではacademic harassment と呼んでいますが、いじめであることに変わりありません。
ちなみにacademic harassment は和製英語ですが通じます。Bullying やabuse で通じますが、単にharassment と表現している大学も多いようです。
パワハラは言葉ではなく、態度であることが少なくありません。たとえば、机を叩いたり、舌打ちをするなど、威圧的、侮辱的なものであれば、言葉に出さなくてもパワハラになります。また、無視するという行為も、パワハラと考えられています。パワハラがいじめであることを考えればすぐに理解できるはずです。
Can’t you understand Japanese?(日本語を理解できないのか?)
これはかなり侮辱的な言葉ですから、一対一の場面であろうと他の人がいる前であろうと、パワハラに該当することは明白です。これを、日本で働いている外国人にいったとしてもパワハラに当たります。この文では「理解できないの? → できるでしょ!」というニュアンスになってしまいます。Can は能力を聞くことになってしまいますので注意が必要です。もしも外国人に日本語が話せるかどうかを聞く場合は、“Can you speak Japanese?”よりも“Do you speak Japanese?”のほうが無難な表現でしょう。
Can you send me the report by tomorrow morning?(明日の午前中にレポートを私に送れる?)
会社でよく頼まれることですから、文章に違和感はないと思います。この文章単体であれば、特にハラスメントではありません。問題は内容と条件です。一般常識と照らし合わせて、誰がやっても明らかに明日までに終わらない仕事を、「明日までに終わらせろ」と指示するのはパワハラです。
難しいのは、一般的には可能であっても、その人にとって可能であるかの判断です。個人の能力をはるかに上回る仕事を与えることは、パワハラと考えられています。どれくらいのさじ加減がいいのかは難しいところですが、では簡単な仕事を与えるのであればいいのでしょうか。そうともいえません。なぜなら、個人の能力をはるかに下回る仕事を与えることも、侮辱的でパワハラだと考えられているからです。この点は見落としがちなので要注意です。
Your performance in the last three months is terrible.(あなたのここ3か月の成績はひどいものだ)
この文はterrible(ひどい)という感情的な表現が入っていますから、好ましいものとはいえません。ゼロであるとか、20パーセントダウンであるとか、具体的な数字を出すと客観的になり、acceptable な表現になります。どのような状況でいうかも問題です。他の従業員もいる前で、かつ強い口調でいった場合、侮辱していると受け取られる可能性があり、パワハラになります。個人的に呼び出して、物腰柔らかく具体的な数字を提示していった場合、問題になる可能性はほとんどありません。
絶対にいってはいけない、相手を逆上させる表現
とはいえ、人間ですから感情的になることもあります。賢明な読者の皆さんであれば使うことはないと思いますが、参考までに、絶対にいってはいけない、相手を逆上させる表現を見ていきましょう。
You are good for nothing.(役立たずだな)
You are totally useless.(まったくの役立たず)
You are hopeless.(望みなし)
You are an incapable employee.(無能な社員)
You are an incompetent employee.(無能な社員)
繰り返しになりますが、業務に関係のない発言はNGです。仕事中にあくびをしている社員を注意するような場面はどうでしょうか。
Did you sleep well last night?(昨日、よく寝た?)
特に問題がないように思えます。しかし、もしも新婚さんに向かっていった場合、言い方次第では多様な解釈ができないこともないので、いやらしく聞こえるのではないでしょうか。プライベートに踏み込むのは良くないわけですから、言い方を変えるべきです。
Don’t yawn.(あくびをするな)
Don’t yawn when you are on duty.(仕事中はあくびをするな)
Do’n t yawn when’ I m talking to you.(私が話しているときにあくびをするな)
丁寧にいうのであれば、次のような表現もありますが、ここまで遠慮するのもいかがなものかと。
Please refrain from yawning at work.(職場であくびをするのはどうぞ控えてください)
間違っても、次のような嫌みはいわないように。
That was a big yawn.(大きなあくびだね)
ストレートに用件だけを伝える。これに徹してください。
これからますますパワハラ防止は厳格化されていく
海外ビジネスで諸外国を訪問している私の実感ですが、世界全体で見ると、差別撤廃の方向に進んではいるのですが、それは表面上のことであって、差別は目に見えないところでよりひどくなっているように思います。差別するなといわれたら、表面上はそうなるかもしれませんが、現実は差別を助長し、さらに分断された社会を作り出している気がします。
たとえば、アフリカンアメリカンに対して100パーセント差別語を使わないようにするのは難しいかもしれません。Blacklist やblackmail くらいであれば話の流れのなかで何気なく使ってしまいそうです。それが問題となるのであれば、接触そのものを避けようとするのが人間の心理です。
その結果、同じ人種で固まるようになってしまいます。白人同士で白、黒人同士で黒といっている分には、それほど問題にはならないからです。いろいろな人種が入り交じり、多様性が生まれるのがアメリカの良いところ、強さだったのですが……。
しかし、今後のビジネスシーンでも、水面下に潜った複雑な差別の問題は取り沙汰されることなく、ますます表面上の政治的に正しい表現、パワーハラスメントの防止、差別撤廃だけが厳格化されていくことでしょう。
アメリカのこの傾向は、海外で働く、外資系企業で働く、取引先企業が外資系である日本人だけでなく、いずれ日本ビジネス界にも伝播するはずです。そのとき、うかつな質問の仕方、意思の伝え方、不用意なひと言によって大問題にならないよう、どんな英会話があぶないのか、学んでいきましょう。