「孤独」と聞くと、寂しい、かわいそうといったイメージを抱く人が多いでしょう。しかし、それは本当なのでしょうか? ベストセラー『家族という病』などで知られる作家、下重暁子さんの『極上の孤独』は、「孤独を味わえるのは選ばれし人」「素敵な人はみな孤独」など、孤独は悪いものだというイメージをくつがえす一冊。一人の時間が楽しくなることうけあいの本書から、一部をご紹介します。
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一人で行動する勇気を持つ
一人で音楽会に行けない、劇場に行けない、映画館に行けない、食事に行けない……という人がいる。一人で出かけることを夫に許してもらえなかったりして、一度でいいから一人で出かけたいと願うらしく、その人たちへのアドバイスをとある女性誌から頼まれた。
私は驚いてしまった。夫の許しを得ないと何も出来ないようにしつけられているのだろうか。
そうではないだろう。夫が不在の時はいくらでもあるし、出かける気になればいくらだって行ける。結局本人の問題ではないか。一人で出かける勇気がなかったり、その決断が出来ないだけではないだろうか。
経済的な理由もあるだろう。家計が厳しいから、自分だけ出かけることに気兼ねをする。その結果ストレスがたまり、夫や子供に辛く当たるくらいなら、思い切って出かけたほうがすっきりする。
やりたいことのためには、パートに出るなり、家計をやりくりして毎日少しずつ貯めたっていい。
孤独を知っていた野際陽子さん
先日、「徹子の部屋」に出演した時の野際陽子さんの話に深く思うことがあった。野際さんは昨年肺ガンで亡くなったが、NHKアナウンサー時代の1年先輩で、転勤先の名古屋の寮の隣同士の部屋で1年間暮らしたので、よく知っている間柄だ。
野際さんは弟妹が多い長女だったため、ピアノを習いたかったが、ピアノを買うゆとりが家にはなかった。戦後の日本ではピアノのある家はまだ珍しかったが、なんとかピアノを買いたいと、仕事を始め結婚してからも、ずっと500円玉貯金をしていたというのである。
500円玉が手に入った時だけ貯金をするピアノ貯金。売れっ子の女優さんにそんな苦労はないとお思いかもしれないが、結婚後は当時の夫の事業に協力すべく地方のキャバレーで歌を歌うこともあった。私が偶然、列車の中で会った際に聞いた話だ。
私の面倒もよく見てくれるなど姉御肌のところがあったから、夫の夢もかなえてやりたかったのだろう。
なかなか自分のピアノを持つという夢にまでは手がまわらず、思いついたのが500円玉貯金だったという。健気でユーモラスな話ではないか。
どのくらいかかったのかは知らないが、やっとグランドピアノを手に入れ、時に弾いていた。
ご自宅に焼香に訪れた際、そのピアノが広間の真ん中に置かれていた。私は思わず涙ぐんだ。何事も人に頼らず、自分で解決する人だった。彼女は孤独を知っていたと思う。そういう人が、私が社会に出た時、すぐそばにいてくれたことの大切さを改めて思う。
やりたいことがあったら自分で方法を考え、実行に移すのだ。有名人だから、女優だから何でも出来るわけではない。
誰もが、自分がいる場所で戦っている。誰かが助けてくれるのを待っていたり、環境が変わるのを期待してはいけない。自分で出来る方法を、自分で考える。そのためにも独りの時間が大事である。