10人目は、第2編集局、片野貴司です。
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新型コロナの影響でいま、世界中で自転車が人気だそうです(ニューヨークで自転車がトレンドに、空いている車道をスイスイ/ロイター)。
幻冬舎も基本は在宅勤務なんですが、わたしもどうしても会社に行かねばならないときは自転車で。リフレッシュになるし、公共交通機関を使わなくていいので気分がラクです。ただしヘルメットをかぶり、前後灯もしっかり点けて。
とはいえ、もっと遠くまで行きたいし、自転車レースファンのわたしは、通常ならヨーロッパで開催されるはずのレースがすべて中止でさびしくてしょうがない。いつか自由に外を走れる日に向けて、ノンフィクションを中心に自転車本を読んで気分を高めています。
『シークレット・レース』が描くのは自転車レースの光と闇。ドーピング問題でツール・ド・フランス7連覇のタイトルを剥奪されたランス・アームストロングの相棒が、その不正のすべてを語ります。(文字通り)肉を削り骨を折りながらも勝利を求める選手の姿、驚きの方法で行われるドーピングやその隠し方など、児島修さんの翻訳がすばらしくて、読むだけで心拍数がぐんぐん上がります。
日本最高峰の闘い「全日本自転車ロードレース(2014年、in岩手県八幡平)」をつづったのが佐藤喬さんの『逃げ』。下馬評をひっくり返して意外な選手が勝ったレースで、わたしも現地で観戦していたのですが「えっ! この選手が勝つの!?」と大興奮しました。震えたのがこの一節。
八幡平で勝つために必要ではない種類のトレーニングはほとんど捨て、半年かけて体を八幡平に特化させた。清水は、大きな犠牲を払って手に入れた体が、彼の選手人生において最強の状態に達したことを確信していた(中略)緊張は限界に達していて、ほとんど何も考えられない。レース開始を待つ清水の自転車に別の選手の自転車がわずかに触れたとき、清水は叫びそうになった。清水は、おそらく選手生命ではじめて、完全無欠の状態でレースに臨んでいるのだ。つまらない機材トラブルは避けなければいけない。
極限まで鍛えぬき勝負に臨んでも、勝つのは1人。しかも強い選手が勝つとは限らない。ロードレースの残酷さと美しさが凝縮されています。
自転車を楽しむ達人といえば石田ゆうすけさん。「動けば、いくらでも世界は広がっていくのだ」の言葉がじ〜んと沁みる『道の先まで行ってやれ!』と続編の『地図を破って行ってやれ!』は何度読んでも心躍ります。石田さんは、7年半かけて自転車で世界一周したツワモノ。この2作では日本中津々浦々を自転車で旅します。
北から南までつれづれに、飲んで食べて、笑って泣いて。出会う風景、人、食、そのすべてがキラキラと輝いていとおしく思えます。
あぁ、はやく自転車でどこか遠くへ行きたいな。
#こんな時だからこそ読みたい本
#こんな時だからこそ読みたい本 幻冬舎社員リレー
幻冬舎社員がリレー形式で「こんな時だからこそ読みたい本」をおすすめします。
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