13人目は、出版局・校正部門の福田宗保より。
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かつて旅文庫フェアというものがあった。
タイトな制作日程で、校正部員としてはシンドイ仕事ではあったのだが、意外と好きだった。
旅に熱心でもない私がなぜ? と改めて考えてみると、それは旅への興味というより、旅人(著者)への好意だったのかもしれない。
旅本は、旅そのものではなく、旅人の思考や感覚を追体験するものだからだ。
優れた旅人は、優れた書き手でもあることが多い。
今の窮屈な思いを忘れさせてくれる旅本をご紹介したい。
『ワセダ三畳青春記』は、辺境探検作家・高野秀行さんの自伝的小説。
「なぜか私の行く先々にはいつも変人が待ちかまえているのだ」という特殊体質の高野さん。
古アパートで奇人変人に囲まれて過ごした賑やかで突飛な日々は、頰が自然と緩むオモシロさで、読後にはまるで自分もその時間を共有していたような気分になる。高野さんの筆力によるところが大きいのだろう。
人との出会いも、異世界体験であり、つまりは旅なのだということを教えてくれる本だ。
『あの日、僕は旅に出た』は、旅行作家・蔵前仁一さんの回想記だ。
もともと旅に関心のなかった蔵前さんだが、インドを訪れて以降、世界中を巡るようになる。
「ネパールがどこにあるのかも知らず、アフリカでなにが起こっているかも知らない人間が、『おしん』を見ろと僕にいう。僕が興味があるのは『おしん』ではなく、あなたが興味のない世界のことなんだよ」
これは見ず知らずの老人から、「おしん」を見て真面目に働け、と説教された際の蔵前さんの思いだ。
旅の本質を、更には人の在り方を考えさせられる本だ。
旅本に限らず、そもそも本は、いつでもどこでも別世界を体験できるツールである。
本を読めば、"stay home"でも人は旅をすることができるのだ。
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