20人目は、「小説幻冬」編集長・長濱良より。
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自宅では、懸命に働く人が登場する作品に、特に引き寄せられています。
吉川英梨さんの『雨に消えた向日葵』は、失踪した小学5年生の女子児童を追う警察小説です。主人公の埼玉県警捜査一課の奈良は、とにかく諦めない。虚偽情報に振り回され続けても、捜査員の数が大幅に削られても、別の事件の担当になっても。
それには大きな理由があるのですが、奈良の執念の捜査が辿り着いたラスト14ページから、本を握る親指が、両方とも震えていました。
門井慶喜さんの『東京、はじまる』では、日本銀行や東京駅、国会議事堂といった日本を代表する建物を次々と設計した建築家・辰野金吾の生涯が、史実に基づいて描かれています。
冒頭、英国留学から3年ぶりに帰国した金吾は、再会を果たしたばかりの新妻を置き去りにして動き出します。「東京の街づくりは、すでに始まっている。私が一日休めば、その完成は一日おくれるんだ」。
この金吾の執念も凄まじい。時に、恩師からさえも仕事を奪い取ってまで初志を貫こうとする姿勢に、脱帽です。
『東京、はじまる』の刊行日は、全国の小・中学校などに休校要請が出る直前の2月24日。東京五輪が予定通り開かれることを、ほとんどの人が疑ってはいなかった時期です。
再開発が着々と進む渋谷の街にある書店で、カバーを目にしたときの気持ちが高揚した感覚は今でもはっきりと残っています。先が見えない毎日の活力です。
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