21人目は、幻冬舎文庫編集長の高部真人です。
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まだ、オンライン呑み童貞である。家人はいろいろなところからお誘いを受けるようで、毎日のようにパソコンとワイングラスを手に、物置部屋に籠っている。だが、ある程度時間が経つと「疲れた」と言ってリビングに戻ってくる。画面を見続けながら複数の人間と飲むのは、ある程度集中力がいるのだろう。
飲み会は「場の空気」が命だと信じてやまない身としては、オンラインでそれを共有するのは難しいのではないか、というギモンがぬぐえない。それに、ウケそうなネタを思い付いても、画面越しだとスベる確率が高いような気がして、どうも気が進まない。
しかし、自宅における酒量は明らかに増えている。どのくらいかと言うと、毎週末、カクヤスで度数9%の缶酎ハイと缶ビールを段ボール1箱ずつ注文しないとなくなってしまうくらい。家で一人、もしくは家族でネットフリックスを見ながらダラダラ飲むというパターンが一番多い。朝起きたらまずダイニングテーブルに転がっている空き缶をゴミ箱に捨て、同僚に教えてもらった漢方薬の五苓散(ごれいさん)を飲むのが日課となってしまった。
そんな折、『人生で大切なことは泥酔に学んだ』(栗下直也/左右社)という本を見つけた。帯には「泥酔偉人を描く爆笑エッセイ」とある。端的にいえば、酒グセの悪い著名人たちの列伝本だ。太宰治、三船敏郎、力道山、小林秀雄……彼らが酒でやらかした数々の逸話が、とにかく豪快すぎる。一番心に刺さったのは、銀座の高級クラブで少年マガジンの副編集長に裏拳を食らわせた、梶原一騎のエピソードだ。この時代の編集者でなくて本当によかったと思った。
わが身を振り返ってみれば、自分は酒癖が悪い方ではないとは思う。けれど家人と激しい喧嘩になるのは、だいたい二人とも酒が入っているときだ。カクヤスとの縁を立ち切り、宅飲みをちょっと控えようかな……と考え始めた矢先に思い出した本があった。弊社で最近ベストセラーとなった、町田康著『しらふで生きる 大酒飲みの決断』だ。
酒を飲んでいる自分が正気で、やめている現在の自分は狂っているのだ。そう自己分析しながらも、酒を断つことによって生まれた精神的変化について、経験をもとに滔々と語る名著である。著者によると、旨い酒と旨い肴は対になっているものなので、断酒すると同時に粗食家になり、結果的に痩せたらしい。俄然やる気が湧いてきた。
酒を飲む人生と飲まない人生。どちらを選ぶか、それはあなた次第です!
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