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結婚、仕事、人間関係……ただ生きてるだけでも悩みは尽きません。「自分の人生、これからどうなっていくんだろう」とぼんやり不安を抱えていませんか?

お坊さんである英月さんの本『お見合い35回にうんざりしてアメリカに家出して僧侶になって帰ってきました。』には、そんな人生の不安を吹き飛ばしてくれるヒントがたくさんあります。

彼女のハチャメチャな人生を知れば、きっと自分の人生も開けて見えてきます。その中身を、本書より一部公開いたします。*前回「激レアさんにも出演!お見合いを35回以上経験した尼さんに人生を学ぶ

*   *   *

空しさのあまり、空回りしていた頃。

旅行が好きだから添乗員になろうと安易に考え、資格が必要だからと、添乗員の派遣会社に登録。講習を受け、実地訓練の名のもとにツアーの添乗にも出ました。銀行の就業規則で副業が禁じられているにもかかわらず、です。

添乗に出たのは日帰りバスツアーに数回でしたが、知り合いに会ったらどうしようと、ドキドキしながら関西の観光地を回っていました。と同時に、何をしているのだ? との思いが拭えませんでした。なぜなら、実際に転職をするのかといえば、二の足を踏んでしまうからです。正直なところ、銀行で働くことによって得られる収入や福利厚生と、その他の仕事で得られるそれらを比べた時、辞める理由が見つからなかったのです。

旅行が好きなら、勝手に自分で行けばいいのです。それだけのこと。それはアタマではわかるのですが、逃げ癖がついた思考はなかなかそうはいきません。仕事で辛いことがあったり、行き詰まり感を覚えたりすると、ここではないどこかを求める思いが頭をもたげます。本当は痛いほど、わかっていたのです。

ハッキリ言って、就職試験に合格できた理由がわかりません。紛れこむには大きな身体で、紛れこむことのできた幸運。自分の実力を考えた時、今後どれだけ高い下駄を履かせてもらったとしても、これ以上の企業に就職することはムリでしょう。だったら、この幸運を死守するのが得策であり、至極当然なこと。それでなくても、お気楽OL道を貫いたため、上司の覚えも決していいとは思えません。逃げ場を探す前に、褌ふんどしを締め直し、ここで踏ん張ろうではないか! と考えるのが普通でしょう。

でも、違うんです。空しかったのです。私は、ただ、ただ、空しかったのです。世間的には、素晴らしい勤務先です。それは、そこで働いていた私が一番よく知っています。それだけではありません。働くにあたり考えられる条件の多くが、満たされた職場でした。けれども、だからといって、私の心が満たされるのとは別問題でした。

そんな私を見て、母は「足るを知らない」と言いました。おっしゃる通りです。こうして書いていると、私自身は当時の感情が思い出され、閉塞感に似た重苦しさを感じ、辛さがよみがえります。と同時に、客観的な視点を持って思い返すと、なぜ? とも思います。自分自身のことですが、何が空しかったのか。母の言葉ではないですが、足るを知らなかったのではないかと。

当時私が抱えていた、いえ、包まれ、息苦しさを覚えていた、空しさ。

それは、何のために生きているのか、ということでした。

(イラスト:上路ナオ子)

今ならわかります。仕事に対して空しさを感じていたのではない、と。仕事ではなく、仕事に対する私の向き合い方に空しさを感じていたのです。だから添乗員という違う仕事をしても、同じことだったのです。問題は仕事ではなく、私自身だったから。

多くの先輩がそうであったように、結婚相手を探すために就職したのでも、お金を貯めるために働いているのでもなかった私には、働く意義がありませんでした。何のために働くのか。ひいてはそれは、何のために生きているのかに繋がります。

世間一般の常識とされる人生の流れに則って、学校を卒業したから就職したにすぎなかったのです。もちろん、霞を食って生きてはいけないので、働いて得られるお金も大事でした。けれども実家暮らしの私に、経済的な危機感があったとはいえません。

損得勘定が行動を狂わせる

勝手な言い草ですが、一流企業といわれるところに就職してしまったことが、手て枷かせ足あし枷かせになったと思いました。これが世間も認めるブラック企業なら、大手を振って辞められる。あわよくば、友人知人、家族親類縁者に至るまで、大変だったねと慰めてくれるかもしれません。そして私自身、職場に未練も執着も起きることなく、爽やかに辞職できる。

たまさか、いいところに就職してしまったので、辞めるとなると周りの人たちが疑問に思う。なぜあんなにいい会社を辞めたのと。そして私自身も、いざとなると未練や執着が出てきて辞める決心がつかない。しかし、どうしてそこまでして他の道を探していたのか。そのために就業規則を破ってまで、添乗員として働いたのか。

アタマでは色々なことがわかっていました。ここではないどこかを探していること、なのにソロバンを弾いて、自分の損得を考え、銀行を辞めるつもりはないこと。わかっていても、それでも動かずにいられなかったのです。動き、行動している時だけ、空しさを忘れることができたから。目的を手に入れるために動くのではなく、動くこと自体が目的になっていたのです。そうでないと、空しさに押し潰されてしまう。身体的な忙しさで、心の空しさから目をそらしていただけだったのです。

ちょうどその頃、お見合いのご縁をたくさんいただきました。しかし、度重なるお見合いがストレスとなり、一時的に聴力を失った私は、アメリカに逃亡。そして、様々な出会いを通して、仏教に出遇い直すことになったのです。

では、教えに出遇った結果、どうなったのか?

結論を言っちゃうと、自分らしく生きることができるようになりました。では、何をもって「自分らしく」なのでしょうか?

私が私として生きることができる。言葉を変えると、問題を解決して救われるのではなく、問題を抱えたままの私、ダメダメな私のままで救われていくという道が開かれたのです。

そんな私のお話。過去の私がそうであったように、人生に行き詰まりを感じておられる方の心が、少しでも軽くなることを願って、綴っていきます。あなたのために、そして、過去の私のために。

*   *   *

次回は6月2日公開予定です。

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お見合い35回にうんざりしてアメリカに家出して僧侶になって帰ってきました。

うちの安住の地って、どこにあるん?

親のお見合い攻撃にキレて、なんと海外逃亡。アメリカに骨を埋めるつもりが、仏教に出会ってしまい……。ハードな人生に笑えて泣ける、奮闘エッセイ。

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英月

京都市生まれ。真宗佛光寺派長谷山北ノ院大行寺住職。銀行員になるが35回以上ものお見合いに失敗し、家出をしてアメリカへ。そこでテレビCMに出演し、ラジオのパーソナリティなどを務めた。帰国後に大行寺で始めた「写経の会」「法話会」には、全国から多くの参拝者が集まる。『毎日新聞』にて映画コラムを連載。情報報道番組コメンテーター。著書に『あなたがあなたのままで輝くためのほんの少しの心がけ』(2014年、日経BP)『そのお悩み、親鸞さんが解決してくれます』(2018年、春秋社)、共著に『小さな心から抜け出す お坊さんの11分説法』(2013年、永岡書店)、VS仏教』(2019年、トゥーヴァージンズ)がある。

写真:Noriko Shiota Slusser

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