「暮らしのおへそ」「大人になったら、着たい服」の編集ディレクターであり、『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい!』『大人になってやめたこと』などの著者である一田憲子さんの最新作が『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』です。
コロナウイルスの影響で生活スタイルが変わり、家事や掃除のやり方について改めて考えた方も多いのではないでしょうか。本書では、数多の暮らし上手な人を取材し続けてきた一田さんが実践している、生活をリセットしていく小さな習慣をたくさんご紹介しています。
未曽有の状況でまだまだ不安定な日々ですが、本書で自宅時間を少しでも発見のあるものにして頂けたら幸いです。
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掃除やストレッチなど朝のルーティンを終えたら、なるべく早くパソコンの前に座ります。ぐっすり眠って目覚めた起きたての頭はとにかくフレッシュ! パフォーマンスが最高の時に原稿が書きたい! と思うので……。掃除途中にすでにパソコンを立ち上げておき、机の前に座るとすぐに書き始めるのがいつものパターン。ただし、椅子に座って、原稿を書く前にやることがあります。それがハンドクリームを塗ること。
ちょっと奮発して上等な、いい香りのハンドクリームをデスクの上にいつも置いておき、「さて!」と椅子に座ると、まずそれを取って手に塗ります。ふわりといい香りが立ち上り、「締め切りギリギリだ!」と焦っていても、心をふっと緩めてくれるし、「なんだか今日は気が乗らないなあ」と思っていても、頭をクリアにし、集中力を高めてくれる気がします。
30代の頃、私はいつも寝不足でした。「忙しい、忙しい」というのが口癖で、常に時間に追われていた気がします。でも、今から思い返してみれば、おそらく書いていた原稿の量は今の半分以下だったと思います。なのに、どうして時間が足らなかったのか……。それは、「仕事に取り掛かるまで」に時間がかかったから。
仕事をしなくちゃいけないんだけれど、やりたくない。仕事が好きなんだけど、疲れている。人間というのは、相反する感情をいつも心に抱えているよなあと思います。効率を上げるためには、「今」にまっすぐアクセスするしかけを作ればいいんじゃなかろうか、と思うようになりました。
そこで、利用することにしたのが「香り」です。私が使っているハンドクリームは、「グロウン・アルケミスト」のオレンジとバニラの香り。ちょっと気分転換したい時には、「ジュリーク」のローズの香りを。パソコンの前に座った直後は、「明日までにあれをしなくちゃ」「このアポイントを取らなくちゃな」と意識があっちこっちへと飛んでいます。でも、ハンドクリームを取り、手の甲に少量をのせて、ゆっくり手全体になじませて「あ~、いい香り」と、鼻を膨らませている間に、散りぢりだった意識が、自分の手の中へ戻ってくる気がするのです。あれこれ気になることはあるけれど、今私ができるのは、目の前の原稿を書くこと……。
逆に、緊張を解いてリラックスする時に使うのも香りです。フリーライターは、自宅で仕事をするので「暮らし」と「仕事」の間に線引きをするのがなかなか難しい。家事や育児をしているお母さんも、24時間忙しく立ち働いて、なかなか「ここから休憩」という時間を取れないのではないでしょうか? そんな時「本日閉店!」とシャッターを下ろすお手伝いをしてくれるのが香りなのです。アロマキャンドルを焚いたり、お風呂に好きな香りの入浴剤を入れたり。五感を使うということは、「頭を使う」のとは、まったく違うこと。五感を刺激することで、体の中の別の機能がむくむくと目覚めてくるような感じがします。そして、「香り」というしかけを使うことで、フル稼働していた頭がだんだんクールダウンしていく……。
たかが香り。「香りを使って気分転換を」というのはよく聞くフレーズです。でも、実際に、自分の体の中に起こっている作用を分析してみると、これがなかなか面白い! それは、私にとって「直接」と「間接」の違いを理解することでもありました。原稿を書くテクニックや、取材の仕方など、よりよく仕事をするための「直接的」な方法には限界があります。でも、環境や体、心を整えるという「間接的」な方法には、いろんな可能性が秘められている……。クンクンと鼻を動かしながら、そんな見えない力を味方につけたいと思います。
暮らしの中に終わりと始まりをつくる
『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい!』『大人になってやめたこと』著者・一田憲子さん最新作! 自分をリセットしてくれる「人生の習慣」41。
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