70歳を迎えた今も、現役で活躍し続けている伝説のモデル・我妻マリさん。
17歳でモデルデビューした後、サンローランのオート・クチュールモデルを10年間務め、パリコレへ進出。
イッセイ ミヤケ、ティエリー・ミュグレー、ジャン⁼ポール・ゴルチエなど数々のショーで活躍し、日本人モデルがパリコレクションへ進出する礎を築きました。
そして、60歳を過ぎて栃木県に移住。ファッションの最前線に立ち続ける一方、運転免許も取得し、女ひとり(+猫たち)で自然を謳歌して暮らしています。
本書『明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?』は、そんな我妻マリさんの初めての著書。50年以上のモデル歴で培った、おしゃれの真髄、体の慈しみかた、そして年齢を重ねることについて―。少しずつですがご紹介いたします。
パリのモデルは田舎暮らしをしている人が多いんです。パリコレに出ていた時代、そんなモデルたちの家に泊めてもらって、素敵だなあと思いました。
彼女たちの多くは、パリに小さなアパルトマンを借りてセカンドハウスにしていて、郊外に家を持っています。そこで馬を飼っている人もいるし、普段は畑をいじっている人もいますね。
世界中を旅している人が多いから、その土地土地で買ってきた絵や置物を飾っているんです。それが、すごくセンスいいのね。モロッコのなんとか、ミャンマーのなんとか……。家に行くと、小さな美術館みたいなの。
フランスの田舎は食べるものも美味しいし、チーズなんか最高。とても健康的な生活です。ショーでは10センチのヒールを履いて歩くけれど、田舎にいるときは素足で歩いたりしてね。髪だけ束ねて、お化粧ももちろんしていないし。
こういう感覚って、日本のファッション関係者や芸能人には少ないかもしれない。オン・オフが曖昧で、いつでも気を張っていなきゃいけない感じがある。そうすると、いつでも装っていなきゃいけないし、メイクも落とせないですしね。
若い頃から彼女たちの生活を見てきたから、いつかは自分も田舎暮らしをしたいと思っていたんです。
思い返せば、小さな頃は、手付かずの自然の中で育ったんです。宮城県の山の奥、蔵王のほうよ。
よく覚えているのは、5、6歳の頃。ふらふらっと畑に入ってずっと星を見ていたこと。おじいちゃん、おばあちゃんが、「マリちゃんは、また星見てるわ」ってよく言っていました。昼間はブランコに乗って少しずつ形を変える雲をずっと見ているのが好きだった。
父がアメリカ人、母が日本人。当時ハーフの子どもなんて田舎では珍しいでしょ。だから、友だちもいなかったのね。
うちに飯ごうがあったんですけど、それを持って川にいって、お米をといでご飯を炊いて、一人で食べて帰ってくるような子だったんです。7歳くらいのときかしら。
一人で山に登ったり、河原に遊びに行ったり。家族には「マリちゃんはすぐにいなくなっちゃう」とよく言われていました。
モデル仲間の家に遊びにいって、「田舎で暮らしたい」と思ったときから、40年の月日が流れました。
60歳を超えてから田舎に引っ越すと言ったら、誰もが驚いていたけれど、きっと必然的な流れだったんでしょうね。
明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?
我妻マリ。モデル歴50年。今もファッションの最前線に立ちながら、60歳を過ぎて田舎へひとり移住した彼女が語る「受け入れる、けれど諦めない」37の生き方。
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