70歳を迎えた今も、現役で活躍し続けている伝説のモデル・我妻マリさん。
17歳でモデルデビューした後、サンローランのオート・クチュールモデルを10年間務め、パリコレへ進出。
イッセイ ミヤケ、ティエリー・ミュグレー、ジャン⁼ポール・ゴルチエなど数々のショーで活躍し、日本人モデルがパリコレクションへ進出する礎を築きました。
そして、60歳を過ぎて栃木県に移住。ファッションの最前線に立ち続ける一方、運転免許も取得し、女ひとり(+猫たち)で自然を謳歌して暮らしています。
本書『明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?』は、そんな我妻マリさんの初めての著書。50年以上のモデル歴で培った、おしゃれの真髄、体の慈しみかた、そして年齢を重ねることについて―。少しずつですがご紹介いたします。
東京には、50年以上住みました。モデルをやる前からですね。
東京にも昔は自然があったんです。でもいまは、電車に乗って山や海が見えるところまで行かないと、なかなか自然に出会えないですよね。だから、都心のマンションに暮らしていると、なんだかずっと頭の中で音がしている感覚になっていたんです。
ひとつは物理的なノイズ。一晩中車の音が聞こえてきて、なかなか頭から消えない。
もうひとつは、情報の多さというノイズ。外を歩けば目にどんどん情報が入ってくる。スマホもそうですよね。でもそれがないと暮らしていけないと思い込んでしまうのが、都会の生活。結局、私たちが、情報にコントロールされてるんじゃないかと思ってしまうほどです。
辛かったのは、電車に乗っているときに、しょっちゅう自殺する人のニュースが流れてくること。きっとみんな疲れ切っているんだと思う。
そういうノイズが頭に溜まったときは、電車に乗って自然の中に身を置くようにしていました。
海に足を浸したり、森の木を見て深く空気を吸ったりすると、頭の中の音が変わっていきます。聞こえるのは、波の音。小鳥の声。虫の鳴き声。全部自然の波長で時間が過ぎていくから、自分が癒されていくことがわかるんです。自分で頑張って自分を癒さなくても、自然と体がラクになるんですね。
最後のほうは、しょっちゅうそういう時間を持たないと、頭がおかしくなってしまうと感じるほど、都会に疲れていました。
どこかに移住したい。
私って、そう思ったらぱっと行動してしまうたちなんです。いろんな人に、別荘を持って二拠点生活するのはどう? と言われたのだけれど、そういう決断には覚悟が必要だと思うんですよね。大きな覚悟があればあるほど、そのあとの生活にいいこともやってくる。そう思っているんです。
だから二拠点にして、生半可に東京に未練をもちながら、あっちもこっちもとやっていたら、いいことが起きない気がして。
もう移住するんだったら、完全に移住。そうきっぱり決めたほうが、ものごとがごろっと変わると思ったんです。
移住地に栃木県の益子を選んだのは、トキオクマガイにいらした馬場さんという方が、ご夫婦で益子に移住されたから。
メールをしたら、マリさん、遊びにいらっしゃいって言ってくださって。それで、遊びに行ったら、すごく波長があったんですね。うわー! いい感じだなって。
そのとき、馬場さんの奥さんが車で綱神社という、もう1200年くらい経っているような神社さんに連れて行ってくださったんです。そこは、私はネットで見て行きたいなって思っていたところだったんですね。
そして、その綱さんに行ったときに、龍神さんが祀られていて。私、その龍神さんに呼ばれたような気がして。それでもうここに住もうと決めたんです。
3月に遊びにいって、8月には引っ越ししたから、すぱっと決めたのよね。
田舎暮らしするなら、東京から2時間半くらいの場所がいいと思っていたの。東京での仕事もあるから。
だから、葉山や鎌倉のほうもいったし、いろいろ見たのだけれど、どこもピンとこなかった。でも、決まるときはこうやってすぱっと決まるものなんですね。
最初の1年間は、車の免許もないから、どこにいくのにも自転車だったのよ。
これじゃあまりに不便だと思って、60歳を超えてから教習所に通いました(笑)。
明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?
我妻マリ。モデル歴50年。今もファッションの最前線に立ちながら、60歳を過ぎて田舎へひとり移住した彼女が語る「受け入れる、けれど諦めない」37の生き方。
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