70歳を迎えた今も、現役で活躍し続けている伝説のモデル・我妻マリさん。
17歳でモデルデビューした後、サンローランのオート・クチュールモデルを10年間務め、パリコレへ進出。
イッセイ ミヤケ、ティエリー・ミュグレー、ジャン⁼ポール・ゴルチエなど数々のショーで活躍し、日本人モデルがパリコレクションへ進出する礎を築きました。
そして、60歳を過ぎて栃木県に移住。ファッションの最前線に立ち続ける一方、運転免許も取得し、女ひとり(+猫たち)で自然を謳歌して暮らしています。
本書『明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?』は、そんな我妻マリさんの初めての著書。50年以上のモデル歴で培った、おしゃれの真髄、体の慈しみかた、そして年齢を重ねることについて―。少しずつですがご紹介いたします。
田舎暮らしをしてよかったと思うのは、物事を広い視野で見られるようになったこと。
都会にいると、自分がいる場所をピンポイントでしか感じることができないのだけれど、田舎にいると、これから進む場所のその先々にも道が続いていて、広がりのある景色を見ることができます。
それに、いろんな人が住んでいるわね。人間ウォッチングじゃないけれど「ああ、こういう人がいるんだ」と感じることが多いし勉強になりました。
もちろん、人口でいうと東京のほうが人の数も多いのだけれど、東京にいると自分と近しい人たちとしか会わない。私の場合、仕事のファッション関係者、ファッションを好きな人たちとばかり会っているから、結果的に多様性がないのかもしれないと感じました。
田舎にきてはじめて、うわー、こういう文化がまだ残っているんだとか、そういう衝撃を受けました。たとえば、女はすべからく男を立てるべしとか。どこに行っても、おじさんが威張っているのね。そして、女性はその後ろをついていっている。
少しおしゃれしているだけでも「東京の女は派手だ」とか「東京の女はエロい」と陰口を言われたこともありましたよ。エロいって何かしら。失礼しちゃうわよね。
ゴミ捨ての方法ひとつとっても、その地域のお作法があるのね。間違った場所に出したら、ひどく怒られる。ゴミ袋に名前を書くから、誰のものかすぐわかっちゃうのよ。
缶は黒い箱、ビンは青い箱に入れるのだけれど、最初それを知らなくて逆に出していたら、いつまでたっても回収してくれないの。どうしてかしらと思ったけれど、誰も教えてくれないし、意地でも持っていってくれないのね。これを回収しちゃうと、これまで長く続いてきたやり方が崩れてしまうから、と。
最初は他にも「どうしてこんないじわるなことをされるのかしら」と思ったこともありました。
でも、こういうときこそ、「郷に入ったら郷に従え」。
移住させてもらっているのは、こちらです。東京ではこっちが常識なのに、なんて思っていても仕方ない。なにせ、「町に知らない人が入ってきたら気をつけましょう」って看板が出てるくらいですから。
とにかく腰を低く。こういうときは変なプライドは邪魔ね。プライドでゴミを持っていってくれるわけじゃないから(笑)。
意見の合わない人と争わず、すっと「ごめんなさいね」と引けるようになったのも、田舎暮らしで学んだことかしら。いいことばかりじゃないけれど、やっぱり、私にとって必要な時間だったんだと今は思います。
明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?
我妻マリ。モデル歴50年。今もファッションの最前線に立ちながら、60歳を過ぎて田舎へひとり移住した彼女が語る「受け入れる、けれど諦めない」37の生き方。
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