6月5日にALS(筋萎縮性側索硬化症)のため、76歳で逝去された美容家の佐伯チズさん。
ALSと診断されたことを公表されてからも、病と向き合いながら美容家としての活動を可能な限り継続したい、という意思をお持ちでした。2015年に発売された『今日の私がいちばんキレイ 佐伯流人生の終いじたく』にも、人生で起こる想定外のことが、新たな人生を切り開くことにつながったと書かれています。本書の中から、美容にとどまらない著者の考え方、実践例など、年齢を重ねることが楽しみになるエピソードを紹介します。
ラジオのパーソナリティをしている男性から聞いた話です。その方は、ご自分のラジオ番組の収録には、必ずメイクをして行くのだとか。テレビ出演ならまだしも、ラジオ出演なのに、なぜ顔を整えて行くのでしょうか。
それは、「メイクをすると、自分のテンションが変わるから」だそうです。
これとよく似た例として、私が思ういい女の定義をご紹介しましょう。それは、「いい女は下着に手を抜かない」というものです。下着は周囲の人には見えないけれど、お気に入りの素敵な下着をつけているときと、間に合わせの下着のときでは、明らかにその女性のオーラのようなものが違ってくるはずです。
しかし、悲しいかな年齢を重ねると、自分のために手をかけるということが面倒になってくるのです。すると出てくるのが、「どうせ年だから」「どうせオバサンだから」「どうせ誰も見てないわよ」といった“どうせ”言葉。謙遜(けんそん)を込めて言っているのかもしれませんが、ふだん口にする言葉は自分を洗脳しますから、「どうせ」が口癖になると、すべてがどうでもよくなってくるものです。そうして口角が下がり、体もたるみ、動きも緩慢になって年寄り然としてきます。だから、きれいになりたければ、まず「どうせ」をやめましょう。
「六十歳を過ぎたら、何かを塗るよりもまず健康であることが大事」。そう私はお伝えしました。だからといって、まったく肌に構わなくていいと言っているわけではありません。ただ、人にアピールするためや、年齢を隠すためのメイクやスキンケアではなく、冒頭のパーソナリティの方のように、自分を鼓舞するような美容であってほしいということです。
私の場合、決して派手なメイクはしませんが、ちょっと華やかな席に出向いたり、ステージに上がるようなときは、“つけまつげ”を使います。これだけで自分の気分がぐっと上がるし、遠くから私を見てくださる方にも顔の印象が伝わりやすくなるからです。
最近は若い女性がつけまつげやエクステンションで目元を強調していますが、ただでさえエネルギーに満ちている十代、二十代でまつげまで盛ってしまうと、暑苦しい印象を与えてしまうことにもなりかねません。一方、年を重ねれば肌がマットになり、まつげも寂しくなってきますから、実は大人の女性ほどつけまつげが顔のアクセントとして“効く”のです。
以前、七十七歳にして現役で芸妓をされている方のドキュメンタリー番組を見ましたが、目尻にだけちょこんとつけまつげをつけており、うつむいたときに何とも言えないニュアンスが生まれて本当にチャーミングでした。
「では、皆さん鏡を出して」。美肌セミナーなどで私がこう言うと、結構いるのです、鏡をもっていない方が。もうその精神がダメ、オンナを諦めています。その後、「ローションパックやってますか?」と聞くと、「明日からやりまーす」という答えが返ってきます。それも、ダメ。明日からではなく今日から始めましょう。ダイエットと一緒で、「明日から始めるから、今日は食べておこう」という人は、いつまでたっても始めません。
せっかく生きるのなら楽しく生きたい、夢見て生きたい、そしてきれいでいたいではないですか。「きれいにしても見せる人がいない」「行くところがない」という人は、心が老けてしまっています。きれいになれば人に会いたくなる、おしゃれをしたくなる、どこかに出かけたくなるものです。だからまずは、“自分のため”にきれいになりましょう。
今日の私がいちばんキレイ 佐伯流人生の終いじたく
6月5日にALS(筋萎縮性側索硬化症)のため、76歳で逝去された美容家の佐伯チズさん。
ALSと診断されたことを公表されてからも、病と向き合いながら美容家としての活動を可能な限り継続したい、という意思をお持ちでした。2015年に刊行された『今日の私がいちばんキレイ 佐伯流人生の終いじたく』にも、人生で起こる想定外のことが、新たな人生を切り開くことにつながったと書かれています。本書の中から、美容にとどまらない著者の考え方、実践例など、年齢を重ねることが楽しみになるエピソードを紹介します。