転職、独立、起業、セミリタイア……。終身雇用、年功序列が崩壊しつつある今、「会社を辞める」という選択は珍しいものではなくなっています。しかしリスクばかり考えて、あと一歩踏み出せない人も多いはず。そんな人の背中を押してくれるのが、自身も26年間勤めた銀行を辞め、作家に転身した江上剛さんの『会社を辞めるのは怖くない』です。本書の中から、新しい人生を送るための準備と心がまえをいくつかご紹介しましょう。
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人脈こそがものを言う
会社を辞めて、次の会社に行くにせよ、事業を起こすにせよ、そこで最も役に立つものは何でしょう。それは人脈だと僕は思います。
再就職先で営業を担当したとして、前の会社で培ってきた人脈をたどることもできます。
後で詳しく述べますが、僕が「飲み会は一次会で終わらせよう、夜に営業なんかしないほうがいい」と言うわけは、じつは人脈作りの大事な時間にもなりうるからなのです。
夜のオフタイムは、会社とはまったく別の場へ出かけていきましょう。地域のサークルや勉強会での自分は、所属する会社とは切り離された存在です。「私は、どこそこ会社の部長です」などと伝えるシチュエーションはまずありません。立場や会社のレッテルをすべて外した中でつきあうと、自分の真の力を磨くことができます。
会社では、一緒に仕事をする人を自分で選ぶわけにはいきません。どんなに相性が悪くてもチームを組まなくてはならない。でもサークルや集まりなどでは、気が合う人を自分で選ぶことができます。素の自分自身をぶつけてつきあうと会社の人間関係以上に親密になります。こうなればしめたものです。大きな財産になります。
例えば僕が小説を書くために取材をしたいと考えた時、いつも助けてくれるのは、社外で培った人脈です。電話をして「こういうことを教えていただきたいのだけど」とお願いすると、喜んで会ってくれます。
利害に関係なく広げられた人脈から、瓢簞から駒が出るように、仕事の依頼が来ることだってあります。僕は、食いっぱぐれのない人というのは、人脈に投資した人ではないかなと考えています。
戦前“三井の大番頭”と言われ、後に日本銀行総裁を経て大蔵大臣になった池田成彬も、そんな人でした。昔の銀行の役員は、今と比べても非常に給料が高かった。ところが、成彬は貯金があまりなくて、引退するまで三井銀行に借金があった人です。周りの人が心配して財テクのやり方をアドバイスしようとすると、「いや、僕はきみと違って人に貯金しているから」と、平然としていたそうです。
「本物の人脈」を築くたった1つのコツ
僕自身、銀行員時代での最も大事な財産が何だったかを振り返って考えると、“人”だと言うことができます。営業をやっていて知り合ったお客さんとは、銀行を辞めた今でもつきあいがあり、何かと応援していただいています。
もちろん、将来を考えてつきあったわけではありません。人という財産の価値は、案外、若い頃は気づきにくいものなのです。引退する頃、あるいは引退した後にその価値に気づくことが多いようです。
ビジネスの世界で、人といい関係を作るには、正直に仕事をすることが必要です。「私から仕事を取ったら何も残りません」という顔でガンガン営業すると、お客さんのほうが腰が引けてきます。逆に、「この営業マンは、仕事を取ることだけでなく、こちらのことを半分くらいは考えてくれているようだ」と感じさせるような対応のほうが、結果的にいい成果を得られるはず。
僕は総会屋事件の頃、新聞やテレビの社会部記者さんに追いかけられました。僕は逃げずに、正面から取材を受けました。この姿勢がよかったのでしょうか。今でも多くの記者さんに大事につきあっていただいています。これは営業ではないですが、どんな時でも相手のことを考えて対応した結果だと思います。
人脈づくりには相手に素の自分をまっすぐぶつける。それが基本です。「あの人とは長くつきあいたい」「何かあったら支えてやろう」と思われるような、力のあるつきあい方を、現役時代からしておくべきではないでしょうか。人脈は、ポストが上がったからといって作れるものではありません。どんな人でも、役職の高さに関係なく広げることが可能なものなのです。
会社人生は、25年とか30年とか区切られた期間でしかありません。それなのに会社がすべてだと思い込むから、会社の利害ばかりに振り回されて、人を人として見てつきあうことを、なおざりにしがちなのではないでしょうか。これでは本当の人脈を築くことはできません。
会社を辞めるのは怖くない
転職、独立、起業、セミリタイア……。終身雇用、年功序列が崩壊しつつある今、「会社を辞める」という選択は珍しいものではなくなっています。しかしリスクばかり考えて、あと一歩踏み出せない人も多いはず。そんな人の背中を押してくれるのが、自身も26年間勤めた銀行を辞め、作家に転身した江上剛さんの『会社を辞めるのは怖くない』です。本書の中から、新しい人生を送るための準備と心がまえをいくつかご紹介しましょう。