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会社を辞めるのは怖くない

2020.07.10 公開 ポスト

あなたは会社で「利害抜きの友情」を築いているか?江上剛

転職、独立、起業、セミリタイア……。終身雇用、年功序列が崩壊しつつある今、「会社を辞める」という選択は珍しいものではなくなっています。しかしリスクばかり考えて、あと一歩踏み出せない人も多いはず。そんな人の背中を押してくれるのが、自身も26年間勤めた銀行を辞め、作家に転身した江上剛さんの『会社を辞めるのは怖くない』です。本書の中から、新しい人生を送るための準備と心がまえをいくつかご紹介しましょう。

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人間関係の「棚卸し」をする

組織を離れる時は人間関係の棚卸しを行うべきです。人間関係の棚卸しとはどんなことでしょうか。棚卸しとは、決算のために在庫の原料や製品を調査し、古くなって使えないものを捨てたりすることです。

人間関係も同じです。あなたも長い会社員人生で多くの人と関わり合いを持ち、複雑な人間関係を築いていると思います。会社を辞める時、それらを一回、点検調査し、不要なものと必要なものに整理しましょうということです。

(写真:iStock.com/justocker)

僕は銀行を辞めてから、つきあいのあった人々の意外な面をたくさん見ることができました。

辞めた後も、前と同じようにつきあい、応援してくれる人がいます。嬉しいことにはお互い敬遠しあっていた人が、「意外にいいところを持っていたんだなぁ」とわかってきます。

一方で、退職前は親しげだった人が、離れていきます。彼は銀行で僕がある程度の立場にいたから近づいてきたのでしょう。それを僕は自分への信頼だと勘違いしていたのです。

 

また、「上司に言われたよ。『今日は江上剛と飲みに行くのか。お前、江上には近づかないほうがいいぞ』と」と大げさに知らせてくる人もいます。僕が銀行に批判的なことを言ったり、書いたりするからでしょう。僕に近づくと内部情報を漏洩していると疑われるのかもしれません。

彼に注意をした上司は、きっと組織の中にしっかり埋没しているタイプの人間なのでしょう。僕が小説家になったので、警戒心を持つことがあるのかもしれません。

僕と話をしたら、何か雑誌や新聞に書かれるのではないか、とか。あるいは、僕と会っているところを誰かに見られた後、新聞に何か会社の記事が出たら「お前がしゃべったんだろう」などと、犯人扱いされたら堪らんと心配するのでしょう。でもしばらく様子をみていて、「江上は大丈夫だ」と思ったら、近寄ってくるに違いありません。

 

在職中、例えば100人の人間とつきあっていたとしたら、会社を辞めた後まで100人全員と同じようにつきあう必要はないわけです。新しい人間関係を作っていったらいい。退職は、自分流に人間関係の棚卸しをするいい機会になるはずです。

そうすることで相手の新しい魅力を発見することもありますし、また意外な面に触れることもあります。それが新しい出会いのチャンスにもなるのです。これは必ずやりましょう。

本音で相手とぶつかれ

会社員の人間関係は、利害重視、組織重視にならざるをえない仕組みができています。会社を辞めた後、斡旋された会社や、関係会社に再就職することも多いです。

(写真:iStock.com/marchmeena29)

そうなると、元の会社と次に入る会社との関係が繋がっていますから、たとえあまり気が合わなくても、会社で力がありそうな人間とは、割り切って積極的につきあうようにしなければならない場合があるでしょう。これが普通です。

しかし絶対に言えるのは、「この人に付いていけば一緒に出世できるだろう」という利害重視からだと、いずれ関係は壊れるということです。いつも利害重視だけで、つきあう人間を選ぶのはよくありません。相手もあなたのことを利害重視でみていて本当には信頼しないでしょう。

 

僕が在職中、本音でつきあってきた友人たちは、僕が会社を辞めてフリーになった時、「大丈夫か」と始終連絡を寄こして、支えてくれました。とても心強かったです。それを「友情」と言うのでしょうね。

大きな会社に勤めていようが、辞めてまったく別のリスクのありそうな仕事に就こうが、変わることなくつきあってくれる友人が何人いるか。会社を辞めて次の舞台へ移る時、それが重要なのだと思います。

僕は、人間関係を棚卸しする際、銀行員時代に対等につきあっていた人たちは優良在庫に分類しました。そのため、いまだに連絡を取り合いますし、一緒に勉強会もやっています。それは、同じ仕事場にいた同僚や部下であったり、自分が30代の頃からつきあってきた新聞記者であったり、取引先であったりいろいろです。

また「ちょっと今、わからないことがあるんだけど」という電話一本で、数年間会っていなくてもその距離がすぐ縮まる相手もいます。出版社の人から「江上さんは、飲み会が多過ぎる」と叱られるぐらいです。物書きという今の仕事に役立つ情報交換を兼ねているのですから、ただ飲んでばかりいるわけではありませんけれど。

 

僕は銀行を離れてから、当時の取引先との距離がさらに近くなり、取引先と銀行員の関係ではなくなっても、つきあいを続けています。もちろんその頃、取引先と癒着していたわけではありません。銀行の顔を越えて、腹を割って取引の話をしてきました

今、振り返れば、人脈づくりの種まきだったかもしれません。もし会社での立場をわきまえ過ぎて、距離を置き、本音で取引先とぶつかり合っていなければ、種をまくのは難しかったでしょう。

僕の新しい出発を支援してくれる人たちは、お互い真剣に向き合ってきた人たちばかりです。銀行員の時、お互い利用し、利用されるだけの利害重視の関係より、一般的に言う“友情”のような人間関係を築いておくことが必要ではないでしょうか。

関連書籍

江上剛『会社を辞めるのは怖くない』

グチをこぼしながら今の会社にしがみついてもいいだろう。でも、どんなに尽くしても、会社は平気で社員を放り出すものだ。だったら、思い切って会社を辞め、新しい一歩を踏み出してみては? 起業するもよし、自分に合う環境を求めて転職するもよし。そのときに必要なのが(1)自分の足で立つという気構え(2)人脈(3)家族の支えだ。26年間勤めた銀行を辞めて作家に転身した著者が語る、新しい人生を送るための準備と心構え。

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会社を辞めるのは怖くない

転職、独立、起業、セミリタイア……。終身雇用、年功序列が崩壊しつつある今、「会社を辞める」という選択は珍しいものではなくなっています。しかしリスクばかり考えて、あと一歩踏み出せない人も多いはず。そんな人の背中を押してくれるのが、自身も26年間勤めた銀行を辞め、作家に転身した江上剛さんの『会社を辞めるのは怖くない』です。本書の中から、新しい人生を送るための準備と心がまえをいくつかご紹介しましょう。

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江上剛

1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。77年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行、97年の総会屋事件当時は広報部、本店審議役として対応した。『金融腐蝕列島』(KADOKAWA)の主人公のモデルの一人。2002年に『非情銀行』(新潮社)で作家デビュー。03年、退職。以後、銀行をテーマにした小説を多数発表。

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