70歳を迎えた今も、現役で活躍し続けている伝説のモデル・我妻マリさん。
17歳でモデルデビューした後、サンローランのオート・クチュールモデルを10年間務め、パリコレへ進出。
イッセイ ミヤケ、ティエリー・ミュグレー、ジャン⁼ポール・ゴルチエなど数々のショーで活躍し、日本人モデルがパリコレクションへ進出する礎を築きました。
そして、60歳を過ぎて栃木県に移住。ファッションの最前線に立ち続ける一方、運転免許も取得し、女ひとり(+猫たち)で自然を謳歌して暮らしています。
本書『明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?』は、そんな我妻マリさんの初めての著書。50年以上のモデル歴で培った、おしゃれの真髄、体の慈しみかた、そして年齢を重ねることについて―。少しずつですがご紹介いたします。
家族が動物好きなので、子どもの頃からいろんな動物を飼ってもらってきました。ハツカネズミに、インコに、犬にネコ……。カラスやフクロウもいました。
大人になってから飼ったのは、プレーリードッグです。大阪に撮影に行ったとき、黒門市場のアーケードで見つけたの。うさぎや小鳥を売っている店なんだけれど、そこにプレーリードッグもいた。なんだかカゴに入っているのが気の毒な気がしちゃって「一緒に帰ろうか?」と聞いて、新幹線で連れて帰ってきたんです。
その子はオスで、オスってちょっと体が大きいんですよね。カゴで飼うのはかわいそうだから、お風呂場で飼おうと思って。でも、カゴを開けたら、彼、いなくなっちゃったのよ。隠れちゃって。
捜せないものだから、諦めて寝たんです。そしたらなんと! 朝起きたら、お風呂場に巣ができていた。ティッシュペーパーをたくさん集めて、自分で巣を作ったのよね(笑)。賢いのよ。
さすがにお風呂場がティッシュだらけだと困るから、巣を脱衣所に移動させて、くーちゃんと名付けて一緒に過ごしました。
このくーちゃんは、本当に可愛くてね。あるとき、朝方にシャキシャキという音がするなと思って目が覚めたんだけれど、私が起きたら遊んであげなきゃいけなくなるから、知らんふりしてたんです。
そうしたら、くーちゃん、一生懸命私の足の指の間にナッツを入れていた(笑)。私へのプレゼントだったんでしょうね。
あるときは、くーちゃんから、私と同じ匂いがしてびっくりしたこともありました。私の香水の匂いがするのよ。聞けば、あの子たちは、自分の体内で同じ香りをつくることができるんですって。
プレーリードッグというのは、オス一匹がハーレムを作る動物だから、自分のテリトリーにオスが入ってくるとすごく怒るんです。くーちゃんがコードをかじって洗濯機が動かなくなって電気屋さんを呼んだときなんか、それが男性だとわかると、飛びかかって指を嚙んじゃったこともあった。その人「ぎゃあ」ってなっちゃって、血がぽたぽたって出て……。もうごめんなさいごめんなさいって、謝り倒しました。打ち合わせにきた男性のカメラマンさんのことも嚙んで、やっぱり「ぎゃあ」ってなっていましたね。
女性のお客様には飛びかからないから、知能指数が高いのね。あんなに小さいのに、私のことをお嫁さんだと思っているんだと感じたわ。すごく可愛くて面白い子でした。
その後も猫を飼っていたのだけれど、あまりに可愛かったから、亡くなったときにペットロスになっちゃって。それで、動物を飼うのをやめていたんです。
でも、益子に移住してきたとき、友達になった奥さんから、飼ってあげないと捨てられてしまう猫を見せられたのね。そこからまたずっと猫のいる生活です。
長く飼っていたのはイワノフという子。なんとなく、ロシアっぽい顔をしていたのよ。でも、病院に行ったら、診察券に「いわのぶ」って書かれちゃっていたけれど(笑)。何も言えないから、結局、亡くなるまでそのままだったわね。
いま一緒にいるふくちゃんという猫は、エスパーみたいなんです。だから、E. T. ふくちゃんって呼んでいます。ふくちゃんは、自販機の下に捨てられていたんです。まだおっぱいをあげなきゃいけない時期だったから、ずっとミルクをあげて添い寝をして。
あの子たちはみんな、自由気ままに生きているのね。家の中だけで飼うのはかわいそうだから、いつも外に放しているんだけれど、夕方にはちゃんと帰ってきますよ。プライドが高いから、決して下に見ちゃいけない。それだけ意識していたら、ちゃんと私のことを守ってくれる存在です。
私にちょっと元気がないと、そばに寄ってきて離れない。手でとんとんやってくれる。この間なんか、私が泣いていたら、ふくちゃんが顔のところまでのぼってきて、涙をふいてくれたの。
イワノフもふくちゃんも、ちゃんと日本語がわかっていたわね。私が自分のことをやってくれないと感じたら、朝、ベッドまできて起こすんですよ。まだ寝たいというと、頭に手をのっけてガリガリやったりもするの。冗談がわかる子なんです。
よく、一人暮らしは寂しくないですか? と聞かれます。もちろん寂しく感じるときもあるけれど、でも、みなさんが想像するほど孤独じゃないのは、この子たちのおかげです。
明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?
我妻マリ。モデル歴50年。今もファッションの最前線に立ちながら、60歳を過ぎて田舎へひとり移住した彼女が語る「受け入れる、けれど諦めない」37の生き方。
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