悩みごとがあるときは、空を見上げてみよう。宇宙的に考えれば、おのずと道は開ける! 理論物理学者で長年、宇宙の研究に携わってきた佐治晴夫先生の『宇宙が教える人生の方程式』は、人、自然、そして宇宙との関わりを中心に、人間の一生について考察したエッセイ集。宇宙の壮大さに比べれば、自分の抱えている悩みなんてちっぽけなもの……。読後、きっとそう思えるようになるはずです。そんな本書から、一部をご紹介しましょう。
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脳には宇宙の記憶が刻まれている
真砂なす 数なき星の 其中に 吾に向かひて 光る星あり
これは、明治を生きた歌人、正岡子規が晩年に詠んだ歌です。砂浜に寝転んで、潮騒の音に身を任せ、星空を眺めていると、視覚・聴覚からの刺激が、私たちの体を丸ごと太古の昔へといざなってくれます。
それは、ひと言でいってしまえば、星のまたたき、つまり星からの光の強弱の変化と、潮騒の音のリズムが人類の進化の途上で、脳に深く刻まれた宇宙の根源的性質とぴったり共鳴するからでしょう。つまり、すベての物質を作る素になる元素たちは、ことごとく星の中で合成され、星が超新星爆発という形で終焉を迎えた時、宇宙空間にばらまかれます。
私たち人間も、その「星のかけら」が集まってできているのですから、脳の中に、はるかな宇宙進化の記憶が刻み込まれているといっても言い過ぎではありません。とりわけ、宗教的体験の中でも宇宙や自然との一体感が、悟りの極致であるといわれる所以です。
私たちもいつか宇宙へ戻る
さて、私たちの体を含めて、樹木や魚も、燃えると黒くなります。これは、生物の素が炭、すなわち炭素であることを物語っています。しかし、この炭素だけが、ある特別な構造になるように結合すると、ダイヤモンドになります。ということは、物質の素の組み合わせ方の違いが、あなたになり、この本になり、そしてダイヤモンドにもなっているというわけです。
そして、私たちが一生を終えた時、私たちの体を構成していたすべての物質たちは、再び、小さな粒子となって、地球に戻り、数十億年後に、太陽が地球をのみ込むほどに大きく膨張すると、宇宙の霧となって、宇宙に戻ることになります。私たちの存在は、このような広大無辺な宇宙進化の中のひとこまなのです。
ところで、先日、近隣の病院でMRI(磁気共鳴画像化装置)検査を受けました。強力な磁界を発生する狭いトンネルの中に入って、体の断面を撮像する技術ですが、骨のわずかな凹凸や神経1本に至るまで鮮明に写し出されていて、正直なところ、びっくりしました。
実は、このMRIは、今からおよそ半世紀近く前、私が東大の研究室で、原子核と、それを取り巻く電子の状態の研究に従事していた頃、最先端をゆく実験技術として、注目されていた手法が基礎になっています。
その当時は、物質の本質に迫る理論研究は、日常生活とは無縁だと決めつけられ、予算削減に苦しめられながらの研究生活でしたが、この純粋な基礎研究が、いつの間にか今日の優れた医療技術に結びついたことに、ある種の感動を禁じ得ません。
そういえば、先日、内視鏡越しに初めて目にした自分の体内の風景は、宇宙の果てに抜けるタイムトンネルを想像させる雰囲気で、小さい自分の体内に大きな宇宙を見る思いがしました。ミクロとマクロは、つながっているかのようですね。
宇宙が教える人生の方程式
悩みごとがあるときは、空を見上げてみよう。宇宙的に考えれば、おのずと道は開ける! 理論物理学者で長年、宇宙の研究に携わってきた佐治晴夫先生の『宇宙が教える人生の方程式』は、人、自然、そして宇宙との関わりを中心に、人間の一生について考察したエッセイ集。宇宙の壮大さに比べれば、自分の抱えている悩みなんてちっぽけなもの……。読後、きっとそう思えるようになるはずです。そんな本書から、一部をご紹介しましょう。