悩みごとがあるときは、空を見上げてみよう。宇宙的に考えれば、おのずと道は開ける! 理論物理学者で長年、宇宙の研究に携わってきた佐治晴夫先生の『宇宙が教える人生の方程式』は、人、自然、そして宇宙との関わりを中心に、人間の一生について考察したエッセイ集。宇宙の壮大さに比べれば、自分の抱えている悩みなんてちっぽけなもの……。読後、きっとそう思えるようになるはずです。そんな本書から、一部をご紹介しましょう。
* * *
ネズミとクジラの時間は異なる
見えないけれど、でも、確かにあるという手ごたえを感じてしまう時間って不思議ですね。それは、繰り返し刻むという動作で、過ぎ去っていく何かを感じているらしいということですが、ここでは、私たちが生きているあかしとして、ドキドキ動いている心臓の鼓動、つまり心拍を例にとって考えてみましょう。
実は驚くべきことなのですが、生物学者の本川達雄氏によれば、私たち哺乳類に限れば、小さなネズミから大きなクジラに至るまで、20億回、ドキドキを繰り返すと終焉を迎えるということがわかっているのだそうです。
ネズミは1秒に10回、脈打っていますから、およそ3年で寿命がつき、クジラは3秒に1回ですから100年近く生きるというのです。
つまり体重が増えれば、その分、心拍の周期が長くなって長生きするということですね。
この計算を人間に当てはめると、その寿命は50年足らずになります。でも、現実の平均寿命はもっと長いですね。医薬品や医療技術など文明の力がもたらした結果です。
そこで、脈拍の刻みが、「感じる時間」を作り上げているとしましょう。そうすると、ネズミが体験している時間の流れはゾウよりも速いので、ネズミにとっては、動作が比較的ゆっくりとしたゾウは静止した物体に見えるでしょう。一方、ゆったりした時間で生きているゾウから見れば、ネズミの動きは速いので、その姿は見えていないのかもしれません。
生きるとは「今」を生ききること
ということは、すべての生き物は、自分に固有の時間を生きているわけですから、自分が感じる一生の長さは、心臓の鼓動20億回分の長さであり、私たちが持っている時計で、短いとか長いとか計れるものではないのではないでしょうか。
たとえ、人間よりも平均寿命が短い生き物であっても、心臓のドキドキが20億回に達していれば、一生をまっとうしたことになり、満足しているのかもしれません。生物にとっての時間は絶対的なものではないようです。
その一方で、振り子の往復運動をビデオに撮って逆回ししたとしても、そのことの見分けはつきません。真上に投げ上げられたボールの場合も同様です。
つまり、物理学でいう時間には、絶対的な過去も未来もなく、それは、ものごとが起こる後、先を決める目盛りのようなものです。となると、私たちが感じている時間には、実体はなく、生き続けることによって心の中に描き出している幻想なのかもしれませんね。
過去は既に過ぎ去ったものですからありません。未来は、まだ来ていないのですからありません。存在するとすれば、今という瞬間だけです。また、過去の時間や未来の時間を使うことはできません。使えるのは今の時間だけです。
しかも、今という瞬間は自由に使うことができます。生きるということは、今をその瞬間、瞬間で使いきっていくということの連鎖であり、自分の時間を生み出す営みだといってもよさそうですね。
日時計の影の動きの中に、持続する今を重ねながら、自然の一部として存在することの不可思議さを感じないではいられません。
宇宙が教える人生の方程式
悩みごとがあるときは、空を見上げてみよう。宇宙的に考えれば、おのずと道は開ける! 理論物理学者で長年、宇宙の研究に携わってきた佐治晴夫先生の『宇宙が教える人生の方程式』は、人、自然、そして宇宙との関わりを中心に、人間の一生について考察したエッセイ集。宇宙の壮大さに比べれば、自分の抱えている悩みなんてちっぽけなもの……。読後、きっとそう思えるようになるはずです。そんな本書から、一部をご紹介しましょう。