連日テレビを賑わせている、芸能人の不倫騒動や失言問題。過激化するバッシングの一方で、「さすがにやりすぎでは?」と感じている人も少なくないのではないでしょうか。精神医学の権威、岩波明先生の『他人を非難してばかりいる人たち』(2015年9月刊行)は、そんな現代の風潮に一石を投じる一冊。炎上、バッシング、ネット私刑が「大好物」なマスコミや、ネット住民の心理とは一体? その正体を明らかにしていきましょう。
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ジョークも言えない世の中に
嫌な感じの話である。まさか、あのサザンの桑田佳祐がバッシングを受けるようなことが起きるのかと、驚いた人も多かったことと思う。2015年1月15日、サザンオールスターズの桑田佳祐は、前年12月に行われた年越しライブに関する謝罪文を発表した。
これは、ライブでの桑田のパフォーマンスが、右翼系団体から大問題とされたためである。桑田が2014年受章した紫綬褒章を小道具として使ったり、日の丸に×マークをつけた映像を流したりしたことが、「不敬」な行動とみなされたのである。
11日には、渋谷にあるサザンの所属事務所・アミューズのビルの前で抗議行動が行われた。「猛省せよ」などと書かれた横断幕や国旗を持って集まった右翼系団体らが「桑田佳祐の不敬発言を糾すぞ! アミューズは出てきて釈明しろ!」等、謝罪を求めるシュプレヒコールを上げた。
さらに17日、桑田はパーソナリティを務めるTOKYO FMの「桑田佳祐のやさしい夜遊び」で、年越しライブの演出について謝罪の言葉を繰り返した。以下にその一部を記載する(デイリースポーツオンライン 2015年1月18日)。
・天皇陛下のモノマネを披露した件
「昨年秋の(紫綬褒章の)皇居での伝達式の話をみなさんにお話する時に、伝達式の陛下のご様子を皆さんにお伝えしようとしたというとこが……私の浅はかなところで。大変失礼にあたり、私自身、大変反省しております」
・紫綬褒章をオークションにかけるギャグ
「オークションのパロディーはジョークにしたつもりだったんですけども、軽率。こういう場面で下品なじょうだんを言うべきじゃありませんでした」
・「ピースとハイライト」の歌詞について
「この曲、一昨年の夏に発売して、歌詞は春に作ったのかな。集団的自衛権とかも話題になる前だったと思うんですけども。東アジア全体で起こってる問題として作った歌詞なんでございます。二度と戦争などが起きないように仲良くやっていこうよ、という思いを私は込めたつもりなんですけども」
ますます表現が不自由になる
ずいぶん以前の話になるが、桑田の作った楽曲が性的表現によって放送コードに抵触するという理由から、放送禁止となったことがあった。1981年に発表された、サザンのメンバーである原由子のソロデビューシングル「I Love Youはひとりごと」である。
サザンのレパートリーには、この曲のように「猥褻」ととられる歌詞がひんぱんにみられるが、それらは批判されることはあっても、むしろバンドの人気を高める要因となっていた。
ところが今回は様子が違っている。ちょっとしたジョークやパフォーマンスのつもりでした行動が、「悪い相手」に目をつけられてしまった。右翼にしてみれば、「待っていました」ということだったのかもしれない。他人を許せない不寛容な人たちが待ち構えていたのだった。
『ただの歌詩じゃねえか、こんなもん』(新潮文庫)というのは、桑田佳祐の著書のタイトルであるが、サザンオールスターズは思想家でも政治集団でもなく、音楽グループであり、問題となっている「ピースとハイライト」にしても、単なる歌謡曲である。こんな歌の内容にまで文句をつけられたらたまらない。
桑田はこの本で、歌詞の作り方について、次のように語っている。つまり感性によるものなのである。
「詞は、意味なんて全然考えてないんですよ。とりあえず唄いやすいものを、と思っている。たとえばボクはギターで曲作りするけど、メロディーが出てくるとまず適切な言葉──英語の単語とかをつけてみる。それとザ・ピーナッツがはやってた頃の古い単語がすごくなつかしくて心に残っているから、その辺も引っぱり出してくるだけなんです」
かつてのプロテストソングは、もっと激烈であった。海の向こうの話になるが、ニール・ヤングは、「オハイオ」で当時のニクソン大統領と軍を非難し、ボブ・ディランは、「ハリケーン」で、冤罪を作り出した警察と裁判所の批判を行った。
この桑田さんの件は後味の悪い、これからも尾を引きそうな事件である。自由に発言をすべき作家などの表現者にも、かなりの足かせとなりそうだ。
他人を非難してばかりいる人たち
連日テレビを賑わせている、芸能人の不倫騒動や失言問題。過激化するバッシングの一方で、「さすがにやりすぎでは?」と感じている人も少なくないのではないでしょうか。精神医学の権威、岩波明先生の『他人を非難してばかりいる人たち』は、そんな現代の風潮に一石を投じる一冊。炎上、バッシング、ネット私刑が「大好物」なマスコミや、ネット住民の心理とは一体? その正体を明らかにしていきましょう。