70歳を迎えた今も、現役で活躍し続けている伝説のモデル・我妻マリさん。
17歳でモデルデビューした後、サンローランのオート・クチュールモデルを10年間務め、パリコレへ進出。
イッセイ ミヤケ、ティエリー・ミュグレー、ジャン⁼ポール・ゴルチエなど数々のショーで活躍し、日本人モデルがパリコレクションへ進出する礎を築きました。
そして、60歳を過ぎて栃木県に移住。ファッションの最前線に立ち続ける一方、運転免許も取得し、女ひとり(+猫たち)で自然を謳歌して暮らしています。
本書『明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?』は、そんな我妻マリさんの初めての著書。50年以上のモデル歴で培った、おしゃれの真髄、体の慈しみかた、そして年齢を重ねることについて―。少しずつですがご紹介いたします。
昔、アフガニスタンに連れて行ってもらったことがあるの。22歳のときだったと思います。
砂漠の奥地で、チンギスハンが攻めてきた場所。いまは、その子孫のハザラ族がいる場所です。
夜になると、そのハザラ族の吟遊詩人みたいな人が、詩を朗読して楽器を弾きながら歌うのね。
それが日本の民謡と、ものすごく似ているのよ。小さいときに、よく民謡を聴いていたから、それを聴いて涙が出てきた。どうして日本からこんなに離れた場所にきて、こちらの人たちの楽器で民謡が聴けるんだろうって。
遊牧民族の人たちは、つねに動物と暮らしています。羊を放し、それを追いかけ、また集めて。そして集めた場所で、吟遊詩人が歌を歌う。大きな山にその歌がこだまして、あれを「天空」というんじゃないかしらと思ったくらい。上のほうにずっと山が連なっていて、星がすごくて。それは素晴らしいんですね。
同じように、ペルシア系の人たちの歌もすごくいい。何がいいかというと、シルクロードでつながっていた場所の歌なので、自然と魂が共鳴するのね。
アフガニスタンは、いまは危険で入れなくなっちゃっていますね。アフガニスタンの隣はパキスタンで、昔はパキスタンとインドは同じインドだった。いまは、イスラム教とヒンズー教で分かれてしまったけど、ペシャワルというのは、ガンダーラの仏像があるところなんです。
ガンダーラ仏像は、ペシャワルの有名な王族、王様たちがスポンサーになって、ローマから職人を呼んで、仏像を作らせたから、ヴィーナスみたいに本当に綺麗な顔をしているんです。
このガンダーラっていう場所が、大乗仏教の発祥地なのだけれど、私、そこを車でずっと通ったときに、涙が止まらなくて、心臓がぱくぱくしちゃったんですよね。それで思ったのが、「私きっと昔、ここで生まれて、ここにいたんだろう」ってこと。そんな気がしたの。そんな自覚があったのね。
私たちは実はみんな、ずっと日本で生きてきたわけではなく、いろんな国で生まれて、いまの自分は日本にいるのかもしれない。そういうふうに物事を考えると、面白いと思いますね。
そういうことが見える人に、私はフランス人だったことも、中国人だったこともあると言われたことがあります。パリに行くと懐かしい気持ちになるのは、そうだったのかと思いました。私は母が日本人で父がアメリカ人だから、フランスには縁がないはずなのに、もともと持っている魂の縁のほうが、懐かしく感じるのね。
これは多分、私だけじゃないと思う。誰でも、この場所は胸騒ぎがするとか、なんだか知っている気がするというのは、絶対あると思うんですよ。それってきっと、魂が記憶しているんじゃないかしら。
そんな感覚を持つようになってから、旅行先はインスピレーションで選ぶようになりました。
最近行ったのは、ヒマラヤ。多分、ガンダーラから通じているのだと思うのですが、テレビでもヒマラヤが映ると、もうどうしようもなく懐かしい場所に感じるんですね。
そんなときに、縁があって親しくしている方が、ヒマラヤに行く予定だというのを聞いて、一緒に連れて行っていただいたんです。こういうのも、自然とそういう流れがくるんでしょうね。
ヒマラヤは、登るととてもお金がかかって大変なのですけれど、ネパールから飛行機が出ているんですね。なので、ネパールに拠点をおいて、飛行機でヒマラヤ越えをして、チベットに飛びました。
眼下に8000メートル級の山々が見えて、それがものすごく神々しくて。これぞ、神様の場所だと感じました。
一人旅もしますよ。この間は、前から行きたかった、カンボジア、ミャンマーに旅しました。今度はラオスに行ってみたいと思っています。
まだ行ったことがないのが、ブラジル、あとはアルゼンチン。あちらに友達がいるんです。体力あるうちに、行きたいですね。
明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?
我妻マリ。モデル歴50年。今もファッションの最前線に立ちながら、60歳を過ぎて田舎へひとり移住した彼女が語る「受け入れる、けれど諦めない」37の生き方。
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