イラストレーターの326 さんと、ごみ清掃員でお笑い芸人のマシンガンズ滝沢さんが共著で作った絵本『ゴミはボクらのたからもの』。環境問題の中でも、特に深刻で身近なゴミについて考える〈はじめての絵本〉だとか。ストーリー部分を326さんが、そして各所に挿入されるゴミの解説を滝沢さんが担当したそうですが、意外なカップリングにも思える、この二人の絵本はどのように生まれたのか?
撮影 澤野やすとし
——二人の出会い。そして絵本を作ることになったきっかけ。
326:もともと僕は、マシンガンズの漫才が大好きだったので、滝沢さんのことはよく知っていました。で、あるとき、異業種の方と話すトークイベントの企画が持ち上がり、お相手を探していたら、滝沢さんのお名前が上がったんです。「ゴミについて語らせたら右にでる者はいない」と。それで著書『このゴミは収集できません』を読んだら、面白いし為にもなるしで、ぜひ一緒にイベントに出てくださいとご連絡したのが最初でした。
マシンガンズ滝沢(以下:滝沢):当時、僕がゴミ清掃員になって6年目くらいだったから、約2年前のことですよね。
326:本を読んで、ちゃんとゴミの水切りやらないとな、とか、ほんの少しの大きさの違いでゴミの種類が変わるとか、ゴミに対する意識も変わりました。加えて、芸人さんの視点があるから、ほんとに面白く笑って為になることを読める。これは良い本だな、って。
滝沢:うれしいです。でも『このゴミは収集できません』はエッセイだったので、活字は苦手で読めない、っていう反応が少なからずあったんです。だから実は、326さんに会う前から、絵本をいつか作りたいと思っていて。コミックの『ゴミ清掃員の日常』もその流れから作ったものだったんです。
326:奥様が絵を描いていらっしゃるあの絵、すごくお上手なんですよね。嫉妬するわあ、あのコミック(笑)。
滝沢:(笑)ときどき、保育園や幼稚園にゴミの話をしてください、と呼んでいただくんですが、やっぱり子供たちに教えるなら、絵本がいいなあと。絵本を作りたい! と思って2カ月も経たないうちに、326さんと出会えたんです。
326:すごい偶然。僕もお声がけしたときから、なにか一緒に作れないかと次の展開を考えていましたしね(笑)。昔からゴミ収集のおじさんたちが大好きだったんですよ。清掃車も、制服も、働いている姿も。カッコいいなあ、もっと知りたいなあって。
滝沢:まだそんなに注目される前から、清掃員に対して、そんな風に思ってくださっていたなんて嬉しくて。そんなこともあり、ふたりの願いが合致して絵本を作ることになりました。
——絵本のコンセプト。キャラクターについて。
滝沢:そもそも、この絵本を描き始めるとき、ほんの数回しか打ち合わせしていないじゃないですか。結果的に、お互いが描いたものを持ち寄ったというか。もっと綿密にコンセプトとかストーリーを考えるものだと思ってました(笑)。
326:そこは実は意図的というか。滝沢さんがホンモノの清掃員さんなので、わざわざ細かく打ち合わせして、ノンフィクション感を出す必要はないかと思ったんです。ホンモノは、居るだけで、それだけで強いな、と。あと、最初から清掃員さんがヒーロー役だと考えていたんですけど、滝沢さんが自分で自分のことを「ヒーローです」って言いにくいじゃないですか。
滝沢:たしかに、それは言いにくい。俺はカッコいいとか、照れるし、言えない(笑)。でもそろそろ誰かに言ってほしいタイミングだったんで、ちょうどよかったです。やっと言ってくれた、って(笑)。
326:清掃車に乗った清掃員さんって、僕から見ると、ドラゴンに乗ったヒーローと同じ構図で、子供達が憧れる要素満載の「日常にあるファンタジー」なんですよ。それをまず楽しんでもらえるものになれば、というイメージはありました。
滝沢:僕は絵本を作りたい思いとか、ゴミに関する知識はありましたけど、それをどう表現していいか思いつかずにいたので、326さんによって、いいアレンジをしてもらえました。主役は清掃員と子供のたけしくんですが、青いカバの清掃車がいいんですよ。これは、すぐに思いついたんですか?
326:最初は、もう気持ち悪いくらいリアルな青いカバを描いてました、ぜんぜん可愛くなくて、気色悪! みたいな(笑)。清掃車が町中で走っているのを見ると、「ネバーエンディングストーリー」のファルコンを思い出すんです。あのカッコよさをどうやって描こうかな、と考え直して、清掃車のミニカーをいくつか買ったりもして研究したんです。
滝沢:これは人気が出るキャラクターですよね。
——326さんが無茶振りした、滝沢さんのイラスト初挑戦。
326:「清掃車カッコいい、清掃員さんはヒーロー」だけだと僕個人の思い込みでしかないから、実際に働いている滝沢さんの思いや意見をしっかり反映させようとは意識していました。だから、もう滝沢さんに、日頃感じていることなどもどんどん出してもらえたらと思って、「絵描いたことあります?」って無茶ぶりもして。
滝沢:そう、初めて絵を描きました(笑)。漫画家さんとか、もともと絵を描くお仕事の方にはリスペクトがありましたけど、自分で描いてみると、こんなにも大変なのか! と想像を超えました(笑)。326さんに言われて水彩絵の具を使いましたが、ここ塗り終わったら筆を洗って、また違う色を作って塗って……細かい作業だなあと。何事もやってみないとわからないですね。
326:それ……謝らなくちゃいけないんですけど、最近のプロの絵描きは、今や誰もそんなことやってないんですよ(笑)。パソコンがあるんで。
滝沢:やってない!? 絵の具のブランドまで指定されたのに?
326:いちばん大変な作業をやらせてしまいました(笑)。初めて描く絵の良さってあると思ったんですよ。巧さではなくて、温かみとか優しさとか、そういう生の感覚がこもった絵になればいいなあと。子供の描いた絵って、大人は真似できないじゃないですか。そんなイメージ。
滝沢:なるほどね。たしかに一度描いたあとに、もっと上手くできるんじゃないかと描き直してみると、なんか違うなあって。描けば描くほど、最初の絵が一番良く思えちゃって。だから、この本の絵は、僕が一番最初に描いたものです。
326:そういうものなんですよ。僕は陰で、滝沢さんが巧くならないようにと祈ってました。でも、そういう産みの苦しみがあったほうが作品に命が宿って、僕ら作家も、読者も、自然と大事にするようになると思うんですよ。
滝沢:それは仕事全般に言えることですよね。思い入れをもって、心を込めてやれば、どんなことでも忘れられない大事な仕事になります。
326:滝沢さんが描いた、ゴミや清掃員のおじさんに関する解説ページは、いろんな要素が詰まっているので、順番関係なく、子供たちが図鑑を眺めるように見るページになったと思いますよ。可愛いし♪
——環境問題のなかでもっとも身近なゴミ問題について。
326:以前、仕事でフランスに行ったとき、清掃員の方々が賃上げ交渉かなにかでストライキをしていて、街がめちゃくちゃ汚れていたんです。清掃員さんたちが働いてくれなかったら、街はこんなに汚くなっちゃうのか、って驚いて。
滝沢:イタリアでもそんなことがあったかもしれません。当たり前の日常を保つにも、大勢の人の手がかかっているんですよね。
326:今回、コロナのこともあって、ゴミの捨て方に、改めて注目が集まったじゃないですか。このタイミングでの制作は、使命感みたいなものもありました。
滝沢:海に浮遊するプラスティックゴミに関する報道も増えていたりとかね。コロナ自粛の時期、ウイルスに汚染されたゴミがあるんじゃないかという話もありましたし。
326:ゴミ清掃員の立場からすると、いま僕たちはゴミ問題に対して、なにをまずやるべきなんですか。
滝沢:ゴミ自体を減らすのが一番なんでしょうけれど、すぐには難しいと思うので、ゴミを出すならちゃんと分別をする、っていうことですね。いまだにこれが徹底されてない。たとえば、びんと缶は資源ゴミの日に出すものなんだけど、そのびんと缶を一つの袋に混ぜて入れて不燃ゴミの日に出す人が、まだかなりいるんですよ。二つとも宝物になる資源なのに、ゴミとゴミにしちゃう。
326:わけがわからない……。地球の一員なのに! どうやったら、もっとみんな関心を持って、分別できるようになるんでしょうね。
滝沢:ゴミって大きく分けると、燃えるゴミと燃えないゴミの二種類しかないんですよ、それ以外のものはすべて資源であってゴミじゃないんです。つまり、一般家庭から出されているのは、「燃えるゴミ」と「燃えないゴミ」そして「資源」なんです。でも実は多くの人が、どの曜日も「ゴミを出す日」だと思ってる。全部一緒くたにゴミだと思っていらっしゃるんですが、「資源」という宝物までゴミだと思って捨てていることを知ってほしいですね。ちょっとした意識の変換なんですけど。
326:この絵本で、すこしは広げられたらいいですね。僕は、知人の4歳の娘さんにこの絵本を渡したところ、分別をゲーム感覚で面白がってくれたみたいで、そういう反応には期待したいです。
滝沢:これまで本を何冊か出させていただいて、ゴミ問題に興味がある意識高い人たちは買ってくれるんだけど、本当に届けたいのはゴミに興味がない人たちで。それはこれからの課題だと思っています。
――この絵本に込めた願いとは。
326:絵本ですから、まずはストーリーやゴミの解説の絵を子供たちに楽しんでもらえたらと思います。そして、この絵本を大事な宝物に思ってもらえたら、きっとゴミが減るだろうし、そうなったら、とても素敵なことだと思います。
滝沢:子供のときに読んだ絵本って、忘れないものじゃないですか。大人になって初めて一人暮らしするときに、これからは自分でちゃんとゴミの分別しなきゃなあ、なんて思い出してもらえたらいいですね。そういう一生残る絵本になったら嬉しいです。
326:あと僕は、子供たちに向けて、憧れの職業を一つ増やしたかったんですよ。街を守るヒーローの清掃員さんになりたい! っていう子が増えたら嬉しい。そういうきっかけとしても、良い入り口になってくれたらと願っています。
滝沢:ここに「あること」がとても大事な本になりました。良いタイミングで良い機会をありがとうございました。
326:こちらこそありがとうございます。第二弾もぜひやりましょう。
滝沢:第二弾は絵の具じゃなく、パソコン使いますよ(笑)。