70歳を迎えた今も、現役で活躍し続けている伝説のモデル・我妻マリさん。
17歳でモデルデビューした後、サンローランのオート・クチュールモデルを10年間務め、パリコレへ進出。
イッセイ ミヤケ、ティエリー・ミュグレー、ジャン⁼ポール・ゴルチエなど数々のショーで活躍し、日本人モデルがパリコレクションへ進出する礎を築きました。
そして、60歳を過ぎて栃木県に移住。ファッションの最前線に立ち続ける一方、運転免許も取得し、女ひとり(+猫たち)で自然を謳歌して暮らしています。
本書『明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?』は、そんな我妻マリさんの初めての著書。50年以上のモデル歴で培った、おしゃれの真髄、体の慈しみかた、そして年齢を重ねることについて―。少しずつですがご紹介いたします。
田舎暮らしをするようになって、いろいろと経験させてもらいました。東京にいると味わえないような悲しい経験もしたし、嫌なこともありました。
その瞬間は「悔しい」とか「信じられない」とか、気が狂いそうなくらいなんだけれど、あとから振り返ると、やっぱりそれも、「経験をさせてもらった」のだなあと、最近感じるようになったの。それは私の成長にもつながっていると感じます。
ここで一番学んだことは、みんなそれぞれの「道」を持っているということ。その人の道に土足で足を踏み入れたら、ぶつかることもある。やっぱり人間だから、最初は自分と考えの違う人とはやり合っちゃうのよね。
でも、いろんな考えの人がいて、いろんな生き方がある。その人がその考えを持っている背景には、その人の生きてきた背景や育った環境や家族がある。
そういうことを想像できるようになったら、考えの違う人のことも、静かに受け入れられるようになった。
これはある種の諦めに近い部分もあるのだけれど、「相手が間違っているとか、こうあるべき、と思っても仕方ないんだ」と思えるようになったら、すっと自然に会話ができるようになってきたんです。よく言われることだけれど、変えることができるのは、自分だけです。
「何かおかしいな」というときは、相手や周りではなく、自分に問題があると考える。たとえば焦っていたり、物事を暗く考えていたり……。そうやって反省したら、また自分を立て直すところから始めるの。
なかなかうまくこの土地に馴染めないとき、東京に戻ろうかしらと思ったことが一度もなかったかというと、それは嘘になります。
でも、結局、そういうすれ違いはどこに行ったってあるものだと思うの。
たしかに、それまで暮らしてきた街のほうが、同じ考えを持っている人に会える可能性は高いかもしれない。でも、東京に行ったって、ニューヨークに行ったって、うまくいかない人は絶対いるのよ。「ああ、この人はこういう考え方をするのだな」と、理解して受け入れるしかない。
うまくいかないときは、流れに逆らわず、自然に身をまかせる。
自分と考えが違う人の声にも耳を傾ける。
こういうことは、全部、この数年で学んだことです。
60歳を過ぎてからも、こんなに学べるし、成長できるものなんだと思いました。
大変なことも嫌なことも、あとから振り返ったら「経験させてもらった」と感じられるようになる。そう気づいてからは、嫌なことも楽しめるようになった気がします。
明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?
我妻マリ。モデル歴50年。今もファッションの最前線に立ちながら、60歳を過ぎて田舎へひとり移住した彼女が語る「受け入れる、けれど諦めない」37の生き方。
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