誰もが知る歴史上の偉人たちは、もともと優秀だったからその偉業を成し遂げられたわけではない。ではなぜ偉業を成し遂げられたのか。そこには決して歴史に名を残すことのない、もう一人の偉人の存在があったから。
教科書では知ることのできない、そんなもう一人の偉人にスポットを当てる書籍『もうひとりの偉人伝』から、一部を抜粋してご紹介します。
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豊臣秀吉の天下統一を助けたキレキレ軍師黒田官兵衛
愛され武将とキレ者軍師
貧しい家の生まれから織田信長の家臣となり、出世階段をトントント~ンとかけ上がってついには天下統一まで果たした戦国武将、豊臣秀吉。
秀吉は信長の忠実な家臣であり、主君をよろこばせる天才でした。ある寒い冬の日、信長が表に出ようとすると、戸口にはスタンバイしていた秀吉のすがたが。秀吉はおもむろにふところから信長のぞうりを取り出すと、「ぬくぬくにしときました」と差し出します。こうした気づかいが信長から気に入られ、足軽という武士階級でいちばん低い身分からどんどん出世することができたのです。
秀吉は部下思いの上司でもありました。秀吉の家臣が戦に敗れ、命からがら帰ってきたときのこと。失態をわびる家臣に、秀吉はこう返します。
「あの状況でよくぞ無事に帰って来たな。それこそが手がらだ」
負けを責めるどころか命があったことをほめてくれる秀吉に、家臣は大感げき。こうした人がらから、秀吉に忠誠をちかう家臣は後を絶ちませんでした。
秀吉はただの気ぃつかいではありません。戦も上手で、とくに城攻めを得意としていました。必殺技は、敵の城を兵で囲み、食料を補給できないようにしてじわじわと追いつめる「兵ろう攻め」。こうしたえげつない作戦の数々で、落とすのが不可能といわれた城も次々と攻略し、どんどん手がらを立てていきます。
人に愛される才能とたくみな戦術を武器に、天下統一まで成しとげた秀吉。ですが実は、秀吉が戦で実行した作戦の多くは、とある人物によって考えられたものでした。秀吉に仕えていた家臣の中でも最強のブレーン、黒田官兵衛です。
もとは播磨(現在の兵庫県)の大名に仕えていた官兵衛は、当時絶好調だった信長のうわさを聞いて「これからは信長の時代が来るな」と確信。当時の主といっしょに信長に仕えることにしました。とにかく頭がキレる官兵衛は、信長から「秀吉の中国地方攻めを手伝ってくれ」と命じられ、秀吉の軍師に就任します。これが2人の出会いでした。
軍師としての官兵衛の活躍はたいへんなものでした。あるとき、秀吉は備中高松城の攻略に大苦戦します。この城は沼地の中にあり、兵や馬で攻め入ることができなかったからです。なやめる秀吉に、官兵衛はこう提案しました。
「城の周りにていぼうを築いて、川の水をせき止めましょう。水がたまったら、城に向けてド~ンと一気に流すのです!」
“水攻め”作戦は大当たり! あっという間に攻め落とすことができました。
こうした官兵衛の機転の数々によって、秀吉は以前にもまして順調に手がらを立てていきました。そしてこの官兵衛のアドバイスが、秀吉が天下を統一するきっかけにもなったのです。
主君の死こそチャンス!
それは、秀吉が中国地方に出陣していたときのこと。主君である信長が、同じ家臣であるはずの明智光秀に裏切られ、寺の中で自害するという「本能寺の変」が起こりました。この報せを受けた秀吉は、愛する主君の死にボロ泣き。しかし、官兵衛はいたって冷静でした。
「これはチャンスです。今すぐ京に引き返して、光秀をたおしましょう」
官兵衛の言葉に、秀吉はハッとします。すぐに冷静さを取りもどし、「それもそうだな。やるしかない!」と急いで兵を京に向かわせました。本能寺の変からわずか11日後。まさかそんな速さで秀吉軍が京にもどって来ると思っていなかった光秀軍は、急に現れた秀吉軍にあわてふためき、準備不足のまま激とつ。あっという間に敗れてしまいました。
主君のかたきをとった秀吉は、これをきっかけに信長の後けい者としての足がかりをつかみます。そして勢いそのまま、やがて天下を平定したのです。
冷たくされてもつくします
部下思いの秀吉は、たよりになりまくる官兵衛をさぞ大切にしたと思うでしょう。でも、実際は逆でした。
「こいつはデキすぎて油断ならん。裏切られたら俺の天下も危ないかも?」
官兵衛は優秀すぎるあまり、秀吉からすっかりビビられてしまったのです。そのため、だれよりも秀吉の天下統一にこうけんしたにもかかわらず、官兵衛はわずかな領地しかあたえられませんでした。それでも官兵衛は気にすることなく、ひかえめに秀吉に仕え続けました。官兵衛はまちがいなく、戦国一の「理想の部下」だったといえるでしょう。
もうひとりの偉人伝
誰もが知る歴史上の偉人たちは、もともと優秀だったからその偉業を成し遂げられたわけではない。ではなぜ偉業を成し遂げられたのか。そこには決して歴史に名を残すことのない、もう一人の偉人の存在があったから。
教科書では知ることのできない、そんなもう一人の偉人にスポットを当てる書籍『もうひとりの偉人伝』から、一部を抜粋してご紹介します。