誰もが知る歴史上の偉人たちは、もともと優秀だったからその偉業を成し遂げられたわけではない。ではなぜ偉業を成し遂げられたのか。そこには決して歴史に名を残すことのない、もう一人の偉人の存在があったから。
教科書では知ることのできない、そんなもう一人の偉人にスポットを当てる書籍『もうひとりの偉人伝』から、一部を抜粋してご紹介します。
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天才科学者ニュートンの発明にいちゃもんをつけまくったフック
天才科学者の「三大発見」
どうにも気が合わなくて、いつもケンカばかりしてしまう。だれでもそんな相手が一人はいるものです。17世紀イギリスの学者、ニュートンとフックもそんな関係でした。この2人、仲が悪いことで有名だったのです。
ニュートンの名前を聞いたことがある人は多いでしょう。木からリンゴが落ちる様子を見て、「地上のあらゆるものは、地球の中心に引きよせられているのではないか? この宇宙にある全てのものは、たがいに引き合う力を持っているんだ!」と、「万有引力の法則」をひらめいた人です。この発見は、当時の自然科学の常識を大きく変えました。
これだけでも科学者として歴史に名を刻むには十分な功績でしたが、ニュートンの勢いはここで止まりません。高校の数学で勉強する「微分積分」の考え方を発見し、さらに続けて太陽光線にいろいろな色の光が混ざっていることも発見しました。おどろくべきことに、この3つの大きな発見を、ニュートンは22歳から23歳にかけてのたった1年間でやってのけます。
イギリスでペストという感染症が流行して大学が長期の休みになり、ニュートンは田舎に帰省して思う存分研究に集中できたからです。彼にとっては「夏休みの自由研究」のようなノリだったのかもしれません。ニュートンはその後、26歳の若さで大学教授に就任します。まさに天才科学者。しかし、ニュートンの心はいつも晴れませんでした。ある男の存在によって……。
文句ばかり言うウザいやつ
「万有引力の法則は、自分が先に思いついたものだ!」
ニュートンの大発見を、こう批判した人物がいました。イギリスの物理学者、ロバート・フックです。フックもニュートンに負けずおとらず、数々の業績を残した優秀な学者でした。代表的な発明に、バネの伸びちぢみを使ってエネルギーの大きさを測る「フックの法則」があります。また、「細胞(CELL)」という言葉をはじめて使ったのもこの人です。
フックとニュートンは同じ「王立協会」という科学の学会に所属していました。ニュートンより7歳年上のフックは、王立協会で14年にわたって実験のリーダーを務めていました。当時はニュートンよりフックの方が、えいきょう力があったわけです。
そんな2人がぶつかったのは、実は今回がはじめてではありません。ニュートンが光学の理論を王立協会で発表したときも、フックはこう主張しました。
「そんなの私がすでに考えていた! この発表はまちがいだらけだ!」
このときはおたがいの言い分を聞いて仲直りしましたが、万有引力の発見をめぐって、またしても2人は対立したのです。ニュートンはフックに対してイラつきをつのらせていきました。
存在すらゆるさない
結果的に、万有引力はニュートンが発見したものとしてみとめられました。それでも、いちゃもんをつけられたニュートンのいかりは収まりません。このやっかいなフックという男をどうにかしてやりたい……。そんな思いに支配されます。
実はニュートンは少年の頃から性格が暗く、なにごともネチネチと根に持つタイプでした。フックをたたきつぶすにはどうすればいいだろうか……ネチネチ考えた末にニュートンが出した答えは「権力をにぎること」でした。ニュートンは各方面に根回しをして、国会議員になったり、造幣局という貨幣を作る国の機関の局長になったりと、重要なポジションを次々と手に入れて、どんどん出世していきます。そしてフックの死後、ついに王立協会のトップにまで上りつめたニュートンは、長年やりたかったことを実現させます。
それは、フックの存在をこの世から完全に消し去ること。ニュートンは、名簿からフックの名前を消し、さらに、肖像画、論文、原稿など、フックに関わるありとあらゆるものを焼き捨てたのです。そこには、生前フックが残した研究成果や開発した機械もふくまれていました。このニュートンの暴挙によって、イギリスの科学の発展は100年遅れたともいわれています。
すでに亡くなっている相手にここまでするなんて、おそろしいほどのうらみです。しかし、フックへのふくしゅう心をパワーに変えたからこそ、ニュートンは若くして成功をおさめながらも、死ぬまで活動的でいられたともいえます。
にくいライバルの存在。それも人生に必要なしげきなのかもしれません。
もうひとりの偉人伝
誰もが知る歴史上の偉人たちは、もともと優秀だったからその偉業を成し遂げられたわけではない。ではなぜ偉業を成し遂げられたのか。そこには決して歴史に名を残すことのない、もう一人の偉人の存在があったから。
教科書では知ることのできない、そんなもう一人の偉人にスポットを当てる書籍『もうひとりの偉人伝』から、一部を抜粋してご紹介します。