日本人の新型コロナウイルスの感染者数と死亡数は、欧米に比べてなぜ少なかったのか。今後、「夜の街」問題はどうするのか。ファクターXは何なのか。予防に手落ちはないか? 抗がん剤の世界的権威にして細菌学・ウイルス学のエキスパートが、私見を含め、最新の疑問に答える。
* * *
拙著『ウイルスにもガンにも 野菜スープの力』のp.28に、細菌やウイルスの暴露量を感染から発症に至るモデル例を示していますが(下記の表)、一般にヒトが病原性微生物(細菌やウイルス)に暴露(感染)すると必ず発症するかというと、必ずしもそうではありません。
大量の病原微生物に感染すると比較的短時間(とくにインフルエンザなどは24時間以内くらいで)に発症しますが、ウイルス量が少ないか、また、そのヒトの免疫力が強い(つまり、そのヒトの本来の免疫力(体力)が強いなど)場合は感染しないか、感染しても発熱その他症状が現れません。
このように発症しないヒトがいます。それを不顕性感染と云っています。
このとき多くの場合は、免疫力として血中の抗体が出現します。一方、そのとき時間と共にウイルス(抗原)は体からいなくなります(治癒)。またこれとは別に、C型肝炎ウイルスやヘルペスウイルスなどは、急速な発症がなくゆるやかな感染があり、潜伏感染(持続感染)という状態になり、慢性化疾患として体に巣くって残っています。このときも、そのヒトの免疫が弱ってくると臨床症状(発症)が出てきます(ヘルペスウイルスなど)。
ところで、PCR検査についてですが、メディアからはPCR検査さえすればコロナウイルスの予防になるような印象が伝わってきます。もともとPCR検査では、唾液や鼻腔の分泌液中の目的とするウイルス(細菌)を試験管の中で何万倍、あるいはもっと増幅してウイルスがいるかどうかをみることで、もともとどれ程のウイルス(粒子の数)があるのかを正確(定量的)には把握できていません。
最近、試験されているコロナCOVID-19の抗原の検出も似ていますが、こちらは感染力のあるウイルスかどうかは別問題であり、この抗原があれば、そのヒトの体内に抗体が出来ている可能性があります。COVID-19の抗体が検出できて抗体があるという状態が把握できれば、それによってその当人も社会も安心できる訳です。
さて、前述のPCR検査で陽性になったとしても、ウイルス量が少なく不顕性感染になれば、それが最も好ましいコロナ(COVID-19)のワクチン接種と同じことであると云えます。陽性だから即入院と医療機関を煩わすシステムになっていますが、本人が無症状で、いわゆる潜伏感染の状態であれば、本人に通知して控えめの普通の生活をしばらく続け、抗体価が上がるのを見定めた上、放免するのが良いのではないでしょうか。
そもそもPCR検査の精度はそれ程よくないと云われています。ウィズ(with)コロナという状態でコロナと共存して、発症しなければ万事これでOKとなる訳で、仮にPCR陽性でも乗り切れることになります。重症化して死に至ることが最も問題であると筆者は考えています。
スウェーデンで最近発表(2020/6/29)されたon lineの bioRxiv preprint に興味あることが載っていました。
重症者では概ね抗体が見られるが、PCR陽性でも無症状や軽症者には抗体は無いか弱いかであり、それに対して、持続性のT細胞(キラーT細胞)の感染免疫力が出来ている。即ち、無症状の不顕性感染でも免疫力は出現する、つまり、このT細胞によってCOVID-19感染細胞を殺すということです(文献19)。
この原稿作成中に東洋経済ON LINE (2020/7/17)に掲載された高橋泰教授(国際医療福祉大学)が筆者と同様の考え方であることを知り、意を強くしました(文献20)。
<引用文献>
19. Takuya Sekine et al, Robust T cell immunity in convalescent individuals with asymptomatic or mild COVID-19, bioRxiv preprint, doi: https://doi.org/10.1101/2020.06.29.174888, June 29 (2020)
20. 高橋泰, 新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ,東洋経済ON LINE, 7/17 (2020)
〈参考文献〉
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•奥野修司 2020年3月19日、3月26日号 週刊新潮 •『トマトとイタリア人』内田洋子 シルヴィオ・ピエールサンティ 文藝春秋
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