新型コロナによって大打撃を受けている日本経済。「この国の財政が破綻する日は、いつ来てもおかしくない」と警鐘を鳴らすのは、経済評論家で元参議院議員の藤巻健史さんだ。著書『日本・破綻寸前』は、いかに日本経済が瀬戸際まで来ているかを豊富なデータをもとに解説。さらに、ハイパーインフレが到来したときの「自分のお金の守り方」まで具体的に伝授してくれる。そんな本書から、ぜひ押さえておきたいポイントをご紹介しよう。
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実際にドイツで起こったこと
1923年、ドイツでは1月に1個250マルクだったパンが、その年の12月には3990億マルクになったそうです。コーヒーを飲もうと喫茶店に入ったら、メニューには1杯4000マルクとあったのに、店を出るときには6000マルクに値上がりしていたという笑い話のような話もあります。
このパンの値段の推移をタクシー料金に換算すると、1月に700円だった初乗り(少し前の東京ではそうでした)が、12月には1兆1000億円になったことになります。
先ほど私が「タクシー初乗り1兆円時代には」と書いたのを読んで、「フジマキはまた大げさな」と思った方がいらっしゃるかもしれませんが、歴史上、このような例が存在するのです。
ちなみにこのハイパーインフレは、当時のドイツの中央銀行(ドイツ帝国銀行・ライヒスバンク)が異次元緩和を行った結果、起きています。ライヒスバンクは、これで異次元緩和に懲りたかと思いきや、第2次世界大戦で、軍事費調達をしたいヒットラーからの圧力に負けて、再度、異次元緩和を行ってしまいました。
その結果、終戦後ハイパーインフレの後始末のためにつぶされたのです。もちろん中央銀行は社会になくてはならないインフラですから、ドイツ連邦諸州銀行を経て、ブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)という新しい中央銀行が創設されました。
ライヒスバンクが廃されたことにより、ばらまきすぎた旧紙幣のライヒス・マルクも無効になり、ユーロが導入されるまでは、ブンデス・マルクすなわちドイツ・マルクが流通したのです。ドイツ政府は貨幣価値が復活した通貨(ドイツ・マルク)を新しく発行することで、ハイパーインフレを鎮静化させたのです。
ひどい目にあったのは、最後までライヒス・マルクを保有していた庶民です。ハイパーインフレが起こるかもしれない日本人は、この事例をしかと頭に入れておくべきだと思います。
2019年2月18日のロイター記事で、財政学の権威・土居丈朗慶應義塾大学教授が、「慶應の人間としてはあまり言いたくないが、福沢諭吉先生の肖像の1万円札が紙切れになるかもしれない」とおっしゃっていました。1万円札が紙切れということは1万円ではほとんど何も買えない、ハイパーインフレということです。
「異次元緩和」がハイパーインフレを招く
国会で「ハイパーインフレ」に関して質問したら、最初は「ハイパーインフレは戦争で供給手段が破壊され、モノ不足になった場合にしか起きない」との答弁がありました。
それでもしつこく聞いていたら、気がついたのか、前述のようには答弁しなくなったのです。ドイツは別に戦争で供給施設が破壊されたわけではありませんが、それでも異次元緩和でハイパーインフレが起きています。
過去のハイパーインフレは第1次世界大戦後、第2次世界大戦後、そして金本位制を放棄して紙幣が自由に刷れるようになった1980年以降に多発しています。私が懸念するハイパーインフレは、その1980年以降に起きた事例で、異次元緩和の結果のハイパーインフレなのです。
ハイパーインフレは、需要が供給より極めて大きくなったときに起きます。戦争による供給施設の破壊でも、この現象は起こりますが、何もそれだけで起こるわけではありません。貨幣のばらまきすぎによる自国通貨安でも起こるのです。
日本における貨幣とは円ですから、「お金の価値が暴落する」とは「円の価値が暴落する」ということです。円が暴落すれば、外国人は優良な日本製品を、べらぼうに安く買えるのです。
1ドル100円の時代、100円の日本製ボールペンを、米国人は1ドルで買います。1ドルが1万円になれば、100円の日本製ボールペンは米国人にとって1セントになるのです。日本製品への需要は供給(=製造量)を大幅に上まわります。
鎖国時代と同じように考えてはいけないということです。外需を考えて需給がバランスするかを考えねばなりません。また、円が暴落すれば、輸入品は高すぎてとてもではありませんが、日本人には手が出なくなります。それにつられて競合する日本製品の値段も上昇します。
為替が1ドル100円のとき、1ドルの輸入トマトは日本では100円です。しかし1ドルが1万円になれば、1ドルの輸入トマトは日本では1万円となってしまうのです。とても手が出ません。日本のトマト農家も、まさか以前と同じ100円では売りません。1個1万円に値上げするはずです。
日本・破綻寸前
新型コロナによって大打撃を受けている日本経済。「この国の財政が破綻する日は、いつ来てもおかしくない」と警鐘を鳴らすのは、経済評論家で元参議院議員の藤巻健史さんだ。著書『日本・破綻寸前』は、いかに日本経済が瀬戸際まで来ているかを豊富なデータをもとに解説。さらに、ハイパーインフレが到来したときの「自分のお金の守り方」まで具体的に伝授してくれる。そんな本書から、ぜひ押さえておきたいポイントをご紹介しよう。