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富士山大噴火と阿蘇山大爆発

2020.09.02 公開 ポスト

巨大隕石衝突と同じエネルギー&数百倍の頻度で日本を襲う巨大カルデラ噴火巽好幸(理学博士)

1707年に起きた「宝永大噴火」以降、沈黙を続けている富士山。専門家の間では、「いつ噴火してもおかしくない」と言われています。もし本当に噴火したら、首都圏はいったいどうなってしまうのか……。いざというときに備えるためにも読んでおきたいのが、「マグマ学」の権威、巽好幸さんの『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』です。緻密なデータを駆使し、噴火と地震のメカニズムを徹底解説した本書から、一部をご紹介します。

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「巨大隕石」衝突に匹敵

富士山宝永噴火は、ほぼM9超巨大地震と同じくらいのエネルギーだが、これより遥かに凄いエネルギーを持つのが、鬼界アカホヤ噴火のような巨大カルデラ噴火である。そのエネルギーはなんと大型台風約10個分、全世界の数年分の消費エネルギー全部を一気に放出するのである。

(写真:iStock.com/ronniechua)

地球上で最も大規模な噴火の例としては、3000万年程前に米国コロラド州デンバーの南西200キロメートル辺りで起きたカルデラ噴火や、200万年前の米国中央部ワイオミング州のイエローストーン、それに7万4000年前にインドネシア・トバ湖を作った噴火などがある。これらは鬼界カルデラ噴火の数倍~10倍のエネルギーであった。

ついでに、恐らく地球にとって最大の災害であろう「隕石衝突」のエネルギーを見積もっておこう。

遡ること6550万年前、現在のメキシコ・ユカタン半島の沖合、深さ数百メートルの海に、直径10キロメートル超の隕石が落下し、直径200キロメートル近いクレーターを作った

この隕石衝突エネルギーは、隕石の密度と大きさ、それに衝突時の速度が判れば運動エネルギーとして見積もることができる。ユカタン半島の場合は、なんと鬼界カルデラ噴火の300倍ものエネルギーである。

ちなみに、鬼界カルデラ噴火と同程度のエネルギーを持つ隕石衝突を想定すると、隕石の直径は1.5キロメートルほどになる。およそだが、このクラスの隕石衝突は数百万年に一度起こり、その結果直径30キロメートル程度の大きさのクレーターができる。鬼界カルデラ噴火によってできたカルデラは20×17キロメートルであり、この衝突クレーターとほぼ同じサイズの窪地である。

もちろん、地球が生きている証拠とも言える火山のエネルギー源は地球の中心をなす半径2500キロメートルの「核」と呼ばれる所にある。

核は鉄とニッケルの合金でできているが、一番外側(浅い所)でも3000℃以上、そして中心では5500℃もの超高温なのである。地球の中心がこれほど熱いのは、今から46億年前の地球誕生にその原因がある。

地球を始めとする惑星は、原始太陽の周りに散らばっていた物質が集積してできた。その時に膨大な熱エネルギーが発生したのだ。なんとこの創成期の熱がまだ地球の中心に残っているのである。

北海道と九州が危ない?

厖大な量のマグマを一気に噴き上げ、火山灰と火砕流が広い範囲を覆い尽くす巨大カルデラ噴火。しかし幸運にも、縄文時代以来私たち日本人はこの噴火に遭遇していない。

しかし、比較的データの揃っている過去12万年間を見ると、M7以上の巨大カルデラ噴火が日本列島で少なくとも10回は起こっている。その場所と、カルデラのサイズ、噴火の時期と規模、それに噴出したマグマの体積を図に示した。

またこの図には、いくつかの「広域火山灰」の分布も示してある。これらの火山灰は、巨大カルデラ噴火、特に火砕流の噴出時に舞い上がった火山灰が広範囲に堆積したものだ。

何度も述べたように、日本列島は地球上でも稀に見る火山密集地帯で、活火山は110を数える。ところが、そのうち巨大カルデラ噴火を起こしたものはわずかに7座。そしてこれらの札付きの火山は、北海道と九州に集中している

なぜこのようなことが起きるのか? また本州ではこれからも巨大カルデラ噴火は起こらないのか? これらの問題は私たち火山大国に暮らす日本人として重要な問題であるので、次章でしっかりと考えることにしよう。

一方で、その他の多くの火山では、山体噴火を繰り返してきたのである。中には、十和田火山や箱根火山のようにカルデラの形成を伴う噴火を起こしたものもある。

しかしその規模は「巨大カルデラ噴火」には遥かに及ばない。例えば、首都東京からわずか80キロメートルに位置する箱根火山では、今から6万6000年前に大噴火が起きた。

その時には都内でも20センチメートルの厚さの「東京軽石層」が堆積し、引き続いて発生した火砕流は横浜まで到達している。もちろん、今こんな噴火が起きたら大変なことになるのだが、それでもこの噴火の規模はM6.1。マグマの量は、巨大カルデラ噴火の8分の1以下である。

関連書籍

巽好幸『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』

3.11以降、日本の地盤が“激震”し続けている。2014年の御嶽山噴火、そして記憶に新しい熊本地震。300年以上も沈黙を続ける「活火山」富士山はいつ噴火するのか。そして、実は富士山よりも恐ろしいのが「巨大カルデラ噴火」だ。かつて南九州の縄文人を絶滅させたこの巨大噴火が阿蘇で再び起これば、数百度の火砕流が海を越えて瀬戸内海を埋め尽くし、大量の火山灰で日本中が覆われる。マグマ学の第一人者が、緻密なデータをもとに地震と噴火のメカニズムを徹底解説した、日本人必読の一冊。

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富士山大噴火と阿蘇山大爆発

1707年に起きた「宝永大噴火」以降、沈黙を続けている富士山。専門家の間では、「いつ噴火してもおかしくない」と言われています。もし本当に噴火したら、首都圏はいったいどうなってしまうのか……。いざというときに備えるためにも読んでおきたいのが、「マグマ学」の権威、巽好幸さんの『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』です。緻密なデータを駆使し、噴火と地震のメカニズムを徹底解説した本書から、一部をご紹介します。

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巽好幸 理学博士

1954年、大阪府生まれ。理学博士。専門はマグマ学。独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球内部ダイナミクス発展研究プログラムディレクター。78年、京都大学理学部卒業。83年、東京大学大学院理学系研究科(地質学)博士課程修了。京都大学総合人間学部教授、同大学大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授を経て、現職。2011年5月に幻冬舎より刊行された『パワーストーン 石が伝える地球の真実』を監修。

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