1707年に起きた「宝永大噴火」以降、沈黙を続けている富士山。専門家の間では、「いつ噴火してもおかしくない」と言われています。もし本当に噴火したら、首都圏はいったいどうなってしまうのか……。いざというときに備えるためにも読んでおきたいのが、「マグマ学」の権威、巽好幸さんの『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』です。緻密なデータを駆使し、噴火と地震のメカニズムを徹底解説した本書から、一部をご紹介します。
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火山灰でライフラインが止まる
現代日本で、巨大カルデラ噴火が起きたらどうなるかをシミュレーションしてみることにしよう。
(中略)
まず、最初のプリニー式噴火によって、九州中部では場所によっては数メートルもの軽石が降り積もって壊滅的な状況に陥る。
そしてクライマックス噴火が始まると、巨大な噴煙柱が崩落して火砕流が発生する。軽石と火山灰、それに火山ガスや空気が渾然一体となって流れる火砕流は、キノコ雲状に立ち上った灰神楽の中心から、全方位へと広がっていく。
数百℃以上の高温の火砕流はすべてのものを飲み込み焼き尽くしてしまう。そして発生後2時間以内に700万人の人々が暮らす領域を覆い尽くす。
出雲神話では八岐大蛇として火砕流を描いているという説もある。その目は赤く輝き、背には木が生え腹は血のように赤く、周りに血をまき散らしながら地を這い四方八方に広がってすべてのものを呑み尽くす。身の毛もよだつ描写であるが、決してオーバーな表現ではない。
九州が焼き尽くされた後、中国・四国一帯では昼なお暗い空から大粒の火山灰が降り注ぐ。そして降灰域はどんどんと東へと広がり、噴火開始の翌日には近畿地方へと達する。
大阪では火山灰の厚さは50センチメートルを超え、その日が幸い雨天ではなかったとしても、木造家屋の半数近くは倒壊する。降雨時には火山灰の重量は約1・5倍にもなる。その場合は木造家屋はほぼ全壊である。
その後、首都圏でも20センチメートル、青森でも10センチメートルもの火山灰が積もり、北海道東部と沖縄を除く全国のライフラインは完全に停止する。
水道は取水口の目詰まりや沈殿池が機能しなくなることで給水不能となる。
現在日本の発電量の9割以上を占める火力発電では、燃焼時に大量の空気を必要とするが、空気取り入れ口に設置したフィルターが火山灰で目詰まりを起こすために、発電は不可能となる。これにより、1億2000万人、日本の総人口の95%が生活不能に陥ってしまう。
これが最悪のシナリオだ
同時に国内のほぼすべての交通網はストップする。
5センチメートルの降灰により、スリップするため、道路は走行不能となる。従って除灰活動を行うことも極めて困難を極めるだろう。
また主にガラスからなる火山灰は、絶縁体である。この火山灰が線路に5ミリメートル積もるだけで、電気は流れなくなり、電車はモーターを動かすことができなくなるし、信号も作動しなくなるのだ。
さらに言えば、現在最も一般的なレールは15センチメートルほどの高さしかない。従って北海道以外の地域では、そもそもレールそのものが埋没してしまう。
このように、交通網が遮断されてしまうので、生活不能に陥った人たちに対する救援活動や復旧活動も、絶望的になる。
巨大カルデラ噴火の発生による直接的な被害者は、火砕流と降灰合わせて1000万人程度であろう。しかし、救援・復旧活動が極めて困難な状況下で生活不能に陥った1億人以上の人々は一体どうなるのだろうか?
人間は断食には比較的耐えることができるようだが、水は生命維持には必須である。最低で4~5日間水分の補給がないと、私たちは生きることができない。救援活動が殆ど不可能な状態では最悪の事態、つまり1億人以上が命を落とすことを想定しておく必要があるだろう。
富士山大噴火と阿蘇山大爆発
1707年に起きた「宝永大噴火」以降、沈黙を続けている富士山。専門家の間では、「いつ噴火してもおかしくない」と言われています。もし本当に噴火したら、首都圏はいったいどうなってしまうのか……。いざというときに備えるためにも読んでおきたいのが、「マグマ学」の権威、巽好幸さんの『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』です。緻密なデータを駆使し、噴火と地震のメカニズムを徹底解説した本書から、一部をご紹介します。