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「新しい習慣」の見つけ方

2020.08.14 公開 ポスト

秩序が変わっても、生活は続く。ステイホーム期間に私たちがした暮らしのこと一田憲子(編集者・ライター)/わたなべぽん(漫画家)

漫画家わたなべぽんさんのコミックエッセイ『さらに、やめてみた。』と、編集者の一田憲子さんによる『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』。コロナ禍で世間がざわめく時期に刊行された2冊には、自分の暮らしを見つめ直して、「新しい習慣」を作っていくという共通点がありました。

外の世界の秩序が大きく変わっていく中で、わたなべぽんさんと一田憲子さんははどんな風にステイホームの期間を過ごしたのでしょう? 暮らしを通して自分を保つために心がけたことについて、おふたりにお聞きしました。(構成・文 阿部花恵)

*   *   *

自分を責めずに、ゆるめよう

ぽん 『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』、最初から最後まで穏やかな気持ちで読ませていただきました。私は自己肯定感が低いせいか、普段から「自分はだめだ」と感じることが多いんです。ちょっとサボったりすると、すぐ罪悪感を抱いてしまう。でも「サボる日があるから、『やった日』の爽快感をより深く味わうことができる!」という一田さんの言葉に出会えて、そういう考え方もあるんだ、と気が楽になりました。

一田 私も自己肯定感は低いし、「こうあらねば」みたいな考え方をしてしまいがちなんです。でもそうなると理想と現実の落差が激しくなって、どうしても自分で自分を責めてしまいますよね。

ぽん 「こんな自分はダメだ」と勝手に自分で自分を追い込んでしまって。多分、親や学校から「決めたことはやり遂げなさい」と教わってきた世代だからかもしれません。でも、そういう思い込みをそろそろ少しゆるめてもいいのかな、と考えられるようになりました。

一田 私、普段は漫画をほとんど読まないんですが、「やめてみた」シリーズはどれも「あるある!」ネタばかりで面白く読ませていただきました。絵から伝わる生活のディテールも楽しいし、言葉の一つひとつにも共感できて。思考のプロセスが自分と似ている気がして、親近感も湧きましたね。いつもどんな風にネタを見つけているんですか?

ぽん 生活の中の「これ面倒だな」「ちょっと不便だな」「本当に必要かな」と疑問を感じたことは、メモを取るようにして、そこから発想を広げていく感じです。この不便をなくすためにはどうすればいいだろう? と自分なりに工夫をするのが大好きで、もうクセになっているんですね。漫画家になるずっと前からそうでした。

一田 なるほど。私の場合は、編集者として色んな人のお家に取材に行くので、そこで見た素敵なことを真似してみよう、と思うことが多いんです。自分の暮らしに当てはめて、「ここはあの人みたいに」と考えてやってみることがすごく楽しい。もちろん、いざやってみたら全然続かなかった、という場合もありますが。

穏やかな時間が流れたステイホーム期間

ぽん 一田さんはステイホームの期間はどんな風に過ごされましたか。

一田 わが家は夫婦ともにフリー同士なので、ずっと家にこもって仕事をしていましたね。大人のふたり暮らしだからなのか、意外なほど穏やかな日々でした。

ぽん 普段は喧嘩をすることも?

一田 もちろん。私が原稿に追われているときはしょっちゅうイライラしちゃって。でも今回は、今までにない事態が起きたことを一緒に受け止めてくれるパートナーがいて心強かった。いつもよりゆっくりと時間が流れていたように感じました。お子さんのいる家庭は大変だったと思うんですが。

ぽん わが家も夫とのふたり暮らしなのですが、冷静に行動しようと思う一方で、私の心が現実についていけない部分もあって。その反動か、「家の中を居心地よくしよう!」と思い立って忙しく動き回っていました。レンタルしたスチームクリーナーでキッチンや浴室をピカピカにしたり、床にワックスがけをしたりして、「あー、スッキリした!」って。

一田 私も、本棚からクローゼットまで、大物を夫婦で一緒に整理整頓して、家中の色々なものを捨てました。でも一番変わったのは自炊まわりかな。それまでは晩御飯を作るのに、毎日買い物に行っていたんです。でも外出も減らしたほうがいい状況になってからは、1週間分の食材をまとめ買いして、あるもので献立をつくっていくやり方に切り替えました。最初は無理かなと思っていたのですが、意外とやればできるものですね。同じメニューが続いても、「まあいっか」と思えるくらいになりました

皿を洗う私を応援して!

ぽん うちの夫は会社員なのですが、緊急事態宣言下ではリモート勤務に切り替わったんです。それまではずっと家にいる私がほとんど家事をしていたのですが、「ふたりとも家にいるのに私だけ家事をしてる」ことに段々とモヤモヤするようになって。それで、夫に言ったんです。「応援してくれ」って。

一田 応援?

ぽん 私が今から洗い物をするので、そばで声援を送ってほしい、と。そしたら本当に「がんばれー!」って応援してきたんですよ。

一田 旦那さん、かわいい(笑)。

ぽん でもさすがに「応援だけじゃ申し訳ない」と感じたらしく、その後は「俺も家事やるね」と自分からやってくれるようになりました。そこからは私がトイレ掃除するからお風呂よろしく、みたいにスタートを決めて一斉に取り掛かる家事タイムをつくったら、不平等感がなくなって家事が楽になりました

外の秩序が崩れたとき、生活から自分を取り戻す

一田 人生って一度にガラッとは変えられないけど、暮らしの中のことなら気軽にやめたり始めたりできますよね。私、「自分の暮らしを良い方向に変えてくれるものは何だろう?」と考えるのが好きなんです。それが新しい自分になるための一歩に繋がっていくから。

ぽん すごくわかります。自分にとっての「心地よさ」を積み重ねていくことって、大事ですよね。私、この時期に突然編み物がしたくなったんですよ。例年なら秋冬の趣味として楽しむのですが、「いや、やりたいことを我慢してストレスをためるのはやめよう」と思い直して、何を作るでもなくなんとなく編み始めたんです。ただひたすらに細長く編み続けて。

一田 面白い。精神の修行っぽいですね。

ぽん そういう効果もあったと思います。規則正しく編み目が並んでいくこと、それから触れると感じる毛糸の柔らかさに、すごく気持ちが落ち着いたんですね。外の世界の今までの秩序が崩れた時期だったからこそ、自分なりに生活のリズムを取り戻そうとしたのかもしれません。(後編に続く)

関連書籍

わたなべぽん『やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる、暮らし方・考え方』

「なんとなく使ってきたけれど、本当に今の自分に必要なんだろうか」。そんな思いで炊飯器、ゴミ箱、そうじ機といった生活必需品から、つい謝ってしまう癖、もやもやする友達付き合いなどを「やめてみた」日々。その果てに訪れた変化とは? 少しずつ生きるのが楽になっていくさまを描いた実験的エッセイ漫画。

一田憲子『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』

『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい! 』 『大人になってやめたこと』著者・一田憲子さん最新作! 自分をリセットしてくれる「人生の習慣」41 本書は、50歳を迎えた一田さんが見つけた、 年を重ねながら新しい自分になっていくための 「小さな工夫」をご紹介しています。 たとえば、 「ベッドカバーを掛けて、暮らしに"きちんと感"を出す」 「習い事は1年でやめてみる」 「大掃除は年末ではなく、年が明けてからゆっくり進める」 などなど、少しびっくりするけれど一田さんらしい発見と考察で 生み出されていったものばかり。 そして、ちょっとしたことではありますが、 やってみると暮らしと人生が自分らしく更新される、 そんな習慣たちです。 ・やるべきことをささっと ・昨日までを引きずらない ・本当にやりたいことが見えてくる そんな日々が送れるようになる、小さな工夫がいっぱいです。

わたなべぽん『もっと、やめてみた。 「こうあるべき」に囚われなくなる暮らし方・考え方』

本当に必要なのか分からないものを捨て、ぐ るぐるしがちな考えグセを手放したら生活に 意外な変化が生まれました。「ボディーソー プをやめたら石けん作りが趣味に」「深夜の 居酒屋のかわりにお茶漬けにしたら健康にな った」「無理に友達を作るのをやめたら、む しろ交友範囲が広がった」など、やめてみたら 新しい自分に出会えた実体験エッセイ漫画。

わたなべぽん『さらに、やめてみた。 自分のままで生きられるようになる、暮らし方・考え方』

「こうあるべき」をやめてみたら、本当にやりたいことが見えてきた。「サンダルをやめたら、歩くのが楽しくなってきた」「趣味のサークル活動をやめたら、好きな人とだけ付き合えるようになった」「共同貯金をやめたら、子どものいない夫婦として生きていく決心ができた」など、より自分らしく生きるためにやってみたこと。感動のシリーズ完結編。

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「新しい習慣」の見つけ方

『やめてみた。』シリーズ著者・わたなべぽんさんと、『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』著者・一田憲子さんの新しい暮らし対談です。

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一田憲子 編集者・ライター

OLを経て編集プロダクションに転職後、フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを行う。2006年、企画から編集、執筆までを手がける「暮らしのおへそ」、2011年に「大人になったら、着たい服」(共に主婦と生活社)を立ち上げる。自身のウェブサイト「外の音、内の香」(http://ichidanoriko.com/)も運営。著書に『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい!』『大人になってやめたこと』『おしゃれの制服化』などがある。

わたなべぽん 漫画家

山形県出身。第6回コミックエッセイプチ大賞・C賞を受賞しデビュー。AVなど成人男性向け商品を取り扱う古本屋の女性店長を務めた経験をコミカルに描いた『桃色書店へようこそ』、作画を手がけた『隠すだけ!貯金術』『家計簿いらずの年間100万円!貯金術』、自身のダイエット経験を綿密かつ面白く描いた大ヒットシリーズ『スリム美人の生活習慣を真似したら1年間で30キロ痩せました』『もっと!スリム美人の生活習慣を真似したら リバウンドしないでさらに5キロ痩せました』『初公開!スリム美人の生活習慣を真似して痩せるノート術』、汚部屋脱出を描いた『ダメな自分を認めたら 部屋がキレイになりました』など著書多数。最新の「やめてみた」シリーズは累計45万部を突破。近著は『自分を好きになりたい』『ズボラ習慣をリセットしたら やる気な自分が戻ってきました」など。

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