「30万円以下の罰金」って、結局いくら?
刑法の条文に定められている刑罰には幅が設けられており、様々な情状を考慮して決定されます(=量刑)。しかしそこには多くの裁判を経ていくうちに形成された「刑の相場観」があり、事件のタイプによって大枠は決まっているもの。
過去の判例を挙げながらその相場について解説している幻冬舎新書『量刑相場 法の番人たちの暗黙ルール』より、特に一般的な感覚と異なる(?)ものを抜粋してご紹介します。
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飲み会に参加せずに帰ろうとする同僚を引っ張って引きとめる―懲役・実刑
仕事帰りに飲みに行こうという話がまとまりかけて、1人だけ帰ろうとする同僚をみんなで服を引っ張ったり、取り囲んだりして引きとめ、駅のホームで電車に乗せなかったり、乗り換えをさせないという光景はよく見かけます。
これも実は犯罪で、暴行罪及び暴力行為等処罰法違反になります。
この点に関する先例も、かなり古い時代に遡ります。次のような判例です。
労働争議に関連して、駅のホームで電車に乗ろうとした使用者側の人物を労働者側が引きとめようとした事案で、「人が電車に搭乗せんとするに当たり、その被服を掴(つか)みて引っ張り、あるいはこれを取り囲みてその電車に搭乗するを妨ぐる如(ごと)きは、刑法第二〇八条第一項の暴行に該当するものとして処断」すべしとされ、懲役3月になりました(大審院昭和8年4月15日判決)。執行猶予が付かない実刑です。
やや特殊な背景があったわけですが、行為としては、日常的に駅のホームや電車の中で見かける光景と全く同じでした。大審院判決書には、次のようにその時の状況が記されています。
「事務所長が駅より電車に搭乗して矢板方面に赴かんとしたるに……3名は意思相通じ……同人の弁明を聴き容れずその電車に搭乗するを妨ぐ」
なお、このような場合には、数人で「共同して暴行」しているために、暴行罪のほか暴力行為等処罰法違反にも問われます。共同して暴行や脅迫を行うことは、特別に暴力行為等処罰法で重く処罰されます。
酔った同僚の介抱を途中でやめて放って帰る(同僚凍死)―懲役・実刑
週末の深夜ともなれば、駅のホームや道端で酔いつぶれて寝込んでいる人をよく見かけます。そのうちの大部分の人は、同僚や仲間と飲んでいたに違いありません。途中までは同僚や仲間と一緒だったわけで、そのときは面倒をみてもらっていたのでしょう。
この場合、何が問題かというと、酔いつぶれた側ではなく、面倒をみていた側の刑事責任です。酔っ払った同僚の介抱を途中でやめることは犯罪に当たり、保護責任者遺棄罪になります。もし、泥酔した同僚が凍死でもしてしまえば、保護責任者遺棄致死罪となってしまいます。
この点に関する先例として、次のような裁判例があります。
泥酔した仲間を介抱しながらかかえて歩いていたところ、その泥酔者が踏切近くで暴れ出したため、嫌気がさして置いていったという事案でした。その後、置いていかれたほうは、電車に接触して死亡しました。この事件では、途中まで仲間を介抱していた者に懲役1年6月が言い渡されました(横浜地裁昭和36年11月27日判決)。執行猶予の付かない実刑です。
この横浜地裁判決によれば、「泥酔者と同行した者は、社会一般通念上暗黙にこれが保護をなすべきことを承諾したものというべきであるから、保護を要せざるに至るまで継続遂行し、もって保護に当たるべき義務がある」とされています。
飲み会には、意外に多くのリスク、それも実刑のリスクが含まれているのです。
量刑相場 法の番人たちの暗黙ルール
「30万円以下の罰金」って、結局いくら?
刑法の条文に定められている刑罰には幅が設けられており、様々な情状を考慮して決定されます(=量刑)。しかしそこには多くの裁判を経ていくうちに形成された「刑の相場観」があり、事件のタイプによって大枠は決まっているもの。
過去の判例を挙げながらその相場について解説している幻冬舎新書『量刑相場 法の番人たちの暗黙ルール』より、特に一般的な感覚と異なる(?)ものを抜粋してご紹介します。