「30万円以下の罰金」って、結局いくら?
刑法の条文に定められている刑罰には幅が設けられており、様々な情状を考慮して決定されます(=量刑)。しかしそこには多くの裁判を経ていくうちに形成された「刑の相場観」があり、事件のタイプによって大枠は決まっているもの。
過去の判例を挙げながらその相場について解説している幻冬舎新書『量刑相場 法の番人たちの暗黙ルール』より、特に一般的な感覚と異なる(?)ものを抜粋してご紹介します。
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関係を持とうと女性をバイクに乗せて疾走(女性飛び降り受傷)―懲役・実刑
男女関係における少し強引な振る舞いについて見ていきましょう。
道で女性に「お茶を飲みませんか」などと声をかけ、相手がノーという意思表示をしているのに、さらに誘い続けることは軽犯罪法違反で9000円以下の科料になります(同法「他人の進路に立ちふさがって、若しくはその身辺に群がって立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとった者」)。実際に、通りがかりの女性をお茶に誘って検挙された例も見受けられます(最高裁昭和51年6月3日判決など)。
さらに何とか関係を持とうという意図のもと、女性をバイクの後ろに乗せて走ると、監禁罪となります。もし女性が意図を察して飛び降りて擦り傷でも負えば、監禁致傷罪となります。その場合の刑は、懲役10月で、執行猶予の付かない実刑です(最高裁昭和38年4月18日判決)。
この最高裁判決の事案は、乗せて行ってあげるなどと言ってバイクに2人乗りし、女性の家の前から約1キロ走ったところで、女性が飛び降りて全治5日の擦り傷を負ったというものでした。
なお、自分が性病にかかっているのを知りながら女性と情交してうつしてしまった事例では、傷害罪として懲役1年6月の刑となっています(最高裁昭和27年6月6日判決)。もちろん、実刑です。
女性とシティホテルに偽名で泊まった―拘留
一般のシティホテルを偽名で利用すると、旅館業法違反となります。旅館業法では、ホテル側に利用者名簿を完備する義務を定めるとともに、記入を求められた利用者は真実の記載をしなければならないと定めています。違反に対する刑は「拘留又は科料」となっています。
つまり、「たまにはゴージャスなシティホテルで特別の時間を」などと考えると、実名で利用するか、さもなければ前科を背負うかのリスクを負わなければならないわけです。
しかも、偽名で利用することは、意外に重い罪で、1回偽名で宿泊すれば拘留20日の刑になるとした広島高裁の判決があります。もっとも、この高裁判決は重すぎるとして最高裁で破棄差し戻しになっていますから(最高裁昭和42年12月21日判決)、実際にはそこまでの刑にはならないわけですが、現在でも、科料で済むとは限らないことに注意する必要があります。
なお、蛇足ですが、いわゆるラブホテルの場合は、旅館業法上の義務があることに変わりはないものの、利用者名簿の完備を文字通り要求すると営業が成り立たないため、事実上目こぼしされています。
量刑相場 法の番人たちの暗黙ルール
「30万円以下の罰金」って、結局いくら?
刑法の条文に定められている刑罰には幅が設けられており、様々な情状を考慮して決定されます(=量刑)。しかしそこには多くの裁判を経ていくうちに形成された「刑の相場観」があり、事件のタイプによって大枠は決まっているもの。
過去の判例を挙げながらその相場について解説している幻冬舎新書『量刑相場 法の番人たちの暗黙ルール』より、特に一般的な感覚と異なる(?)ものを抜粋してご紹介します。