「30万円以下の罰金」って、結局いくら?
刑法の条文に定められている刑罰には幅が設けられており、様々な情状を考慮して決定されます(=量刑)。しかしそこには多くの裁判を経ていくうちに形成された「刑の相場観」があり、事件のタイプによって大枠は決まっているもの。
過去の判例を挙げながらその相場について解説している幻冬舎新書『量刑相場 法の番人たちの暗黙ルール』より、特に一般的な感覚と異なる(?)ものを抜粋してご紹介します。
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母親による赤ん坊殺し―執行猶予
母親による赤ん坊殺しのうち、一定のものは嬰児殺と呼ばれて特別な取扱いがされてきました。
嬰児殺というのは、未婚の母が私生児を出産、その直後に殺害してしまったとか、育児に自信をなくした母親が産後の不安定な時期において発作的に幼いわが子を殺してしまったケースなどで、嬰児とは0歳児のことを指しています。これは、どこの国でも、殺人罪の中で特別に軽く扱われてきたという特殊な歴史的経緯があります。
日本でも、これまでは、嬰児殺は執行猶予が原則とされてきました。
たとえば、育児ノイローゼで生後4か月の長男を絞殺した事例では「懲役3年、執行猶予4年」(横浜地裁川崎支部平成13年9月19日判決)、産後に夫から離婚を言い出されて産褥期(さんじょくき)うつ病になり生後7か月の長男を窒息死させた事例でも「懲役3年、執行猶予4年」(東京地裁八王子支部平成10年10月26日判決)、さらには、出会い系サイトで知り合った男性の子供を身ごもった女子大生が分娩(ぶんべん)した新生児を窒息死させた事例でも、やはり「懲役3年、執行猶予4年」となっています(さいたま地裁平成14年11月1日判決)。
刑事裁判では、事件内容に酌量すべき事情がある場合には、過剰防衛など特別の場合でなくとも、法定刑を減軽できることになっています(「酌量減軽(しゃくりょうげんけい)」)。酌量減軽では、刑の免除まではできませんが、それでも、法定刑の下限を半分まで下げることができます。
殺人罪の法定刑は、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」となっています。懲役刑に執行猶予を付けるためには、懲役年数が3年以下である必要がありますが、殺人罪でも酌量減軽を行えば、今述べたように懲役3年以下とすることができます(下限は懲役5年の半分の2年6月となる)。結局、同情すべきケースでは、酌量減軽して刑を懲役3年以下に落とし、そのうえで執行猶予を付けることができるわけです。
嬰児殺については、本来的な意味で「同情すべき」といえるか疑問もありますが、執行猶予を付ける背景としては、相手の男性の無責任や夫の育児への非協力などが一因になっていることが多く、本人だけを責められない、産後の肥立ちの悪い被告人を刑務所に入れた場合、健康状態が決定的に悪くなるおそれはないか、被告人にほかにも幼子がいる場合、その子の養育はどうなるのか……等々が言われています。
加えて、古くは経済的困窮による「間引き」、近くは「未婚の母」を巡る世間の目などの社会史的背景があり、さらには、人工妊娠中絶問題と連続性を持つなど、複雑な状況が絡んでいます。
しかし、生まれたばかりの赤ん坊だからといって、その命が軽いということはできません。そのため、最近は、このようなケースを実刑とする裁判例も出てきました(鹿児島地裁平成18年3月10日判決、懲役3年の実刑)。
その判決文によれば、「従前、本件のようないわゆる嬰児殺の事案については、刑の執行が猶予されるケースが多かった。しかしながら、生命侵害という結果において何ら他の殺人と異なるところのない嬰児殺の多くを執行猶予とするような量刑の在り方が、今後も社会的妥当性を保ち続けるのか検討すべきである」とされています。
量刑相場 法の番人たちの暗黙ルール
「30万円以下の罰金」って、結局いくら?
刑法の条文に定められている刑罰には幅が設けられており、様々な情状を考慮して決定されます(=量刑)。しかしそこには多くの裁判を経ていくうちに形成された「刑の相場観」があり、事件のタイプによって大枠は決まっているもの。
過去の判例を挙げながらその相場について解説している幻冬舎新書『量刑相場 法の番人たちの暗黙ルール』より、特に一般的な感覚と異なる(?)ものを抜粋してご紹介します。