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こういう旅はもう二度としないだろう

2020.08.28 公開 ポスト

旅ができるということは奇跡のように素晴らしいこと。

イタリア「花のドロミテ 山塊を歩く」銀色夏生

「人生こそが長いひとつの旅なのです」(文庫版あとがきより)という銀色夏生さんが、海外への旅を綴ったフォトエッセイ『こういう旅はもう二度としないだろう』。思うように旅ができないこの夏、銀色さんのちょっと変わった旅の思い出を通じて、世界を感じてみてください。

ファー
ラガツォイ小屋から歩く
空が広い〜
ビーツとチーズとハムのサンドイッチ

2016年6月21日(火)22日(水)1日目・2日目

18時20分 成田空港 第2ターミナル Cカウンター前集合。

私はこれからイタリアへ行くのだ。ドロミテという名前すら知らなかったのだが。ドロミテというのはイタリアンアルプスで、イタリアの北の方らしい。たくさんの山があるところ。その上(北)はすぐオーストリア。スイスアルプスは有名だが、そこに近く、それみたいなものなのだと思う。ベネチアから行くらしい。その山岳地帯の初夏の美しいお花畑をハイキングする。
なんて素敵。

まず、その前に、私は今、品川駅にいる。
品川駅に来ると必ず買うおにぎり屋さんのおにぎりがある。明太高菜マヨネーズ。マヨネーズが表面にたっぷりと塗られていて香ばしい焦げめもついている。2個買うのはどうかと思ったけど、ちりめん山【さん】椒【しよう】もついでに買ってしまった。
成田エクスプレスでその2個をペロリと食べる。

今回の旅の連れ(初めて連れがいてとてもうれしい)、義理の妹、なごちんと出発ロビーで待ち合わせ。いたいた。
集合場所で係の方と会い、チェックインのことなどを聞く。添乗員のナカムラさんは関西から出発する参加者に同行するとのことでベネチアで合流予定。今回の旅は、東京より4名、大阪より6名の計10名。
チェックインして、本屋で本を買って、JALのラウンジでスープ、カレー、チャーハン、スパークリングワインをいただく。おいしかった。すでに食べすぎではないか……。

エミレーツ航空、ドバイ経由。21時20分出発。
機内で食事が2回。魚(○)、サーモンソテー(○)、白ワイン(△)。
夜中3時にドバイに到着。これから9時15分まで時間をつぶさなければならない。6時間以上もだ。つらい。
広いドバイ空港内をトコトコ歩いて、どこかで眠れないか場所を探す。同じように乗り継ぎを待っている人が多く、さまざまな民族衣装を着たさまざまな国の人がいた。ロビーは明るくてきれいで場所はたくさんあった。でも横になれるようなベンチはなく、ロビーの椅子に座って仮眠する。2~3時間寝たら目が覚めた。ミールクーポンをもらっていたので、「フードコートで何か食べよう」と立ち上がる。いろいろ見て、インド料理の炊き込みごはん、ビリヤニにした。「これおいしいよ」と私が勧めて。ライスがホロホロしていておいしかった。
売店でチョコがけデーツを買う。

9時15分発の飛行機でベネチアへ。
機内食、サーモンソテー、おいしい。ミニスナックセットも。それと赤ワイン。

ドバイから5時間半、成田から丸1日ぐらいかかって、現地時間13時35分にベネチア到着。とても疲れた。入国審査に時間もかかったし。
ロビーで東京組4名、大阪組6名、添乗員のナカムラさんの、一同11名が無事揃う。それに現地ガイド、フランチェスコというカッコイイ男性と、チッチリーナという若くてかわいい女性。
2台の車(乗用車と小型のバン)にスーツケースをぎゅうぎゅうに詰め込んで分乗し、午後3時に空港を出発する。

途中、水の色がきれいな湖(サンタ・カタリーナ湖)のほとりで写真ストップ。湖の色は、水入れで筆を洗ったみたいな白濁したきれいな水色だった。

5時過ぎに今日の宿泊地、ミズリナ湖畔に到着。美しい湖と雪をかぶった山々と湖畔のホテル。まさに絵ハガキのよう。
「ホテルソラピス」というプチホテルにチェックイン後、1時間かけて湖畔を歩いて一周する。お花を探しながら。小さな黄色いキンポウゲ、青いリンドウ、ピンクのエリカなどが咲いていた。
ホテルに戻って夕食。ふたつのテーブルに分かれる。前菜を3つからひとつ、メインも3つからひとつ選ぶ方式だった。私は、前菜にマカロニトマト、メインにポークを選ぶ。味は、マカロニはおいしかったけど、メインのお肉はそうでもなかった。味つけがぼんやりしていて。生ビールは3・5ユーロ(420円ぐらい)、白ワイン4分の1カラフェで3・5ユーロ。デザートに、名物のアップル・シュトゥルーデル(アップルパイのようなお菓子)が出た。「これはこれから何度も出ますよ」とナカムラさん。

食後、なごちんと湖のほとりを散策する。夜の9時でもまだ明るい。
「瞑想しよう」と言って、湖に面したベンチに座って目をつぶり、鳥の鳴き声を聞く。
360度全方向からいろいろな鳥の声が聞こえる。チーチー、クックー、チュンチュン、チチチチ、ホーホー、ピー。サラウンドだ。

シャワーに入って、10時に就寝。山の上の湖のほとりの小さな山小屋風ホテルの一室にひとり。……静かで寂しいほど。

歩く
マルガ・オンブレッタの山小屋風カフェ
ピザ


6月23日(木)3日目

5時に起床。
7時45分、朝食。パンの種類が多く、甘いパンもたくさんあって、わりと楽しめた。
8時半、出発。
今日からハイキング開始。変わりやすい山の天気のためにいろいろな準備も怠りなくした。日焼けを防ぐ帽子、速乾シャツ、レインスーツなど。
今日のハイキングは、ドロミテを代表する山のひとつ、トレ・チーメ・ディ・ラヴァレードを一周。
途中、お昼用の買い出しのために車がスーパーに立ち寄った。
その店の酒類の棚に、興味を惹かれたお酒の瓶を発見した。エーデルワイスの花の刺繍がガラス瓶にびちっと貼りつけられている。なんだか素敵……、とじっと見る。その隣の琥珀色のお酒も気になった。3段階に濃淡があって。エーデルワイスのお酒の瓶が欲しいなあと思いながら、でも重いしなあ……とあきらめる。またどこかで出会うかもしれない。そしたら買おうかな。

山の駐車場に着いた。添乗員のナカムラさんの指導で軽くストレッチをしてから歩き始める。ナカムラさんは丁寧で落ち着いた女性。いい感じの不思議な味がある。

空は雲ひとつなく晴れわたっていた。
最初の長い坂道はけっこうきつかったけど、休み休み登る。ビューポイントのフォルチュラ峠(2545メートル)でフランチェスコが用意してくれたお茶とクッキーでひと休み。
そのあと行く予定のロカテッリ小屋はただいま閉鎖中ということで、ショートカットして近道の岩場を歩く。そのゴツゴツした岩、岩、岩、の小道にはよく見るといろんな小さなお花が咲いていた(イワカガミダマシ、コケマンテマ、キョクチチョウノスケソウなど)。
ランガルム小屋というところで昼食。お昼のサンドイッチはチッチリーナが毎回作ってくれる。今日はチーズとハムのサンドイッチ、りんご、チーズ。
食後、雪解け水でできた3つの池をめぐる。この池、年々小さくなっているそう。10年後にはなくなってしまうだろうとのこと。
トレイルに戻り、サッソ・ディ・ランドロの麓を歩く。遠くにオーストリアアルプスが小さく見えました。

さて、みなさんは、たまに何かを思い込んで一瞬はまってしまって、しばらくして振り返ってバカみたいだったと思うことはないでしょうか。私はそれが今日ありました。
というのも、私はこのハイキングのために日焼け止めを2種類買って用意していました。標高が高く紫外線も強いのでしっかりとした日焼け対策を! ということでしたので。
私は肌が弱いのでできるだけナチュラルなものを買いました。ひとつは赤ちゃんでも使えると書いてあった、アロエやカモミール、カレンデュラを使ったオーガニックな天然由来成分100パーセントの日焼け止めクリーム。
が、出発直前に何かで「日焼け止めは肌に悪い」という文章を読み、ふむふむ、そうだな! と急に思い、この炎天下、日焼け止めを塗らずに、代わりに天然のオイルが何も塗らないよりも肌にいいと聞いたので顔に塗って歩きました。たまに塗り足しながら。
でも、よく考えたら、そんなこと思わずにあのオーガニックの日焼け止めを塗っても別によかったのではないかと思いました。私は日焼け止めを毎日塗るわけじゃなく、このハイキング中だけしか塗らないのだから。
そう思ったのが今日のハイキングも終わりにさしかかった今です。その頃には顔は太陽の光をさんざん浴びて、てっかてかでした。たっぷり日焼けもしました。こんな高地の雲ひとつない晴天だもの。シミそばかすも増えたかも。なんか損した気分。
そんな微妙な思いを抱えつつ、2時過ぎ、最初の駐車場に帰着。
(心の中で小さく)バンザイ……。
ショートカットしたので4時間ほどの初日のハイキングでした。

次に向かったのがコルティナ・ダンペッツォという大きな町。明日、鉄人マラソンが行われるとかでにぎわっていました。ここで2時間弱のフリータイム。
デパートやスーパーマーケットに入って、いろいろ見る。食品を見るのは楽しい。名物の乾燥ポルチーニ茸がたくさんあった。いい匂い。クンクン。
これを買おうか、ずいぶん迷って、なぜか! クノールのインスタントポルチーニ茸スープを買った。「nutella」というパンに塗るチョコレートクリームみたいなのがあって、「これおいしいよ」となごちんが言うのでそれも数個買う。
またしばらくそぞろ歩いてから、教会の前にあったホテルのオープンテラスで、ビールで乾杯。

本日のホテルはそこからほど近い山小屋風ホテル。だいたいどこもこんなふうなのかな。古く小さいながらもかわいく清潔な部屋。レースのカーテンとベッドカバー。廊下に飾られた絵、ルームナンバーと花のイラスト。
夕食も同じように3つの中からチョイス。私はトマトパスタと牛ステーキにしたが、味は同じくパッとしなかった。地ビール4ユーロ、ワイン4分の1カラフェで6ユーロ。
ここで食事しながらみなさんと簡単に自己紹介。
おだやかに控えめに、和気あいあいとしたみなさんの話を聞く。私たちが義理の姉妹だと聞いておばあさんたちが「まあ。いいわねえ。義理の姉妹で旅行なんて」「世間にあまりないわよ」と、みんな一様に驚いていた。でもお酒も進み、口も滑らかになって、「でも、遺産相続になったらねえ」「もめるわよ」とうれしそうに言い出した。

食後、なごちんと今日の感想を話した時、なごちんが「あの遺産相続って言い出した時、バーンと椅子蹴って帰ろうかと思った!」と鼻息荒く言うので笑った。血気盛んななごちんである。でも私もちょっと嫌だなと思った。けどよくあることだとも思った。ツアーで食事中、人と話すってこういうこと。人の意見を聞かされるってこと。
10時就寝。

登っていく途中、羊が虫のように小さく見えた

 

続きは幻冬舎文庫『こういう旅はもう二度としないだろう』で!

関連書籍

銀色夏生『こういう旅はもう二度としないだろう』

今、目の前のここが、今日の私たちの愛すべき世界で、見えているものが現実です。見えなくなったものをいつまでも追いかけるのはやめて、この世界でできることを今までと同じようにイキイキと体験したい。(文庫版あとがきより)

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