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暮らしの中に終わりと始まりをつくる

2020.09.03 公開 ポスト

「人の目」を気にせず、人生のハンドルを自分で握るためのショートヘア一田憲子(編集者・ライター)

「暮らしのおへそ」「大人になったら、着たい服」の編集ディレクターであり、『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい!』『大人になってやめたこと』などの著者である一田憲子さんの最新作が『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』です。

コロナウイルスの影響で生活スタイルが変わり、家事や掃除のやり方について改めて考えた方も多いのではないでしょうか。本書では、数多の暮らし上手な人を取材し続けてきた一田さんが実践している、生活をリセットしていく小さな習慣をたくさんご紹介しています。

未曽有の状況でまだまだ不安定な日々ですが、本書で自宅時間を少しでも発見のあるものにして頂けたら幸いです。

 

1か月に1度美容室に行きます。私はショートカットなので、こまめに切らないと、なんだかボサボサした印象になってしまうので。さらに、1か月ほど経つと生え際に白髪がポツポツと出てきてしまい、それを染める目的もあります。20年以上同じ美容室で同じ担当者に切ってもらっているので、毎回友人に会う感覚で通い、あれこれおしゃべりするのも楽しみです。

仕事やビジネスの話からおしゃれ、メイク、スピリチュアルな話まで。時には、仕事の愚痴を聞いてもらうこともあるし、人間関係の悩みの相談にのってもらうことも。美容室って、日常の外にあるカプセルのような場所だよなあと思います。いつもの仕事がらみの人間関係とはまったく接点がないし、損得関係もなし。かといって友人のような近しい間柄でもないし、ほどよい距離感があり、だからこそ話せることがある……。

女性にとって髪を切りに行くというのは、新しく生まれ変わる時間でもあるんじゃないかと思います。人の手でシャンプーをして、丁寧に髪を切りそろえ、トリートメントをしてセットをしてもらう。人の手というものは、思っている以上に癒し効果があるもの。美容室に行っている2~3時間の間だけ、私だけに向き合って、私をきれいにしてくれる……。それは、とても幸せな時間です。

私がショートカットになったのは9年ほど前に「大人になったら、着たい服」という雑誌を立ち上げてからでした。25歳ぐらいまでは、ロングのソバージュヘア。その後は、肩より少し下ぐらいのセミロングでした。でもあの雑誌で、50歳、60歳という人生の先輩の取材をさせていただくうちに、かっこよく歳を重ねている人の多くがベリーショートだということに気づいたのです。

「あのさあ、このごろ取材する人がみんなショートヘアでさ」。ある日、美容室に行ってそんな話をしました。まだ自分の髪を切るなんて、まったく思っていなかったのに、話すうちに「じゃあ、切っちゃう?」「え? う~ん、どうしよう?」「切っちゃおうかな?」「よし、切っちゃおう!」といきなりショートヘアになったのでした。

きっと取材をしながら、私はすでに胸の奥底で「私もショートにして、あの人たちみたいに、年齢にとらわれず、かっこよく生きたい!」と考え始めていたのだと思います。バッサリと髪を切る勇気がまだ持てなかったのに、美容室で「自分を変えたい」という思いの種を拾い出してもらった気分でした。

40歳を過ぎた頃から、無意識のうちになんだか焦り始めていました。フリーライターとして、そこそこ経験を積んできたけれど、雑誌の世界では、フットワークの軽い若いライターの方が使いやすかったりします。私が今までやってきたことってなんなんだろう? キャリアを積むってどういうことなんだろう? と悶々としていたのでした。でも、取材で出会った先輩たちは、みなさん堂々とおしゃれを楽しんでいらっしゃいました。若い時には、どんな服を着ても似合うものです。そして、服を選ぶ指針は、「モテたい」「素敵に見られたい」という他人の目線だったりします。でも……。歳を重ねて「若さ」や「モテ度」を手放した時、新たに手にするのが「自分らしさ」というものさし。そうか!「年齢」という尺度で人生を計らなければいいんだ! と知り、ずいぶん気楽になったことを覚えています。

髪をバッサリ切ると、途端に頭が軽くなり、服装もメンズライクに変わっていきました。そして、人生の後半は「誰かの目」を気にするのをやめて、人生のハンドルを自分で握ろう、と思ったのです。そんな私の変化を、美容室の担当者はずっと見ていてくれました。でも、髪の毛を切り終わって「さよなら」とドアの外に出れば、ふたりの関係はそこで終わります。互いの話をするのは髪の毛を切っている間だけ。続きはまた1か月後。そんなドライな関係がいいなあと思います。1か月に1度髪の毛を切りに行く。そして、自分のことを見つめ直す……。それは、私にとって自分を定点観測する時間でもあるようです。

関連書籍

一田憲子『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』

1日、月ごと、年ごと。自分をリセットしていく人生の習慣41。暮らしも人生も、「一段落」を取り入れると、みずみずしく動き始めていきます。

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暮らしの中に終わりと始まりをつくる

『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい!』『大人になってやめたこと』著者・一田憲子さん最新作! 自分をリセットしてくれる「人生の習慣」41。

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一田憲子 編集者・ライター

OLを経て編集プロダクションに転職後、フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを行う。2006年、企画から編集、執筆までを手がける「暮らしのおへそ」、2011年に「大人になったら、着たい服」(共に主婦と生活社)を立ち上げる。自身のウェブサイト「外の音、内の香」(http://ichidanoriko.com/)も運営。著書に『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい!』『大人になってやめたこと』『おしゃれの制服化』などがある。

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