「暮らしのおへそ」「大人になったら、着たい服」の編集ディレクターであり、『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい!』『大人になってやめたこと』などの著者である一田憲子さんの最新作が『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』です。
コロナウイルスの影響で生活スタイルが変わり、家事や掃除のやり方について改めて考えた方も多いのではないでしょうか。本書では、数多の暮らし上手な人を取材し続けてきた一田さんが実践している、生活をリセットしていく小さな習慣をたくさんご紹介しています。
未曽有の状況でまだまだ不安定な日々ですが、本書で自宅時間を少しでも発見のあるものにして頂けたら幸いです。
2~3か月に1度、思い立ったら歯医者さんに歯石を取ってもらいに行くようになりました。最初のきっかけは、口臭が気になったから。「もしかして虫歯かな?」と思って行ってみたら、「歯石が溜まっているからかもしれませんね」とのこと。「へ~、そうなんだ」と、クリーニングしてもらうと、口の中が隅々までさっぱりして、歯はツルツルになりました。
私は歯のエナメル質が弱くて、幼い頃から歯医者通いが欠かせませんでした。きちんと歯磨きをしていても虫歯になる……。さらに30代、フリーライターとして仕事量がぐんと増えた頃は、歯医者さんに行く時間を作ることがなかなかできませんでした。当時、月刊の女性誌にかかわっていて、毎日その会社の社員のように編集部に入り浸り、帰ってくるのは深夜近く。そんな生活の中では、自分の体のことなんて二の次だったのです。虫歯も放りっぱなしで、どうしても痛くてがまんできなくなったら歯医者さんに駆け込むという状態。あまりにも歯がボロボロで、歯医者さんに口の中を見せることさえ恥ずかしかったなあ。
あの頃の後遺症で、あちこちが治療痕だらけになったけれど、やっと今、定期的にチェックを受け、私のオーラルケアが正常になりました。歯石を取りに行くと、毎回虫歯や歯茎の状態まで診てもらえるのもいいところです。
暮らしの中に「プロの目」を意識的に組み込むことは大事だよなあと思います。今年、久しぶりに人間ドックに行きました。初めて大腸の検査も受け、2~3日前から食物繊維の多い野菜や果物を食べてはいけないと知り「え~!」としょんぼりしたり、当日は大騒ぎをしながら朝から下剤を飲んだり。しかも検査の結果ポリープが見つかり、後日もう一度除去の治療を受けに行くはめに。生体検査の結果が出るまで、なんとなく胸に石が詰まっているような重苦しい日々を過ごしました。幸い良性で大事には至らなかったけれど、自分の体の細胞の中に、たったひとつ異常が見つかるだけでもう、昨日と同じ今日はやってこないのだとしみじみと実感。あっち(病気)とこっち(健康)の境界線は、ほんの身近にあるのだと、健康であることは奇跡のように幸せなのだと、改めて当たり前の平凡な日々に感謝したくなりました。
自分のことは自分がいちばんわかっていると思い込みがちですが、実は少しもわかっていない。このことを自覚しておくだけでも、毎日がずいぶん変わってくると思います。定期的に第三者の目で、自分を分析してもらうことは、普段「見えていない」ものを意識的に「見る」ことにつながります。「私ってなんだろう?」と、哲学的、文学的に考える機会はあるけれど、生物学的、科学的に自分を知るということは少ないもの。でも、自分を計るものさしは、多ければ多いほど、多角的に「自分」という個体を分析することができるんじゃないかと思うのです。
歯がきれいかどうかなんて「生き方」を左右する問題じゃない……と思っていました。でも、毎日きちんと食べ健康を維持するにも、笑顔で人と会うにも、「歯」はとても重要です。普段はそんなことを考えもしないけれど、歯石を取りに行く日だけ意識を向けることができる……。
最近では、口の中がなんだかザラザラしてきたな、と自分でわかるようになりました。歯医者さんに予約を入れて、夕方いつものスーパーに行く前にちょっと立ち寄るだけで、すっきりとした気分で明日が迎えられます。きちんと定期的にケアに通うことは、自分を支える柱を、もう1本増やすことなのかもしれません。
暮らしの中に終わりと始まりをつくる
『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい!』『大人になってやめたこと』著者・一田憲子さん最新作! 自分をリセットしてくれる「人生の習慣」41。
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