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高学歴エリート女はダメですか

2020.09.21 公開 ポスト

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男らしさ、女らしさ…それは太古の昔から続く巨大な遊戯【再掲】山口真由

華やかな学歴・職歴、野心をもった女として生きるときの、世の中の面倒くささとぶつかる疑問を楽しく描いた『高学歴エリート女はダメですか』(山口真由著)は、女性だけでなく、男性読者からも共感を得ながら、絶賛発売中。本書から試し読みをお届けします。

山口真由著『高学歴エリート女はダメですか』幻冬舎刊

「誘われるのを待つ→神に祈る」は有効なのか

私は、たぶんフェミニストにはなれないのだと思う。

医師の男性と話してたら、ふとした会話の弾みに、彼が

「っていうか、女性側からプロポーズってしていいんだっけ?」

と聞いた。この人、すごいこというな。医者の中には、ときとして、驚くほど保守的な人間が存在する。

がしかし、私の価値観もこの人と大差ないと今になって知る。この手の話題について、多くが保守的な価値観を持っているのではないか。「リベラル」といわれる人(または、それを気取る人)は、それをあえて口に出さない。それが良識だということになってるから。結局、中身じゃなくて、上辺が違うだけじゃないかって思う。

誘われるまで待つ、請われるまで待つという受け身は骨身に染みたもので、自分から誘うなんて勇気は、私にはない。この人は素敵だと思ったときに、そうタイミングよく向こうから誘ってくれるわけでもないから、為す術のない私は、神に祈るという、合理的な現代女性の標準から著しく外れた方法に頼る。この方法が効果を顕あらわしたことは、残念ながらいまだかつてない。

「10円単位の節約」は、男女で違った意味を持つ

私が、フェミニストになれないって思うのは、男が富を女が美を提供するって価値観をよしとしてるんじゃないかって感じるとき。小倉千加子さんに「カネ」と「カオ」の交換っていわれたあれね。

先日、弁護士事務所を経営している大先輩とごはんに行った。私の他には研究者が二人。庶民的な中華のお店で、熱々の料理を回転テーブルでまわしながら食べるスタイルは気楽で楽しい。食べログにも「リーズナブル」「コスパがよい」とのコメントが並んでいた(人はなぜ、「安い」をこうも繕いたがるのだろう?)。会計の段になったときに先輩は、

「ここは僕の家の目と鼻の先で、僕の庭みたいなところだから」

といって、伝票をさっと手に取ってレジに向かった。う~ん、さっすがー。先輩ありがとうございます! 戻ってきた先輩は、私たちに向かって、

「ここはもちろん奢ってもいいんだけど、うーん、それだと気を遣わせるかもしれないから、一人5000円ね」

ふむ?

そう、そのとき確かに私は「ふむ?」と思ったのだった。

財務省時代から通った霞が関の大衆居酒屋でも、似たような経験をした。勘定書きがまわってきたときに、役所時代の上司はそれを見て私にこういった。

「山口は8000円でいいよ」

出したお金を上司が持っていって会計を済ませてくれた。で、私はお店の人に「私の分の領収証をください」と頼んだのだ。経費として落とせるのかわからないが、弁護士という自営業者になった後のたしなみだった。そこで、お店側は何を間違ったのか、私の分だけでなく全体の領収証を持ってきた。そこには、二人分の食事代の合計額として「お食事代 1万円」とあった。

これは「ふむ?」レベルを超えて、切なくなった。

女同士だったらこうはならないと思う。むしろ、さくっと割り勘にしてもらったほうが、気を遣わないし、次に誘いやすい。主婦がスーパーで10円単位で切り詰めて買い物している分には「節約上手のいい奥さん」なのに、男だとみみっちいっていうのは、男女差別ではないかといわれそう。それなら認めてしまおう、私は男女不平等主義なのだろう。

(写真:iStock.com/Omelchenko)

男たちの美意識が壊れる瞬間をできるだけ見たくないと思う。少し無理をしてでもかっこつけたままでいてほしいと思っている。プライドを保っていてほしいというのは、彼らへの気遣いのみならず、私の切なる願いでもある。こういう態度はフェミニストから批判されるはず。

朝から髪を巻くのに疲れた女と、生意気な女をもてなすのに疲れた男

で、男がここまでやせ我慢をしてダンディズムだか何だかを提供しているときに、女はどんな価値を提供しているのってことになる。要するに「美」なのだろう。「カネ」と「カオ」っていってしまえば、身も蓋もないけどね。

私の友達は「美容室とか、お化粧品とか、めっちゃお金かかるじゃん? 男の人ってそういうのないじゃない? そう思うとお会計持ってもらってもいいかも」といっていた。はあちゅうさんも美容代に月7万円かかるって計算して、奢ってもらって釣り合う的な発言をしてた気がする。

これは見た目の「美」だけではない。かわいげを求められることもあるし、ときとしてそれは無知であることをも意味する。別の友達は「知ったかぶりされても、『そうなんだ~。すごいね』って主導権を譲ってるからって思えば」といっていた。

(写真:iStock.com/lolya88)

デートのときに「食前にはいつも何を飲みますか?」って聞かれて、「ビールか、シャンパンが多いです」と答えたら、「ミモザって知ってます?」と聞かれたらしい。

知らないわけないじゃんって喉まで出かかったけど曖昧に笑ってたら、「ミモザ二つ」って頼んじゃったんだって、相手が。「シャンパンの大半をジュースで割ったうえに、大して値段も変わらない飲み物なんて、私は全然いいと思わない」のだけど、ニコニコ笑ってるわけだからってさ。うん、そうかもね。

私に似たような経験があるとしたら、女の子扱いされて飲み会に駆りだされたことかな。

財務省のときにも政治家の先生が職員を集めて飲みたがってるみたいなことが、たまーにあって、「今日は、仕事はいいから、そっちを優先しなさい」みたいにいわれ、なんで私だけって思った経験がないわけじゃない。

弁護士になってからも、なんだかよくわからないが、他の法律事務所の中には打ち上げにきれいどころの秘書をずらっと並べるところもあるらしく、「お宅はそういうことできないんですか?」っていうプレッシャーがお客さんから来ることもあるらしく、で、秘書をかき集めるのはパワハラだかセクハラだか、その両方だかでまずいから、弁護士ならいいだろうと飲み会要員に選んでいただいたことがあった。

「そんなの屈辱!!」って抗議するほどの強い思想性もない私は、でも、なんだか煩わしいと思った。同期の男の子たちはその間にも仕事をしていて、結局は男女かかわらず仕事で評価されていくわけでしょ。

この飲み会は仕事じゃないけど、その割にけっこう大変だったりする。だいたい「俺は客だぞ!」的な、高圧的なオジサマが相手で、彼が度量の広さを発揮できるくらいの適度な生意気さ加減が喜ばれ、だけど絶対に本気で怒らせちゃいけない。それなりに狭まったストライクゾーンに投げ込むことになり、とことん気疲れする。せっかくの高い料理だって、上手に味わえない。

いや、別に文句をいうつもりはないの。上の世代には現役パワハラ&セクハラの人が残ってるし、そのうち一部は声が大きいのか、まじでパフォーマンスが高いのか、相当出世している。政財界で力がある人なら、めちゃくちゃな要求も無下には断れず、財務省のときだって弁護士になってからだって、上司は私の前で密かに手を合わせる。「今回は、本当にごめんね」って。

私は、もしかしてただだるいだけじゃなくて、こうやって「女の子」扱いされることに、どこかで満ち足りていたんだろうか。そういうことが一切なくなると、寂しいと思うようになるのかな? うーん、そこまで突っ込んで考えてみるのも怖いけど、とにかく、心のどこかで、富を提供し美と交換するという価値観を肯定してしまっている。

だが、私の古い価値観とは逆に、世の中は中立性を志向しようとしている。イギリスの若い世代は、最近だと「レディファーストもしないほうが無難」なんだって。エレベーターを降りる順番を譲ると、部下の女性のご不興を買ったりするから、もう肩書の高い順番から降りようって。

現代人は、男も女も押しなべて疲れている。女たちは眠い目をこすりながら早起きして髪を巻くのに疲れたし、男たちは大して好みでもないうえに、奢ってもらって当然って態度の生意気な娘をもてなすのに疲れている。もう、お互い、こんなの投げ出したい気持ちなのだろう。

「男らしさ」「女らしさ」というルールを決めて、お互いにやせ我慢してそれを守って称賛しあう──太古の昔から続く、この巨大な遊戯はそのうちなくなってしまうのだろうか。私の中学なんて、女の子が家庭科で刺繍ししゆうしている間、男の子は技術科で金属加工とかしてたけど、ああいうのは今はもうやらないのかな。それとも、また揺り戻しがあるのだろうか。

どちらがいいのか、私にはまだよくわからない。今決めているのは、めんどくさいから今日はメイクしないってことだけ。ということは、美の提供も何もとっくに放棄したわけだから、5000円徴収されたとかでグチグチいうのも、やめないとね。ほんとに今までごめんなさい……。

関連書籍

山口真由『高学歴エリート女はダメですか』

いい大学も出てキャリアも積んだ。恋愛もして人生のパートナーを見つけようとがんばってきた20代、30代のはずだった。けど気づくと37歳の独り身で、結婚はこのまま無理かもな……と思ったら、なんだか急に寂しくなった。どうしてこうなったのか? 走れども走れども幸せのゴールが遠のく気がするのはなぜ? 等身大の女子たちや、女子アナ、芸能人まで下世話に観察、おおいに自省しながら、ハイスペック女子の幸せをあれこれ模索してしまう“ひとり茶話会”的エッセイ。

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高学歴エリート女はダメですか

華麗なる学歴はもとより、恋も仕事も全力投球、成功への道を着々と歩んできた山口真由氏。ある日ふと、未婚で37歳、普通の生活もまともにできていないかもしれない自己肯定感の低い自分に気づく――。このままでいいのか? どこまで走り続ければ私は幸せになれるのか? の疑問を抱え、自身と周囲のハイスペック女子の“あるある”や、注目の芸能ニュースもとりあげつつ、女の幸せを考えるエッセイ集。

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山口真由

1983年、札幌市生まれ。東京大学法学部卒。財務省、法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。家族法を学ぶ。2017年にニューヨーク州弁護士登録。帰国後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程に入学し、2020年に修了。博士(法学)。現在は信州大学特任教授。「超」勉強力』(プレジデント社、共著)いいエリート、わるいエリート(新潮社)、『高学歴エリート女はダメですか』(幻冬舎)、「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)など著書多数。 
山口真由オフィシャルTwitter

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