昨今、国民的議題となっている皇位継承問題。「女性天皇」と「女系天皇」の違いなど、わかっているようでわかっていない部分も多いでしょう。ジャーナリスト、椎谷哲夫さんの新書『皇室入門』は、皇室の歴史から制度、宮内庁の役割、祭祀、元号、皇位継承問題の論点まで、皇室について幅広く網羅した入門書。日本人なら知っておきたい知識と教養が身につく本書から、一部をご紹介します。
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「平成」はどのように決まったのか
元号の法制化から約10年後。昭和天皇の崩御に伴って新元号「平成」が決まり、「元号を平成に改める」旨の政令が公布された。昭和は64年1月7日で終わり、翌1月8日から平成元年となった。
「平成」が決まった経緯は次の通りだ。
7日午前、竹下登内閣の小渕恵三官房長官はこの日に備えて事前に選考を依頼していた国学者たちから「平成」「修文」「正化」の3つの候補の提出を受け、午後から首相官邸で「元号に関する懇談会」を開き各界の関係者の意見を聴いた。
ここで「平成」が最終候補に残り、官房長官からの連絡を受けた藤森昭一宮内庁長官が即位されたばかりの天皇に内奏。午後2時すぎからの臨時閣議で正式決定された。
これを受けて「元号を平成に改める」と記された政令文書が新天皇の元に届けられ、「御名」の署名と「御璽」の押印がなされた。これとほぼ同時刻、小渕官房長官が午後2時半すぎに官邸で「平成」の文字が書かれた色紙を掲げて発表した。このシーンはテレビで中継され、視聴率は6割近くに及んだ。
実際の政令の公布手続きは、この後に「官報」に掲載されて完了した。この間、たとえ数秒前であっても新元号がマスコミに漏れないよう政府関係者は細心の注意を払った。
当時の小渕官房長官の説明によると、「平成」の由来は、『史記』に記された「内平外成」(内平らかに外成る)、『書経』の「地平天成」(地平らかに天成る)から採ったもので、「内外も天地も平和が達成される」という意味とされている。
今回の譲位による改元では新元号の公表時期が議論になった。政府は平成30年5月に官房副長官をトップとする「新元号への円滑な移行に向けた関係省庁連絡会議」を立ち上げ、「官民の情報システム改修などの便宜」を理由に実際の改元の1ヶ月前に公表する方針を決めた。
公表とは「決定」のことであり、改元の「政令」は譲位前の今上天皇の「御名」によって公布されることになる。つまり、今上天皇が次の天皇の御代の元号を決めてしまうことになってしまう。
改元の法的根拠となる元号法は「皇位の継承があつた場合に限り改める」と規定されており、(崩御によって)新天皇が即位された時点で改元手続きが行われることを意味している。
今回の譲位があくまでも「特例」であることを考えれば、元号法の趣旨はそのまま活かされるべきで、元号を事前決定するのであれば元号法自体を変えなければ矛盾が生じることにならないだろうか。
世間を騒がせた「誤報事件」
テレビや新聞や通信社などマスコミにとって、改元時の取材は、国家機密とも言える新しい元号をスクープできるかもしれない何十年かに一度のチャンスである。100年以上前の明治から大正への改元に際しても、熾烈な取材合戦が繰り広げられ、当時の東京日日新聞(現・毎日新聞)などが“世紀の誤報”を流す結果となった。
大正15(1926)年12月25日午前1時25分に大正天皇が48歳で崩御された。東京日日新聞は、その直後に「聖上崩御」のタイトルで号外を出し、「元號は『光文』樞密院に御諮詢」と報じた。続けて同日午前4時発行の朝刊最終版(市内版)でも「元號制定『光文』と決定──樞府會議で」との見出しを掲げた。
しかし、当時の宮内省が同日午前11時頃に発表した新元号は「昭和」だった。この誤報で社長が辞意を表明する騒ぎとなり、最終的には編集の責任者である編集局主幹が辞任した。この時は、同紙だけではなく報知新聞や都新聞も「光文」の号外を配り、讀賣新聞と萬朝報も同様の内容を朝刊に掲載した。いわゆる光文事件である。
一方、時事新報は午前10時の速報版で「昭和に決した」との号外を発行し、これがスクープとなった。
ただ、この騒ぎについては、当時の宮内省が、情報が漏洩して号外に載ったため急遽、内定していた「光文」を「昭和」に差し替えたという説もあるが、実際には最終段階で3つに絞られた元号候補に「光文」はなかったと言われる。
ちなみに、昭和は四書五経の中の「百姓昭明、協和万邦」から採られた。百姓とは国民のことで、「国民が普遍的な正しい考えを示すことで、世界の国々が心を合わせて仲良くできる」との趣旨である。江戸時代には、これとまったく同じ出典で、元号の「明和」(西暦1764年~1771年)が制定されている。
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この続きは幻冬舎新書『皇室入門 制度・歴史・元号・宮内庁・施設・祭祀・陵墓・皇位継承問題まで』をお買い求めください。
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