有名俳優の逮捕によって、注目を集めている「大麻」。現在の日本では「危険な薬物」というイメージが強いですが、ヨーロッパをはじめ先進各国では、レクリエーション目的のみならず、医療、エネルギー、環境問題などさまざまな分野で、その有用性が認められています。大麻とはそもそも何なのか? どんな可能性を秘めているのか? 大麻のすべてがわかる『大麻入門』より、内容の一部をお届けします。
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いつから「犯罪」になったのか
2008年現在、日本において大麻は、「大麻取締法」という法律によってその取扱いを厳しく制限されている。
無資格で大麻を所持及び譲渡した者は、5年以下の懲役。それが営利目的だった場合は、7年以下の懲役及び200万円以下の罰金。栽培や輸出入をおこなった者は、7年以下の懲役。同様に営利目的の場合は10年以下の懲役及び300万円以下の罰金に処せられる。
大麻取締法は、麻薬や覚せい剤の取締法規同様に、大変厳しい罰則を設けている法律であるが、この法律が成立した歴史やその中身をつぶさに見てゆくと、他の禁制物質のそれとは異なった側面を知ることができる。
大麻取締法は、1948年に正式に施行され、現在に至っているが、この法律が誕生するまでには様々な出来事があった。
そもそも日本には、この法律が成立する以前には大麻を取り扱うことには何の罰則もなかった。そればかりか、大麻は優良な農作物として国が奨励し、全国各地で生産されていたのである。
遥か縄文時代に遡るといわれる日本における大麻の生産は、第二次世界大戦前までは稲と並んで重要な位置を占めていた。また、大麻取締法が制定された時点では、日本では一般的に大麻を吸引する習慣はなく、虫除けのために葉を燃やして屋内を燻したり、きこりや麻農家の人々がタバコの代用品として使用する程度のものであった。
世界の様々な宗教でおこなわれてきた精神変容のための大麻の吸引は、日本でも一部の山岳信仰や密教の中でおこなわれていたが、法律で取り締まられるような犯罪意識は全くなかったのである。また、「印度大麻煙草」という名で販売されていた大麻は、喘息の薬として一般の薬局でも市販されていた。
100年前は「完全合法」だった
日本では1925年に批准された、万国アヘン条約の中の第二アヘン会議条約によって、大麻は初めて世界的に統制の対象となった。
国際的に問題となっていた麻薬を統制するために作られた万国アヘン条約においては、アヘンやコカインのほかに、大麻を統制品目として入れるようにアメリカから強い要望があり、結果的に大麻も規制品目の一つになった。
しかし、この時点の日本では、第二アヘン会議条約は印度大麻草などの医療用大麻を規制する条約だと認識されており、国内で栽培している大麻は、昔と変わらずに日本人の生活になくてはならない農作物の一つだと考えられていた。
ヨーロッパでも、この時点では各国で、昔と変わらない大麻畑の風景を見ることができた。
1930年、第二アヘン会議条約の批准に伴い「麻薬取締規制」が制定される。この規制内容は、「印度大麻草、その樹脂、及びそれらを含有するもの」の輸出が内務大臣の許可制とされただけで、製造は届出制、販売は全く自由であった。この時点でも、国内では大麻を吸引する習慣はなく、それによって事件が起こったこともなかった。
全国で栽培されていた大麻は、その繊維を素に衣服を作り、下駄の鼻緒の芯や畳の縦糸、蚊帳や漁網などに使用されていた。繊維を取った後のおがらは、お盆の迎え火や送り火で燃やしたり、茅葺屋根の一部や土壁の素材としても使用された。さらに、大麻の種子である麻の実は粟や稗などと並んで貴重な食料であり、搾った油は灯油や食用などにも使われ、貧しい農村の命を支えてきた。
化学繊維やプラスチックなどが存在しなかったこの時代の大麻は、我々が想像するよりも遥かに重要な農作物だったのである。そのため、第二アヘン会議条約を基に制定された「麻薬取締規制」では、規制対象を一般の大麻ではなく、印度大麻草に特定したと考えられる。
しかし、第二アヘン会議条約の公定訳を読むと、原文のIndian Hempを「印度大麻」と訳しているだけではなく、
『印度大麻とは商業上如何なる名称を以て指示せらるるを問はず、大麻(「カンナビス・サティバ・エル」)の雌草の乾燥したる、花又は果実の附く枝端にして未だ樹脂を抽出せざるものを言う』
と書かれている。
日本の政府や官僚は、日本の大麻がカンナビス・サティバ・エルであることを、本当に知らなかったのだろうか。あるいは、故意に知らないふりをしていたのだろうか。
いずれにしても日本政府は、第二アヘン会議条約が規制している大麻は印度大麻であり、我が国の大麻とは異なる種類のものであるという見解の下に、大麻規制をおこなっていったのである。
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