「暮らしのおへそ」「大人になったら、着たい服」の編集ディレクターであり、『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい!』『大人になってやめたこと』などの著者である一田憲子さんの最新作が『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』です。
コロナウイルスの影響で生活スタイルが変わり、家事や掃除のやり方について改めて考えた方も多いのではないでしょうか。本書では、数多の暮らし上手な人を取材し続けてきた一田さんが実践している、生活をリセットしていく小さな習慣をたくさんご紹介しています。
未曽有の状況でまだまだ不安定な日々ですが、本書で自宅時間を少しでも発見のあるものにして頂けたら幸いです。
私はどうも鈍感なようで、普段滅多に肩凝りを感じません。でも、美容室などでマッサージをしてもらうと、大抵「凝ってますね~!」と驚かれます。ずっと同じ姿勢でパソコンに向かっているので、凝っていて当然! 問題はそれを「感じない」ということです。でも、感じないはずの肩凝りをずっと放りっぱなしにしていると、ある日突然具合が悪くなります。首が回らなくなったり、ひどい風邪を引いて熱を出したり。いつも、どうしようもなくなってから、慌てて近所の鍼灸院の先生に「どうにかしてください~」と泣きついていました。ある日、先生に「一田さんね、これからは、具合が悪くなる前に、疲れを溜め込む前に来てください」と言われて、そうか! と思ったというわけです。
体の不調は、知らないところで進行し、蓄積されているもの。気が張っていると疲れを感じないし、忙しいと、疲れていてもつい頑張ってしまいます。若い頃、どんなことも「気力」さえあればなんとかなると思っていました。あの頃、私にとって仕事は「力まかせにゴールに持ち込むもの」だった気がします。
経験を重ねるにつれ、私の仕事の仕方は、どんどん非効率的になってきました。かつては、とにかく与えられたことを、時間内に仕上げることが大事でした。でも、今は「こんなやり方もあり?」と考え、「あっちのやり方でもいいかも?」と試行錯誤し、回り道をすることで、何かを拾い上げることのワクワク感を知ってしまった……。すると、多少締め切りを過ぎたって「しょうがない!」と自分のタガを外せるようになるし、「きちんと」完成させるより、多少ゴツゴツしても面白い方がいい! と考えるようになります。それは、私のような文章を書く仕事でなくても、お店でものを売る時にも、家で料理や掃除をする時にも、子育てでも、同じだと思うのです。
仕事でも暮らしでも、自分の力で何かを始めようとする時、いちばん楽しいのは、オセロを黒から白へパタパタとひっくり返すように、「わからない」を「わかる」に変えていくプロセスだよなあと思います。苦手な掃除を自分の暮らしに取り入れる方法を編み出したり、面倒くさくても、日々のご飯をおいしく食べる方法を工夫したり……。そんな過程を楽しめるようになると、だんだん「完成させる」ことがすべてではない、と思えてきます。そして「わからない」ことがあるって、素晴らしいぞ! とも思うのです。
ただし、困ったことが一つ起きるようになります。それが、「大変さ」と「面白さ」の境目がなくなるということ。手間がかかるし、面倒くさいんだけど、これをやり遂げた後に、また私が知らないキラキラした世界が広がっているのかも。そう思えば、どんなにしんどいことがてんこ盛りでも、なんだかワクワクしてしまう……。
その結果、知らず知らずのうちに、体に負担がかかり、疲れが溜まってしまう、というわけです。でもここで倒れてしまってはもったいない! 世の中には、まだまだ「わからない」ことがいっぱいあるのですから! だからこそ、早め早めに体のメンテナンスをしたいと思うのです。
私のかかりつけの先生は、とても腕がいいので、どこに鍼を打たれているのか、ほとんど感じません。そして、鍼灸は行く前と後で、体調が劇的に変わるわけでもありません。でも、気がつけば、なんとなく調子がよくなっている……。それが、私にとっての「ちょっと早め」の体調管理です。
何より仕事の大きな山を乗り越えた時、「体を労わる」という時間を持つことで、ひとつ何かが「終わって」、次の新しいことが「始まる」という気持ちの切り替えができます。私にとって鍼灸は、何かを面白がるための自分を愛おしむ儀式のような気がします。
暮らしの中に終わりと始まりをつくる
『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』『面倒くさい日も、おいしく食べたい!』『大人になってやめたこと』著者・一田憲子さん最新作! 自分をリセットしてくれる「人生の習慣」41。
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