有名俳優の逮捕によって、注目を集めている「大麻」。現在の日本では「危険な薬物」というイメージが強いですが、ヨーロッパをはじめ先進各国では、レクリエーション目的のみならず、医療、エネルギー、環境問題などさまざまな分野で、その有用性が認められています。大麻とはそもそも何なのか? どんな可能性を秘めているのか? 大麻のすべてがわかる『大麻入門』より、内容の一部をお届けします。
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「思考停止」から抜け出そう
現在では、大麻の効果は、THC、CDB、CBC、CBGなどのカンナビノイドやフラボノイドによって引き起こされることがわかっており、医薬品としての効能は、これらの含有割合によって大きく変化することも知られてきた。
天然の植物である大麻をそのまま使用する「医療大麻」とは別に、大麻から成分を抽出して製剤化したものは「カナビス製剤」と呼ばれている。通常の薬剤の場合、成分を抽出した製剤の方がピュアな成分を多く含んでいるため、天然素材を摂取するよりも効き目が良い場合が多い。
しかし、大麻の場合は、天然の大麻をそのまま摂取する方が、有効な場合が多いのである。そのため、製薬会社も企業として新たにカナビス製剤を開発することをためらい、結果としてアメリカに住むがんやHIVなどの患者は、規制されている大麻を入手せざるを得ない状況が続いている。
一方、非犯罪化により、医療大麻の使用が可能なオランダでは、「ベドローカン」「ベドビノール」など、THCの含有成分の異なる大麻や、多発性硬化症患者向けで精神変容作用の少ない「べディオール」なども開発されている。
ところで、医療大麻の欠点は、摂取方法にある。
大麻をタバコのように吸引した場合、同時に多くのタールを吸引してしまう。このタールの量はタバコを吸引した場合よりも多く、発がんの恐れが高い。そこで、近年では「ベポライザー」という器具を使用して吸引する方法が推奨されている。
ベポライザーは大麻を燃焼させずに、成分が気化する温度まで熱して吸引する器具である。これによって、大麻を燃焼させて煙やタールを吸引することなく、大麻に含まれる医療成分のみを摂取することが可能になったのだ。
海外では、医療用だけではなく、嗜好用に大麻を吸引する際にもベポライザーを使用する愛好者も増えてきた。世界的な禁煙ブームの中で、ベポライザーを使用する人は、今後も増加することが予想される。
進化している「カナビス製剤」
EUでは、個人的な大麻使用の非犯罪化を導入する国が多く、医療大麻としての使用も広くおこなわれている。同時に、様々なカナビス製剤も使用されている。その中のいくつかを簡単ではあるが紹介しよう。
「サティベックス」は、イギリスのGWファーマシューティカルズが開発した舌下型のスプレー製剤である。この薬は、天然の大麻の特定品種をクローン化したものから、液化炭酸ガスを使用して成分を抽出し、それを小型スプレーに入れたものである。
この薬は、2005年に多発性硬化症患者向けの鎮痛剤としてカナダで認証されたが、十分な効果が見られずイギリスでは不許可となっている。
オランダのエコー製薬が開発したカナビス錠剤の「ナミソール」は、THCが99パーセント以上の特別品種の大麻から、成分を抽出してドライパウダー化したものである。大麻を気化して摂取するベポライザーによる方式よりも効き目は遅いが、血中への吸収率は高い。まだ臨床実験の段階であるが、このナミソールはカナビス製剤としては有望視されている。
合成カンナビノイドには、前述の「マリノール」同様に、「ドロナビノール」という成分が入っている。これは、アメリカ政府が天然の大麻の摂取を規制する過程で作り上げられたものだ。合成カンナビノイドには、制吐剤の「セサメット」や「WIN55,212‐2」がある。
脳内マリファナの発見によって、フランスが開発した抗肥満処方医薬品が「アコンプリア」だ。この薬は、ブロッカーというカテゴリーに属し、サノファ・アドベンティス製薬が開発したものである。
このように21世紀に入ると、EUを中心に医療大麻の研究開発と医療現場が大きく変わっていった。そして、その変化の波は現在も広がり続けている。
この現象は、アヘン条約当時から続いた国際的なパワーバランスや、市場経済主義・グローバリゼーションに代表されるアメリカ的価値観から、「ロハス」などの生命地域主義・バイオリージョナル的な価値観へと、世界が大きく転換していることの表れといえる。
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この続きは幻冬舎新書『大麻入門』をご覧ください。
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