「オタク同士で暮らしたら、絶対楽しそう!」そんな夢を見たことがあるオタクは多いはず。そうではなくても、このコロナ禍、「淋しくて不安」「孤独死したらどうしよう」「でも、異性と一生を約束して暮らすのは面倒!」など、一度は誰かとの生活について考えた、ひとり暮らしの方はいるのではないでしょうか。
先日発売となった『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』の著者、藤谷千明さんは、東京都内の賃貸一軒家(5LDK)でアラフォーのオタク4人で暮らして、約1年半になります。
アラフォーのオタク女子4人は、同居する一軒家でどのような春夏秋冬を過ごしてきたのか。オタクならではの会話が飛び交う、楽しい日常を、本書より一部抜粋してお届けします。
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いうて残機は常に3
入居して約2カ月、季節の変わり目のせいか、丸山さんから「体調不良で動けない」とLINEで報告があった。一方、角田さんは残業で毎日午前様、星野さんが仕事で1週間ほどの出張。ハウスの残機は私だけになったわけだ。
LINEグループが盛んに動く。
角田「丸山さん、大丈夫ですか? 遅くなるけど、なにか買い物があれば買ってきますよ」
丸山「すまん……。ヨーグルトとバナナを……」
私「これから私、外出するんでついでに買ってきますわ」
星野「家のことできなくてごめんなさい」
私「謝ることではない~」
買ってきたものを丸山さんの部屋のドアノブにひっかけ、その旨をまたLINEする。そして粛々と、やっておいたほうがいい家事をやる。
この暮らしは、持ちつ持たれつが基本にある。逆に私が締め切り前でテンパってるときは、ほかのみんなが家事などをやってくれる。ゲームでいえば、常に残機が3つある状態だ。3機がダメになってもゲームオーバーにならないのは、かなり強いのでは。
丸山さんは4~5日くらいで元気になったようだ。その間、私がしたことといえば、たまに頼まれたものを買いに行くくらい。たとえばこれが恋人や家族だったらこうはいかないだろう。それなりに手厚いケアが必要になると思う。さきほども「義務は増やしたくない」と書いたけれど、家族や恋人の場合、「手厚いケア=愛」みたいになりがちじゃないですか? やらないと不機嫌になったりとか。そういう義務が必要な空気がないのがこの家で、私はそれを気に入っている。
とはいえ、のっぴきならない悲しさから、慰められた夜もあった。人間が“やられて”しまうのは、体調不良だけではない。
4月1日の夕方、ネットニュースにとあるバンドの解散の報が流れてきた。エイプリルフールにそりゃあないよ。リビングのテーブルにつっぷしていると、同居人たちが続々と帰ってくる。
角田「藤谷さん、大丈夫ですか?」
私「うっ、活動は休止状態だったものの……」
丸山「今更言わないといけない理由があったんですかね……。お茶いれましょうか?」
角田「お寿司買ってきたんですけど」(ドン!)
星野「私はビールを」(ドン!)
私「うお~ん」
ダイニングテーブルに寿司とビールが並ぶ。空気がまるでお通夜である。でも実質お通夜みたいなものか。同居人たちは同世代なので、そのバンドの人気や影響力の大きさは知っている。
丸山「『いつまでもあると思うな親と推し』とは言うが……」
星野「とにかく今日は食べて」
角田「少しは飲んで」
私「うお~ん」
その夜は、寿司を食べながら各々の思い出を語るのであった。まさにお通夜だ。「悲しい」を共有してくれる人が家にいるのは、悪くないな。