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「怖い」を求める人たち

2020.09.25 公開 ポスト

僕らはなぜ「怖いもの」を追い求めるのか松原タニシ(芸人)/村田らむ

富士の樹海、廃墟、ドヤ街など、人が近寄りがたいものを取材し続ける"怖いもの知らず"の村田らむさん。一方、"怖いもの見たさ"から事故物件に住み、その様子を生配信し続ける松原タニシさん。心理現象や怪談話をもとにした作品が次々にヒットし、ホラーブーム到来と言われる今。人はいったいなぜ「恐怖」を追い求めるのかについて、怖いものならなんでもござれのお二人に代表して、その理由を聞いてきました。

 

――お二人は普段から親交が深いと聞いていますが、一緒にいたときに怖い出来事を経験したことはありますか? 

村田らむ(以下、らむ) 
一緒に旅行したことがあったよね。その旅行の最中に、とある墓地に夜遅く行ってみようということになって、電車に乗ったんです。終電だったからか僕らしかいなくてガラガラでしたよね。

松原タニシ(以下、タニシ)
そうそう。それで、夜も遅いから二人ともウトウトしていたんです。だけど、もう着くかなってときにパッと目を開けたら、僕の横には女子大生が、正面にはOL、そしてその横にギャルが座っていたんです。らむさんの横にも清楚系女子が座っていましたね。

らむ
しかもみんな美人だったよね。あれはビックリしたし、ちょっと嬉しかった(笑)。

タニシ
ようやく電車が駅について僕らが降りようとしていると、彼女たちも全員立ち上がったんです。だけど、僕らが駅に降り立ったときには、彼女たちは誰一人いなかった……。

らむ
僕らが降りたところって山奥にある終点の駅なんですね。周りに夜までやっているお店とかあるわけでもないし、誰かが迎えに来てパッと車に乗ったわけでもなかった。あれは不気味だったよね。今思えば、女子があんな時間に僻地の駅に行くこと自体、不自然だった。

ーー目的地に着く前からすでに引き寄せていますね……。村田さんは樹海や廃墟などを長年取材されていて、松原さんも事故物件に住んで年柄年中"怖いもの"に接していますよね。お二人のなかに「恐怖心」はまだ残っているのでしょうか?

タニシ
多少の馴れはありますが、怖いと感じる場面はありますよ。以前、大阪の廃神社に、夜一人で行ったんですが、たどり着いた瞬間に、「ガタガタガタ」って音と「うおおおおお」という唸り声と、光る目が見えて……。

らむ
おっ! 幽霊?

タニシ
いや、それがだったんです!

らむ
獣か(笑)。あっ! 確かそれ、生配信していたよね。どう対処したんだっけ?

タニシ
大河ドラマ『真田丸』での「背水の陣」の戦い方を思い出したんです。「背水の陣」とは本来、退路からの攻撃を避けるという意味でいちばん理想的な戦い方らしいんですね。だから、山肌を背後にゆっくり移動して、前面に意識を集中させて1時間半くらいにらみ合っていました。

らむ
ちょっと用事を済まして配信を見に戻ったら、タニシさんまだ対峙しているよって思ったもん(笑)。

タニシ
その瞬間は、死んでも配信しなきゃって必死でしたから。でも、らむさんだってこれまでに怖い思いをたくさんしてきていますよね。

らむ
確かに、廃墟とかに行くとヤンキーがいて絡まれたりするから、そういう意味ではね。「人」で怖い思いをすることはあるね。

タニシ
これは命とられるみたいな瞬間って、ありました?

らむ
ドヤ街にある福祉センターでホームレスに取材をしていたら、後ろから「俺の悪口言ってんのか!」っていきなり男に怒鳴られて。振り返ると手に包丁握ってんの。あのときはさすがに怖かったな~。下手に動いたら刺されそうだから、どうしようと思っていたら、ちょうどセンターの営業時間終了のチャイムが鳴って。男の気がそれたおかげで間一髪逃がれた。

危ない目には何度も遭っているという、らむさん

――お二人ともそんな思いをしてまで、なぜわざわざ怖いものを追い続けるのですか?

タニシ
僕は事故物件に住んでいるから普通の人が抱く恐怖感が特別なものではなくなってしまった。だからこそ、自分にとっての恐怖をもっと探したいという気持ちがあるんです。しかも、「これはもしや幽霊かも?」と思うことはあっても、はっきり見たことがないので、見られるものなら見てみたい。そして、この世でいまだ説けてない謎を知りたいという気持ちも大きいですね。

らむ
僕自身も同じような感じかな。僕がライターになったきっかけは、上野公園にいるたくさんのホームレスが、いったいどういう人たちなのかを知りたい、話を聞いてみたいと思ったからでした。

タニシ
らむさんが樹海の取材をしようと思ったきっかけも面白いですよね。

らむ
「樹海では方位磁石が効かない」などの噂が本当かを知りたくて、取材をはじめたんです。実際には、方位磁石はちゃんと効きますよ。だけどあるとき取材で、樹海に一人お置き去りにされたことがあって(笑)。iphoneに入っている方位磁石を使って出口に向かってみるんだけど、全然出られない。GPSの地図で現在地を見たら同じところをぐるぐる回っているわけ。あれはさすがにビビりました。だけど結局それは、iphoneケースについていた磁石に反応して、方位磁石が狂っていただけだった(笑)。

タニシ
全然怖くない話(笑)。もっと恐ろしい話ありますよね?

らむ
樹海のイベント絡みでビビった話はあるよ。イベント終わりに、ものすごいテンションの高いおばちゃんに「サインしてください」って声かけられたの。大阪で行われたイベントだったんだけど、福岡からわざわざ駆け付けてくれたと言っていて。

タニシ
樹海のイベントのお客さんは6割くらいが女性らしいですね。それで、そのおばちゃんがどう怖い話につながるんですか?

らむ
それがさ、そのおばちゃん、一通りしゃべったあとに、「私、明日樹海に行って、死ぬんです!」って言うんだよ。これはさすがにドキッとして、やんわりと「5月に僕、『ホームレス消滅』っていう新刊が出るんで、それを読んでから考えませんか?」と引き止めたら、「でも、もう決めちゃったんで〜」と流されて。まるで、せっかくおすすめのレストラン教えてもらったけどごめん〜みたいなノリだった。しかも、自分の死に場所に「村田さんの本を置いておくから見つけてね」とまで言われて。ちなみにまだそれは見つけられてない……。

――今の村田さんの話に、取材現場が凍りつきました……。ちなみに、お二人が「怖いもの」を取材するうえで気を付けていることはありますか?

タニシ
事故とかに遭わないよう、とにかく死なないように気をつけています。お墓に行くヤツは死者を冒涜しているとか、日頃からいろいろ叩かれているんで。もし僕の身に不幸なことが起きると、彼らの主張が正しくなって「ほらみたことか」となってしまう。あと、矛盾したらあかんとも思っています。心霊スポットに行っても、「どうか成仏してください」とかは言わない。だったら、動画を回すなんて不謹慎なことするなよ、と思われるので。

らむ
確かに変にいい人ぶるとそれが剥がれたときに叩かれやすいから、いい人ぶらないほうがいいと思う。僕も長年ホームレスを取材しているけど、「救おう」みたいなスタンスは持ってない。あくまでも、彼らにも人生があって、こういう人がいてもいいじゃないかという目線ですね。

タニシ
僕は事故物件ってこういうことでしょう、というつもりはなくて。というのも、暴けば暴くほど、別に何も起きてないことが多いんです。事実を書けば書くほど、何もないっていうことになるから、今までの怪談の価値を下げているかもしれない。あくまで僕が取材して体験したことを伝えるだけですね。

らむ
以前は夏が来たら稲川淳二さんの怪談話を聞きたいというような流れだったけど、最近は一年中「怖いエンタメ」を求めている人が多いよね。しかも幽霊話を求める人ばかりでもない。

タニシ
そうなんです。「OKOWA」というイベントがあって、それは心霊的な怖さだけでなく人の悪いところとか、いろんな意味の怖いエピソードを披露して一番怖い話を競うんです。以前は幽霊を信じたい人が集まりやすかったけど、これはバラエティに富んだ恐怖を求めて、カラコンをつけた若い女の子から、ザ・おじさんという風貌の人までいろんなタイプが集まってきますね。心霊的な怖さだけでなく、いろいろな恐怖体験を聞きたいのが今の時代の流れなのかなと。

怖い話を求める人の質が変わってきたという、タニシさん

――今後もお二人は今の対象に迫り続けていくのでしょうか?

らむ
僕は定点観測が大事だと思っています。樹海でもホームレス取材でも、ずっと見ていないと変化がわからないものがある。特にドヤ街やホームレスの人たちにいたってはもう20年にわたって見てきているし、社会情勢と関連して動くから、今後も迫り続けようと思っていますね。

タニシ
僕はこの先、自分に何の興味が現れるのかわからないので、なんとも言えないです。興味がなくなったら事故物件にはもう住まないかもしれないですが、住まないことでなんやかんや言われるのも面倒くさいなと思う。しかも僕、5年前に「来年死ぬ」って予言されているし……。

らむ
仕事は原作本の『事故物件 恐い間取り』が映画公開されて絶好調なのにね! まあ、獣にはお互い注意しましょう!

タニシ
はい。猪と鹿と熊にはくれぐれも気を付けようと思います。

タニシさん(左)が受けた5年後の予言に対し、アドバイスするらむさん(右)

聞き手・文/ツマミ具依  写真/中野一気

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松原タニシ 芸人

1982年、兵庫県神戸市生まれ。松竹芸能所属のピン芸人。現在は「事故物件住みます芸人」として活動。2012年よりテレビ番組「北野誠のおまえら行くな。」の企画により大阪で事故物件に住みはじめ、これまで大阪、千葉、東京、沖縄など10軒の事故物件に住む。国内・国外500以上の心霊スポットを巡り、インターネット配信も不定期に実施。事故物件で起きる不思議な話を中心に怪談イベントや怪談企画の番組など多数出演する。ラジオ関西「松原タニシの生きる」、CBCラジオ「北野誠のズバリ」、YouTube・ニコニコ生放送「おちゅーんLIVE!」などレギュラー出演中。最新刊は公開中の映画『事故物件 恐い間取り2』(二見書房)。

村田らむ

1972年、愛知県名古屋市生まれ。ライター兼イラストレーター、カメラマン。ゴミ屋敷、新興宗教、樹海など、「いったらそこにいる・ある」をテーマとし、ホームレス取材は20年を超える。潜入・体験取材が得意で、著書に『ホームレス大図鑑』(竹書房)、『禁断の現場に行ってきた!!』(鹿砦社)、『ゴミ屋敷奮闘記』(有峰書店新社)、『樹海考』(晶文社)、丸山ゴンザレスとの共著に『危険地帯潜入調査報告書』(竹書房)がある。最新刊は20年にわたって取材し続け、ホームレスの今後を予測する『ホームレス消滅』(幻冬舎)。

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