三日坊主の英語学習者は、だれかが決めた"正しい勉強法"に囚われず、YouTubeでも海外ドラマでも、とにかく英語に触れて好きなことだけやればいい。ノルマを課さず、完璧は目ざさない。それで続かなくても楽しければ何度でもやり直せるし、挫折の数だけ経験は蓄積される。いつしか自分に合った勉強法にたどりつき、飛躍的に成果が出ていることに気づくはず。無類の三日坊主を自認するも、ズブの初心者から趣味で英語を始め今では英訳者としても活躍する著者が保証する、ストレスフリーの英語学習メソッドを大公開!!
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英語学習の始め方は十人十色
学生時代はずっと英語が得意で、社会に出てからも英語を私生活や仕事で日常的に使っていて——という方は、現代日本ではまだ少数だと思います。そうした既に高い英語力をお持ちの方がこの本を必要に迫られて読まれることは、滅多にないかもしれません。本書を読んでくださっているあなたは、「大人のやり直し英語学習」を今まさに検討されている最中か、以前に考えたことがあり、何度か実行されたものの、いつも三日坊主で挫折してしまった——といった経験があるのではないかと推察します。
今から学習をスタート(あるいはリスタート)される方はもちろん、英語中級者か上級者に既に達しているものの次の目標が超えられず、あるいは見つからず、学習のヒントを探されている方たちにも、本書でご紹介する「大人のやり直し英語学習」がインスピレーションを得るきっかけとなることを願っています。どのレベルであっても、次の課題をクリアするために気分を一新して「やり直し」に臨む心構えは、共通点が多いからです。
大人になって「やり直し英語学習」してみようかな、と思われる方は、社会に出てから、英語を使う機会があまりなかった——あるいは、機会はあったけれど、うまく使えなかった——という方が大多数で、学生時代に学んだ知識は、ほとんど忘れてしまっているケースも珍しくないでしょう。
筆者自身も、学生時代には英語は大の苦手でしたし、22歳で作家デビューしてから10年くらいは、まったく英語に接する機会がありませんでした。筆者が30歳を過ぎて「大人のやり直し英語学習」を開始した時点では、学生時代に試験のために暗記した単語や文法知識は、大げさではなく、すべて忘れ去っていました。筆者と違って学生時代に英語が得意だった方でも、社会に出てからあまり英語に接していなければ、ほとんどの知識を忘れてしまっているのではないでしょうか。
学生時代に学んだ英語の知識がリセットされて、あなたが今この瞬間、英単語や英文法をなにひとつおぼえていないとしても、嘆く必要はありません。忘れたからこその「やり直し」ですし、綺麗さっぱり忘れているほうが、学び直すことすべてを新鮮に感じられて、うまくやれば、楽しみながら学習を続けられるのです。
あなたが「大人のやり直し英語学習」にトライしようと思い立たれた際、具体的には、どんな学習法が浮かぶでしょう。さまざまな方法が考えられます。
たとえば、書店で英語関連の本(学習参考書、問題集、英語で書かれた小説、英語に関係のある雑誌、洋画の脚本など)を買ってみる。英語のオーディオブック(小説やビジネス書、エッセイ、ノンフィクションなど)を聴いてみる。テレビやラジオのNHK英語番組をチェックしてみる。宣伝をよく目にする(または耳にする)有名な英会話スクールや英語教材、あるいはオンライン英会話を試してみる。興味のあるジャンルの英語ウェブサイトをインターネットで検索してみる。YouTube で英語関連コンテンツを探してみる。洋楽や洋画や海外ドラマから英語の表現を学ぼうと努力してみる。コンピュータ・ゲーム(video game)を英語でプレイしてみる。国内で出会う外国人の方たちに英語で話しかけてみる。英語が話されている国を旅行して現地の人とコミュニケーションをとってみる……などなど。
英語学習を登山にたとえるなら、山頂(=英語が得意になった状態)にたどりつくためのルートは決してひとつではなく、いろんな道のりが考えられます。富士山のように美しい曲線を描く独立峰と同じで、英語学習の裾野(=スタート地点)は、かなり広範囲にわたっているからです。事実、英語学習で成果を出せる方法は、無数に考えられます。そして、正解は決して、ひとつではありません。たくさん選択肢があると迷う、という方も多いと思います。なにから始めるべきか、その選択が重要になります。
自分ができそうで、やってみたいこと
英語学習の選択肢は無数にありますから、どこから始めれば良いかわからず、迷っているあいだに挑戦意欲が薄れてしまったとしても不思議はありません。ですが、最初にトライしてみるべき方法を見つけるのは実は簡単で、前ページで挙げたような一般的な英語勉強法の中から「これなら、できるかも」——そして、「やってみたい」——と感じることから始めれば良いのです。このふたつの感情は、どちらも極めて大切です。
重要なのは、まずは「これなら、できるかも」という基準で選択肢を絞り、そのいくつかの候補の中で、今いちばん「やってみたい」と感じられるものを見つけ出すことです。あたりまえのように思われるかもしれませんが、実は、この基準を無視しているがゆえに学習を続けられなくなり、挫折してしまう、というパターンが非常に多いのです。
たとえば、あなたが「英語を学ぶなら、やはり、英会話スクールに通ったほうが良いのだろうな」という考えをお持ちだとして、「でも、英会話スクールに行ったとしても、成果が出るのかな。あまり気乗りしないし、続けられるだろうか」といった疑念や不安が少しでもあるのなら、無理をしてまで、その方法から挑戦される必要はないのです。一方、「英語の本を買ってきて読むだけなら、できるかも」とか、「良さそうなYouTube チャンネルがあるのなら、観てみたい」という気持ちがあれば、まずその興味を持った対象から始めることが、“今の”あなたにとって、いちばんの正解となります。自分にできそうで、なおかつ興味が湧く方法を試すのは楽しく、楽しいことは続けやすいからです。
たとえ自分が「これなら、できるかも。やってみたい」と感じることであっても、いざトライすると、多くの人が三日坊主で挫折してしまうものです。積極的に挑戦してみた方法でさえ頓挫しやすいのですから、「できる自信はないし、やってみたいとも思わないけれど、なんとなく効果がありそうだから」という理由で候補に浮かぶ方法は、少なくとも最初は選ばないほうが、挫折リスクを小さくできます。挑戦する前から気乗りしないことは、三日坊主どころか、1日(最初の1回)で続けられなくなり、その挫折感が大きければ、ほかの方法を試す意欲さえ失ってしまうことも考えられるからです。
ひとつの例として、筆者は何年も前から「英語力を向上させる最短距離は、TOEIC(L&R)テストを活用することです」というメッセージを放ち続けてきました。その考えは今も変わっていませんが、英語初級者の方が準備ゼロでいきなりTOEICに挑戦したら、自信を喪失して挫折しやすいことも、体験的に、よく承知しています。いったん「自分には無理だ」と思い込んでしまうと、それが一種のトラウマのようになって、2度と再挑戦する気が起きなくなってしまう場合もあります。ですから通常は、しばらく英語学習して、ある程度の基礎固めができたと実感できた段階でのTOEIC受験を、ご提案するようにしています。たとえそれが山頂までの最短距離であったとしても、断崖絶壁をまだ経験の浅いクライマーにオススメできないのと同じことです。転落すれば次はない、という最悪の事態は、できるだけ回避する必要があります。
本書で提案する三日坊主メソッドの基本ルールは、「何度やり直してもいい」という気楽な姿勢ですが、トライする前から「自分にできるのかな?」と半信半疑になってしまうことや、あまり気乗りしないことには、無理に挑戦する必要はないのです。
多くの社会人学習者が「大人のやり直し英語学習」で挫折しがちなのは、「できる自信がなくても、この方法(たとえば、有名な英会話スクールや英語教材)から始めるべきでは」と思い込んでしまい、無理をしていきなり難しい課題に挑んだことが原因になっているケースが多くあります。
もちろん、中には「自分は挑戦が難しければ難しいほど燃える」という方もいらっしゃるかもしれませんが、どれだけ気持ちを燃やしても、精神力だけで乗り越えられないことはあります。いくら北アルプスの断崖絶壁が有名でクライマーたちに人気だからといって、初級者がいきなりそこに挑むのは無謀なのと同じです。
せっかく「大人のやり直し英語学習」をしようと思い立ったのだから、どうせなら効率的に結果の出そうな方法を——と思われる心理は、とてもよく理解できます。たとえ、それが初級者には難しい挑戦であったとしても、あなたが「これなら、できるかも。やってみたい」と思われたのなら、ともかくトライされても構いません。なにしろ、三日坊主メソッドにおいては「何度やり直してもいい」のですから。
最初に選んだ方法ですぐ挫折してしまったとしても、あなたに「向いていない」わけではなく、実際には、“今の”あなたに合っていなかっただけです。成長したあとに再挑戦してみたら、苦もなく継続できて驚いた、ということも、非常によくあります。