1人暮らしでも、パートナーや家族と生活するでもない、新たな選択肢としてルームシェアやシェアハウスという暮らし方に注目が集まっています。
先日発売となった藤谷千明さんのエッセイ『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』には、友人同士でルームシェアを潤滑に行うためのノウハウや知識、そしてオタク女子たちが楽しく生活する日々の様子がゆるっと綴られています。
本書の刊行を記念して、藤谷さんと、現在はニューヨークを拠点に文筆業を行う岡田育さんのリモート対談を敢行。
アラフォーオタク女子の2人が思う、他人と暮らすこと、オタク活動やこれからの人生についてたっぷりと語ってもらいました。
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ビジュアル系に関してはこの人についていこうと決めた
藤谷千明(以下、藤谷):Twitterでは相互フォローですが、岡田さんとお話するのは今回初めてなんですよね。昔から岡田さんのブログの読者で、はてなアンテナが更新されるとすぐチェックしていました。なので今、私の中では「有名ブロガーとお話しをしている!」という気持ちもあります(笑)。
岡田育(以下、岡田):有難い…!私がまだ新卒社会人の頃から読んでくださっていたのでは?ブロガーとしてはまったく無名でしたが、今以上に好き放題にライブやフェスの感想など書いていた時期ですね。私が藤谷さんを知ったのは、もちろんビジュアル系についてのご執筆記事です。同世代のバンギャと集まっても90年代の思い出話を無限ループするばかりになっていたアラサーの頃、「自分が知らない新世代についてものすごく詳しいライターさんが現れた!これからはこの方が発信する情報についていこう!」と思って。最初はずっと若い方だと思っていたんですが、プロフィールを見たら、案外、年が近かったという(編注:岡田さんは1980年生まれ、藤谷さんは1981年生まれ)。
藤谷:私はライター業を始めたのが20代後半だったので、同世代の人からも「5歳くらい年下」という風に思われがちなんですよ。実はアラフォーという。
妹とのルームシェアの敗因は、家族だから「交渉」しなかったこと
岡田:今回の本を拝読して、藤谷さんがルームシェアにいたるまでのくだりに共感しました。実は私も学生時代に妹とルームシェアして、解散した経験があるので…。藤谷さんはどうして妹さんとの同居がうまくいかなかったんだと思います?
藤谷:「家族だから分かってくれるはず」って思っていたのと、若さゆえでしょうか…。
高校卒業後自衛隊に入ったんですが、そこで4年過ごしたあと、「実家に帰りたくない、じゃあ東京に住んでいる妹と暮らそう、ライブもいっぱい観られそうだし」ってぼんやり思ったんです。勢いで決めてしまったので、お互いに「どんな生活をしたいか」といった話し合いもロクにせず、東京の土地勘もないので、物件探しも彼女に任せっきりでした。その結果…、すぐ決別しました(苦笑)。
岡田:私も大学生の時に、同じく「早く家を出たい!」って思っている妹と住むことにしたんです。しかも兄弟か姉妹であることが入居の条件というぴったりな物件を見つけて。ただ、「家を出たい」という気持ちだけだったので、同じくどんな風に暮らしたいかが全然合わなくて…「音楽性の不一致」みたいなものですね。
藤谷:本当の意味での音楽性の不一致もありましたけどね。妹は当時アヴリル・ラヴィーンなどを聴いていて、私はLUNA SEAとかを聴いているからお互い「うるさい!」って。
岡田:うちは「小室哲哉とか小沢健二みたいなクネクネしたボーカルはイヤホンで聴け」とスピーカーの支配権を奪われて、妹のブリトニー・スピアーズがかかり続けてました。あと、私は実家にいたときと同じ感覚で住んでいたけれど、妹はもっとずっと清潔に暮らしたかったらしく、布団を干す頻度やタオルを洗う頻度について、ひどくなじられましたね。
藤谷:ゴミを捨ててくれないとか、歯磨きするときに蛇口をしめないとか、不満があるのに家族だからってちゃんと交渉しなかったんですよね。だからお互いどんどん不機嫌になっていくばかりで。
そういう価値観のすり合わせやアップデートは大切で、小麦粉は虫が入るのを避けるために冷蔵庫に入れる、とか一番気にする人に合わせようと今はトライ&エラーを重ねています。
これが上京してすぐ、20代の自分がオタク女子とルームシェアしていたら、30秒で解散してるでしょうね。
共同生活を営む上で気づいた、「心地の良い妥協」
岡田:その後、一人暮らしを経て結婚したんですが、交際ゼロ日婚のため、夫との初めての共同作業がいきなり部屋探しだったんですよ。恋愛感情がすっこ抜けていたので、この共同生活はプロジェクトなんだ、と割り切って、お互いはっきり意見を言い合えた。妹のときとはずいぶん違いますが、藤谷さんのオタクハウスとは似ている部分もあるのかも。男女で夫婦とはいえ、気の合うオタク同士のルームシェア感覚で、もう7年近くになります。心地の良い妥協ってあるんだな、とようやく気づきました。
藤谷:心地の良い妥協、いい言葉ですね!
岡田:食器は使ったらすぐ洗うようにしようとか、ここは相手のほうがこだわりが強いから私は合わせていいやとか、共同生活を営むために妥協できる、自分の習慣のほうを変えられることが、ポロポロ現れたのは大きな変化でした。20代だったら「こんな我慢はしたくない!」って解散してたかもしれないですけど。藤谷さんも「ポプテピピックの皿以外は捨てていいです」って言っていましたね。
藤谷:私は食べ物や食器にはあまり執着がなくて…。でもそこにこだわりのある同居人もいるんです。
以前、同居人がテイクアウトしてきてくれた中華料理があって、LINEで「〇〇なら食べてくれていいよ」って言ってくれたんですけど、漢字の料理名が読めず、どれなら食べていいのか分からなかったんですよ。「形が丸いからこれかな」とアタリをつけたら、それじゃなかったらしく…。ごめんなさいって謝って代金は支払いましたけど、そこからは画像検索して「これが食べていいやつね」と確認しています。これは私がガサツすぎるだけかも(笑)。
トイレットペーパーと麦茶のストックに人間が顕れる
岡田:「共同生活は緩い取り決めにすると誰かがサボリがちになって、他の誰かに負担がかかりがち」と書かれているのも刺さりました。うちの夫はインフラ整備への執念がすごくて、トイレットペーパーや洗剤のストックが切れるのが絶対許せないタイプなんです。「イン・フラ男(お)」って呼んでるんですけど。私はなくなるギリギリのタイミングまで買いに走らないタイプなので、日用品の補充については「フラ男」に完全にお任せしています。気の済むまで買いだめしてくれ、私は、他の家事を頑張るから…。
藤谷:トイレットペーパーと麦茶のストック問題は人間が顕れますよね。麦茶を嗜好品と見なすか、インフラと捉えるかだって人によって違うわけで。
でも、その違いも話せば分かるような関係づくりが大事ですよね。育ってきた環境が違うからすれ違いは否めないんですよ。SMAPと山崎まさよしは正しい。
岡田:話し合いすることでQOLも上がりますよね。藤谷さんはお一人のとき、肩の調子が悪くて夜泣きしたと書いていましたが、私は独身時代、毎月のように体調不良で寝込んでました。でも夫婦で生活ペースを作るようになって、その手の不調が消えたんですよ。今住んでいる部屋はワンベッドルームで、夫も私も同じ狭いリビングで仕事しているんですけど、1人になりたいときは大学の図書館やカフェに行くとか、積極的に距離を置いて気持ちを切り替えるようにしています。「他人同士だからうまくいかない」なんてこともないんですよね。「家族だからうまくいく」だって奇跡に近い確率なんだし。私は今はもう、実家に泊まるほうが調子狂って寝込みそうです。
子どものいる人とのルームシェア、これからの時代はアリ?
藤谷:この暮らしをしていると、何度か「子どものいる人と今後一緒に住む可能性ってありますか?」と聞かれるんです。つまり、昔の月9ドラマ『人にやさしく』(2002年放送。香取慎吾、松岡充、加藤浩次が出演。ひょんなことから出会った小学生の男の子を育てていく)みたいなこと? って。今はほぼ対等な人間関係だけど、「子供」という存在が出てきたら、責任の種類も変わってくるし、バランスが崩れるんじゃないのか?とか、これは私が男性だったら聞かれなかったのか?とか考えてしまって。
岡田:うちも子どもと住める間取りや動線ではないですね。ニューヨークはめったに地震が起きないので、本棚の上まで高く物を積んでいたり、部屋も角だらけで、小さい子が来るなら全部カバーしないと……質問する人は、そういう現実味まで考えているのかな? ただ、甥や姪が成長して、留学したいと言ってきたら、もう少し広いところに越して一緒に住む選択肢もあるかもしれない。シェアメイト一名追加、という感覚でなら。
藤谷:これからの時代、色々な形の「他者」と住む可能性もあるのかもしれないですね。仮にそうなったとしても、トライ&エラーで生活を回せる方法を考えたいなと思っています。
(構成・真貝友香)
<後編へ続く>