パンツを脱いで迫られる、性器を顔に押しつけられる、自慰行為を見せつけられる……。人手不足が深刻化している介護職だが、現場ではこうしたセクハラ行為が蔓延していることをご存じだろうか。ある調査では、なんと4割の介護ヘルパーがセクハラを受けたと回答している。その実態を赤裸々に告発するのは、現役ヘルパーの藤原るかさんだ。著書『介護ヘルパーはデリヘルじゃない』には、私たちの知らない衝撃の事実が綴られている。その一部を紹介しよう。
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認知症ではしかたないが……
これは直接的なセクハラではありませんが、セクシャリティに関わる事例として紹介したいと思います。
私が訪問していたのは80代半ばの認知症のF子さんで、10歳年下のご主人と同居していました。F子さんは、若い頃はさぞや美人だっただろうと思われるような女性で、いつも身なりもきちんとしています。
私の担当は食事の介助や服薬、更衣してデイサービスへの送り出しですが、F子さんの「この服は主人が買ってくれたの」という説明を聞きつつ洋服を着せると、今度はバッグの中身をチェックします。
「ティッシュがないと困るでしょ」といいながらバッグにティッシュやハンカチを入れるのですが、入れたことをすぐに忘れてしまい、同じことを何度も繰り返すのです。これは記憶障害が特徴の認知症の1つで、F子さんにかぎったことではありません。
そばで見ていたご主人が業を煮やし、「いい加減にしろ」と怒鳴りました。すると、びっくりしたF子さんは、あろうことか、私のほうを見て「あんた、旦那とできてるんでしょっ!」といったのです。ご主人に怒鳴られたF子さんが、自分がデイサービスに行った後、私とご主人が何かすると勘違いしたのでしょう。
私は、ご主人が怒鳴る前に声を掛けていればよかったと反省しながら、2人をなだめ、F子さんをデイサービスの送迎車になんとか乗せますが、F子さんは車に乗ってからも、こちらのほうを不審そうに見ています。
このままではまずいと思った私は、送迎車が向かう方向に歩き出し、F子さんが安心した表情になるまで手を振って送り出しました。
マイナスの感情は定着しやすい
私の次の訪問先は送迎車の方向とは正反対でしたが、F子さんの疑念を晴らすためにはしかたがありません。それ以降、F子さんはデイサービスの送り出しの度に「あんた、旦那とできてるでしょう」というようになってしまったのです。
頭から離れなくなったようでした。認知症は記憶に障害のある病気ですが、マイナスの感情は定着しやすく、このことに関しては忘れることはなかったのです。
F子さんの訪問には私以外のヘルパーも関わっていたので、みんなで「これはご主人への愛だね」と話していましたが、毎回のようにいわれるので、結構まいりました。
私たちヘルパーはF子さんより若いので、ご主人を取られると思ったのかもしれません。「これから別のお宅に行くんですよ」とか「ご主人のところには戻りませんから」といっても信じてもらえず、嫉妬心というか、猜疑心の塊のようになってしまったのです。そんなこともあり、F子さんとはあまり良好な関係にはなれませんでした。
F子さんのご主人も、何度も繰り返す確認行動が認知症のせいだとわかっていたと思いますが、生活をともにしているとイライラも募るのでしょう。
ヘルパーは、こうした家族と利用者の板挟みになることもあります。認知症の人の「嫉妬妄想」や「物取られ妄想」など、現場ではよく出会います。そういう意味では、夫と妻の関係性やセクシャリティには配慮が必要です。
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介護ヘルパーはデリヘルじゃない
パンツを脱いで迫られる、性器を顔に押しつけられる、自慰行為を見せつけられる……。人手不足が深刻化している介護職だが、現場ではこうしたセクハラ行為が蔓延していることをご存じだろうか。ある調査では、なんと4割の介護ヘルパーがセクハラを受けたと回答している。その実態を赤裸々に告発するのは、現役ヘルパーの藤原るかさんだ。著書『介護ヘルパーはデリヘルじゃない』には、私たちの知らない衝撃の事実が綴られている。その一部を紹介しよう。