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植物はなぜ毒があるのか

2020.11.04 公開 ポスト

農林水産省も警告。ビワのタネを食べると食中毒の恐れが田中修/丹治邦和

ジャガイモ、アジサイ、ビワ……。いずれも私たちにとって身近な植物ですが、実はある共通点があります。それは「毒」を持っていること。実際、これらを食べたことによる食中毒被害が毎年のように起きているそうです。一体なぜ、植物に毒が宿るのか? そしてその毒を、人間はどのように怖れ、またどのように有効活用してきたのか? 自然の偉大さがよくわかる『植物はなぜ毒があるのか』より、一部をご紹介します。

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栄養満点な「カロテノイドの王様」

「ビワ」という名前は、実の形、あるいは葉の形が、日本古来の楽器である琵琶に似ているからといわれます。楕円の形の実を「ビワ」という説もあります。日本では、奈良時代にすでに栽培されていたようです。ただ、当時のこの果物は、かなり小粒のものでした。

(写真:iStock.com/Oleksandr Kiriuchkov)

現在、私たちが食べているような大きさのものになったのは、江戸時代に、中国で栽培されていたタネが長崎の出島にもたらされたのがきっかけでした。これは「茂木」という品種で、現在では、「田中」「長崎早生」とともに、この果物の「三大品種」の一つとなっています。

ビワの花が咲いているのを見たことがあるでしょうか。ビワはウメやサクラと同じバラ科の植物なので、その花はウメやサクラと同じように、5枚の花びらと、中心部に多くのオシベをもっています。

本格的な冬の訪れを直前にした11月ごろに、ビワの花が咲いているのを見たら、どう思われるでしょうか。「温暖化のために、寒い冬に向かって、ビワの花が咲いた」と、地球温暖化の進行を憂い、地球の将来を不安に思われる方が少なからずおられるでしょう。

しかし、ビワはもともと11月ごろから花を咲かせる植物なのです。寒い冬が間近に迫っているために虫の数は少ないのですが、ミツバチなどに花粉を運んでもらえば、実がなります。できた実は、春から初夏にかけて大きく成長し、6月ごろには、おいしい果物となり、私たちを喜ばせてくれるのです。

 

ビワは、あざやかなオレンジ色の果肉が印象的な果物です。この色はカロテノイドという色素によるものです。抗酸化物質のカロテンやクリプトキサンチンなどが主な成分です。これらの色素が多く含まれているので、この果物は、「カロテノイドの王様」とよばれることがあります。

カロテノイドは、老化を防止し、疲労を回復し、視力を保つことなどに有効に働くことが期待されます。ビタミンやミネラルも豊富に含まれており、ビワは、健康に良い果物なのです。

ビワは果実だけでなく、葉っぱにも、健康を保つ効果のある成分が含まれています。そのため、昔から、ドクダミの葉っぱ、カキの葉っぱなどと同じように、お茶として飲まれることがあります。

ビワは薬にも毒にもなる!

オレンジ色の果皮や果肉、大きな葉っぱとともに、ビワでは、果実の中に入っている大きなタネが特徴です。ビワを食べるときには、これが邪魔になり、もしこれがなかったら、果肉が厚くなるので、「もっとおいしく食べられるのに」と、このタネは不満のタネとなっていました。

(写真:iStock.com/Doucefleur)

2003年、不満のタネが消えた「タネなし」のビワが、千葉県農林総合研究センターでつくり出されました。世界で初めての「タネなしビワ」の誕生でした。品種の名前は、「希房」とつけられました。千葉県南房総地方の発展の「希望」を担う「希」と、産地となる南房総地方の「房」からなっています。

2008年春、希房が市場に出ました。本来のタネのある部分は、希房では小さな空洞になっています。果肉の厚さは、「タネありビワ」の約2倍です。「果汁が多く、肉質がやわらかく、おいしい」といわれ、高値であるにもかかわらず、人気があります。

 

ビワのタネや未熟な果実には、天然の有害物質アミグダリンが含まれています。かつて、アミグダリンは、ビタミンの一種であるとして「ビタミンB17」と称されたり、「ガンに効果がある」とうたわれたりしました。さらに、アミグダリンを健康に良い成分としている商品があります。

これらに対し、2017年、ビワのタネを粉末にした食品から、天然の有毒な物質が高い濃度で検出され、製品が回収される事案が複数ありました。現在では、アミグダリンをビタミンとする説は否定されており、健康への有効性に関する情報は、科学的に十分な根拠はないとされています。

そのため、農林水産省の2019年6月更新のホームページでは、「ビワなどのタネや未熟な果実には、天然の有害物質が含まれています。ビワの種子が健康に良いという噂を信用して、シアン化合物を高濃度に含む食品を多量に摂取すると、健康を害する場合があります」という内容が掲載され、ビワのタネの粉末を食べることに注意が喚起されています。

関連書籍

田中修/丹治邦和『植物はなぜ毒があるのか 草・木・花のしたたかな生存戦略』

トリカブトのようなよく知られたものだけではなく、じつは多くの植物が毒をもつ。例えばジャガイモは芽のみならず、未熟な状態や緑化した状態で毒をもち、毎年食中毒被害がおきる。それらは、芽や、成長に必要な部分を食べられないための植物のしたたかな生存戦略だった。過去10年の食中毒被害データを中心に、生き残るために植物がつくり出す様々な毒と特徴を紹介。また、古より植物の毒を薬に転じてきた人間の知恵と最新の医学情報まで、有毒植物と人間の関わりを楽しく解説。

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植物はなぜ毒があるのか

ジャガイモ、アジサイ、ビワ……。いずれも私たちにとって身近な植物ですが、実はある共通点があります。それは「毒」を持っていること。実際、これらを食べたことによる食中毒被害が毎年のように起きているそうです。一体なぜ、植物に毒が宿るのか? そしてその毒を、人間はどのように怖れ、またどのように有効活用してきたのか? 自然の偉大さがよくわかる『植物はなぜ毒があるのか』より、一部をご紹介します。

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田中修

1947年、京都府生まれ。農学博士。京都大学農学部博士課程修了。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、甲南大学特別客員教授・名誉教授。専門は植物生理学。『植物はすごい』『植物のひみつ』『植物はすごい 七不思議篇』(以上中公新書)、『植物のあっぱれな生き方』『ありがたい植物』(以上幻冬舎新書)、『日本の花を愛おしむ 令和の四季の楽しみ方』(中央公論新社)、『植物はおいしい』(ちくま新書)など著書多数。

丹治邦和

1969年、京都府生まれ。神戸大学農学部卒業。東京大学農学系研究科修士課程修了。弘前大学医学部脳神経疾患研究施設神経病理部門助手、米国テキサス大学内科学教室博士研究員、米国MDアンダーソンがんセンター博士研究員を経て、現在は弘前大学大学院医学系研究科脳神経病理学講座助教。

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