最近、路上生活者(ホームレス)の姿を見かけなくなったと感じることはないだろうか? 実際、各自治体の対策強化により、ここ10年でおよそ70%も減少したという。『ホームレス消滅』は、そんなホームレスの現状を取材歴20年のライター、村田らむさんが体当たりでレポートした1冊。決して他人ごとではない、彼らの生活のリアルが伝わってくる本書から、印象的なエピソードをいくつか紹介しよう。
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ホームレスは「男性社会」
ここまでホームレス=男性というのが前提で話を進めてきた。生活実態調査でも、ホームレスは男性が96.2%を占める男性一辺倒の世界であることがわかっている。
ただ、女性でも野宿生活をしている人はいる。生活実態調査では3.8%になるが、取材をしている体感としてはこれより少なく感じる。
女性のホームレスが少ない理由は、以下が考えられる。
「男性に養ってもらい、路上生活をしないで済む状態になっている」
「女性を対象とした福祉制度がある」
「性風俗がセーフティネットになっている」
それぞれ問題点はあれど、女性が野宿生活をせずに済んでいるのはいいことだろう。昔から、男性のホームレスよりも女性ホームレスのほうが、野宿生活を離脱しやすいといわれていた。福祉事業も、男性より女性を保護しているのだ。それなのに、こんなご時世に、女性が野宿生活をしているのはよっぽどのことだ。
女性ホームレスと接触して一番に感じることは、まともに会話ができない状態の人が多いということ。男性は、酒に酔って何をいっているのかわからなくなっている人も多いが(酔っていない時は会話が通じる。もちろんシラフでも会話が通じない人もいる)、女性ホームレスで酒に溺れている人は見たことがない。
完全に精神を病んでいる女性も
以前、真冬に池袋駅前に座ってボソボソとうつむいてつぶやいている女性(推定50代後半)がいたので「何をしてらっしゃるんですか?」と話しかけた。女性はニコニコと笑いながら、「ずっと仕事をしてるんだけどね。なかなか終わらなくて、大変なのよ」と話してくれた。
口調自体は普通だった。「どんな仕事をしているのですか?」と聞くと「見ればわかるでしょ」という。
彼女の手元を見ると、雑誌やちり紙を小さく小さくちぎり、それをせっせとペットボトルに詰めていた。そしてペットボトルが紙でいっぱいになると足元に置いた。彼女の周りには、ちり紙入りのペットボトルが何十本も置かれていた。
他の話をすると、返事はしてくれる。ただ、少しズレている。少しずつ何をいっているかわからなくなり、聞いていると頭がグルグル回ってくるような感覚になってしまった。彼女はしばらくの間、池袋周辺にいた。
大阪の天王寺の歩道橋では推定60代の女性ホームレスが立っていた。男性のホームレスが女性に話しかけていたが、会話は成り立っていないようだった。話を聞こうとすると、彼女はひとりでつらつらと話し始めた。
「あの時はものすごいありがとうございました。今日は声が出ません。悪い心臓を入れられていますから。アフリカから剥製の心臓をもらう予定ですから。それを交換する予定ですから。アフリカの病院には冷凍された剥製があと何体残っているか、医者に聞いています……」
そういうようなことを、延々と繰り返し何十分も言い続けていた。彼女はどうやら身に起きた出来事を話しているつもりらしい。心臓を入れ替えなければ声が出ない(といいつつ声は出ている)、だから慰謝料をもらわなければならない、と独白は続く。
「5億万兆円もらわないといけません。もらえますか? もらえますか? 16億万兆円もらえますか?」
近くにいた先ほどとは別のホームレスの男性から、「うるさい!! 黙れ!! 気色悪い」と怒鳴られると一瞬はおとなしくなるのだが、またつらつらと話し始める。彼女は完全に精神を病んでいるように思えた。
ホームレス消滅
最近、路上生活者(ホームレス)の姿を見かけなくなったと感じることはないだろうか? 実際、各自治体の対策強化により、ここ10年でおよそ70%も減少したという。『ホームレス消滅』は、そんなホームレスの現状を取材歴20年のライター、村田らむさんが体当たりでレポートした1冊。決して他人ごとではない、彼らの生活のリアルが伝わってくる本書から、印象的なエピソードをいくつか紹介しよう。