大阪人はおもしろくて当たり前、大阪といえばたこ焼き、熱狂的な阪神ファン、ドケチなおばはん……大阪に対してこんなイメージを持っていませんか?
大阪のステレオタイプなイメージは、実はメディアによって作られ広められたものだった?! 庶民的な部分ばかりに注目され、面白おかしく誇張されがちな大阪像。幻冬舎新書『大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた』ではその謎を解き明かします。
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時代をかえたサンテレビ
「巨人、大鵬、卵焼き」という言いまわしを、以前はよく耳にした。子供が好きなものを、3つそろえてならべた慣用表現である。小さい子は、たいてい卵焼きが好き。大相撲やプロ野球では、強い横綱大鵬や読売巨人軍を応援する。それが児童たちの常であると、この文句はつげていた。1960年代の、はやり言葉でもある。
大鵬や読売ジャイアンツの人気は、よく優勝する、群をぬく力にねざしていただろう。だが、読売球団へのひろい支持は、テレビの放映によっても、ふくらまされていた。じじつ、1960年代の民放は、読売戦以外の中継を、ほとんどしていない。テレビの画面で見るプロの試合は、ほぼ読売対どこそこという組み合わせにかぎられた。
ジャイアンツの試合ばかりが、受像機から流れてくる。そのせいで、ひところは、野球好きの半数以上が、このチームをひいきにした。大人も子供とかわらず、読売に声援をおくったものである。
大阪や神戸、そして阪神間においても、事情はかわらない。地元の阪神タイガースへ心をよせる者は、それほどいなかった。関西人であっても、野球愛好者の情熱は、おおむね読売にかたむいていたのである。
様子がかわりだしたのは、サンテレビが阪神戦の放映にふみきってからだろう。
1968年にもうけられた同局は、放映ソフトの獲得と拡充に苦慮していた。早朝から深夜までの放映をどうなりたたせるかに、なやんでいたのである。地元球団である阪神の、全試合完全中継へのりだしたのも、そのためにほかならない。阪神戦は、おおげさに言えば新設UHF局の巨大な埋め草として、浮上したのである。
当時は阪神球団がもとめた放映権料も、安かった。具体的な金額はわからないが、資金力のない地方局でも買いとれたのである。
それでも、阪神戦のテレビ放送がはじまったことは、あなどれない。読売戦しか流れない放送のあり方に、これで風穴があいた。視聴者は、その気になれば、阪神の闘いぶりを毎日見られるようになったのである。
最初はサンテレビの放映圏である兵庫県内にしか、その電波はとどかない。だが、やがては京都のKBSなど、他府県にあるUHF局との連携もはじまった。在阪各局も、阪神戦をとりあげるようになっていく。
その積み重ねが、関西人の野球観をかえたのである。読売びいきから阪神ファンへと。テレビが地域住民の感受性を左右する、その力はあらためて見直されるべきだろう。
東京キー局は、なぜ野球中継を見はなしたのか
今につづくプロ野球、職業野球のリーグ戦は、1936年にはじまった。その仕組みをととのえたのは、東京巨人軍をひきいた読売新聞である。プロ野球そのものも、読売新聞がてがける興行だと、当時はみなされた。読売以外の新聞は、だから試合の結果などをほとんどつたえていない。
戦後にプロ野球人気が高まってからは、やや様子がかわりだす。読売以外の新聞も、紙面をさくようになっていく。
とはいえ、他紙の報道も、人気の高いジャイアンツを中心にすえつづけた。テレビの時代になっても、読売グループの日本テレビが、このチームをもりたてている。他の地上波各局も、それに追随した。おかげで、ジャイアンツの人気は、ますます高まっている。
関西圏では、1969年に放送を開始したサンテレビが、事態をかえだした。同局がはじめた阪神戦の中継は、地元で阪神ファンをふやす、その起爆剤になっている。今では、関西でくらす野球好きの多くが、阪神を応援していると、前にのべた。
しかし、こうした現象は、関西圏以外でもおこっている。中部地方や中国地方でも、中日ドラゴンズや広島カープが、ファンをふやしていった。
20世紀のおわりごろには、地方局が地元のチームを、いっせいにあとおしする。放映権料の高い読売ではなく、コストがかからない地元球団の試合の放映に、ふみきった。これにあおられ、地元にチームのある野球好きは、そちらへ心をよせるようになる。読売への気持ちは、払拭して。
野球に関するかぎり、各地の地方局が、地元の自立をうながしたのだとみなしうる。関西圏の阪神ファンも、この全国共通といってよい趨勢によって、おおきくふくらんだ。そこに、関西や大阪の固有性は、量的な面をべつにすれば、見られない。
この傾向は、全国的に読売のひいき筋をへらしている。かつては、読売対どこそこの中継を見たい読売ファンが、圧倒的な多数をしめていた。読売戦が全国ネットで高い視聴率を獲得したのは、そのためである。読売への一極集中こそが、野球放送を地上波の優良ソフトたらしめていた。
しかし、今は野球好きの想いが、各地の地方球団へ分散されている。もう、どの球団も、全国ネットで視聴者をひろくひきつけることは、できなくなった。
読売球団が自らの放映権料を、早い段階で下げておれば、事態はかわっていただろう。読売の対戦カードは、もう少しテレビの中で延命しえたかもしれない。しかし、球界の盟主を自負するジャイアンツに、安売りのふんぎりはつけられなかった。
東京のキー局が、野球中継を見はなしたゆえんである。
大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた
大阪人はおもしろくて当たり前、大阪といえばたこ焼き、熱狂的な阪神ファン、おおさかのおばはん……大阪に対してこんなイメージを持っていませんか?
大阪のステレオタイプなイメージは、実はメディアによって作られ広められたものだった?! 庶民的な部分ばかりに注目され、面白おかしく誇張されがちな大阪像。幻冬舎新書『大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた』ではその謎を解き明かします。