大阪人はおもしろくて当たり前、大阪といえばたこ焼き、熱狂的な阪神ファン、ドケチなおばはん……大阪に対してこんなイメージを持っていませんか?
大阪のステレオタイプなイメージは、実はメディアによって作られ広められたものだった?! 庶民的な部分ばかりに注目され、面白おかしく誇張されがちな大阪像。幻冬舎新書『大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた』ではその謎を解き明かします。
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大阪人「にも」ユーモアがある
大阪の人は、話がおもしろい。言葉のやりとりが、漫才のように聞こえる。上方芸能のいわゆるお笑いは、たがいにおどけあうことをよろこぶ大阪人が、はぐくんだ。そんな大阪文化論を、我われはしばしば耳にする。
私じしん、そう力説している大阪弁の男を、東京で見かけたことがある。たまたま入った居酒屋で、隣の席からくだんの文化論は聞こえてきた。見れば男は、関東弁の連れたちと、大阪の漫才を語りあっている。
そして、その話題に関するかぎり、彼は指導者のようにふるまっていた。にわかじこみの大阪弁で漫才の真似事におよぶ、ほぼ同年代の関東者をたしなめてもいる。師匠が弟子を、きたえるかのように。
あかん、あかん。そんな間合いでやったら、笑いはとれへん。ええか、ボケとツッコミは、ただそれらしい文句をゆうたらええんとちゃうんや。ボケのボケぶりは、活かすも殺すも、ツッコミのタイミングしだいなんやから……。
とまあ、彼は以上のような口調で、その場をしきっていた。たいしたことを言っていたわけではない。だが、大阪の人間は、素人であっても、大阪からきたというだけで、笑いの師となりうる。そのことを、目に焼きつけさせられた一瞬ではあった。
前にもふれたが、東京生まれの谷崎潤一郎は、関西へうつりすんでいる。そして、大阪見聞の随想を書いた(「私の見た大阪及び大阪人」1932年)。80年以上前の記録だが、そのなかで谷崎は大阪の人びとを、都会人としてみとめている。関西では、大阪だけが都会的だとさえ、書ききった。その理由は、大阪人の機知にあるという。
「大阪人はアレでなかなか滑稽を解する。その点はやはり都会人で、男も女も洒落(しゃれ)や諧謔(かいぎゃく)の神経を持っていることは東京人に劣らない……洒落の分るのは江戸っ児ばかりに限ったことはない。それは中国四国辺の人と大阪人とを比べてみると、その相違が実にはっきりしている」
意外なことに、大阪の人たちもユーモアがわかっている。その点では、江戸っ児とくらべても、ひけをとらないというのである。
大阪人こそがそういう方面の達人だとは、まったく思っていない。彼らにも諧謔味はあると、あたかも数年の滞在で発見をしたかのように、つたえている。今日とは、平均的な大阪人像のちがう時代があったことを、わかっていただけよう。
「大阪のおばちゃん」は、ここからはじまった
「まいどワイド30分」というテレビの番組を、ごぞんじだろうか。1983年から93年まで、10年間にわたって放送された。テレビ大阪が世におくりだした、大阪限定のニュースワイドショーである。
放送時間は、午後5時から5時半まで。勤め人たちは、まだ帰宅していない。テレビを見るのは、おもに家庭の主婦たちという時間帯である。
その想定されうる視聴者層を、ねらってのことだろう。この番組は、「決まった!今夜のおかず」というコーナーを、うちだした。大阪の市場や商店街で食材をもとめる買い物客に、カメラとマイクをつきつける。そうして、今晩のおかずは何にするのかとたずねる枠を、もうけたのである。
画面へ顔をだすのも、とうぜん大阪の主婦たちにかぎられた。似たような試みじたいは、以前からあったかもしれない。街でリポーターが女性へ声をかける映像も、単発的には流されていたような気がする。
だが、「決まった!今夜のおかず」は、連日彼女らを放送した。もっぱら、商店街の主婦たちに焦点をしぼり、同じ時間枠でつたえつづけたのである。画期的な番組であった。
テレビ大阪は後発のローカル局であり、既存の在阪4局と互角にたたかえない。よそと同じことをやっていたら、負けてしまう。そんな想いも、当時としては目新しいこの企画を、あとおしした。番組担当者であった沢田尚子が、以上のような回想をのべている(「大阪のおばちゃんに助けられて」関西民放クラブ「メディア・ウォッチング」編『民間放送のかがやいていたころ』2015年)。
とはいえ、この番組も取材をしたすべての女性に、光をあてたわけではない。おもしろいと制作者たちが判断した者だけをえらび、テレビの画面には、だしていた。
はじめは、絵になる主婦をさがしだすのに、苦労をしたらしい。何人にも路上で声をかけ、ようやく見つけだすというような状態であったという。だが、街頭インタビューをかさねるにしたがい、担当の沢田は人選の勘もやしなわれた。「『このお母さんはいけそう』とか、だんだん見えてくるんです」(同)
路上取材でであった女性の中から、ゆかい気に見える人だけをぬきだし、放送する。のちには、在阪各局がこの手法をとりいれた。大阪のおもろいおばちゃんばかりを、画面から洪水のように流しだしたのである。ここでは、それが1980年代以後の、新しい現象であることを、確認しておきたい。
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