「超現代語訳」で、歴史をするすると面白く読ませる! と人気の房野史典さんの新刊。
『13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。』に、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の時代考証の小和田哲男先生が、コメントを寄せてくださいました。
NHKの数々の歴史番組でも人気の小和田先生が、「あやふやな概念をわかりやすい言葉でフォローしている」「こういう新説にまで目配りしているのには、正直びっくり」など、素敵な言葉で論じています。
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文中、ドラマ仕立てのせりふ、たとえば、
家康「ビックリした!! な、なんで武田が遠江にいるんだ!?」
秋山「かかれぇー!!」
家康「ちょ、な、お、意味わかんねーぞおい!! と、とにかく戦えぇぇ!!」
というような部分が入っていたりして、軽いノリで、子ども向けの読み物といった印象だったが、読み進んでいくうちに、まじめな戦国合戦入門書であることに気づかされた。
扱っている合戦は大きなものが5つ。桶狭間の戦い、三方ヶ原の戦い、長篠の戦い、本能寺の変、関ヶ原の戦いで、ほかに、「戦国時代……って?」「織田信長と明智光秀」「中国大返し」の3つが特論のような形でちりばめられ、戦いの数は10である。
まず、冒頭「戦国時代……って?」では、朝廷・武士・幕府の関係など、当時の政治の仕組みを解説していて、戦国時代とはどういう時代だったかの概説からはじまる。中で著者は、戦国大名には「こうだ!」という定義がないとしているが、まさにその通りで、あやふやな概念をわかりやすい言葉でフォローしている点がまず注目される。以下、5つの戦いすべてにふれることはできないので、「これは」と思ったことがらを取り上げる。
桶狭間の戦いで、著者は織田信長側について、「全員の意見を大事にしすぎるチームは、方向が定まらず、1つも前進しないし、すぐに壊れます」といって、チームの和は大事だが、時と場合によっては、ワンマンプレイは大いに必要という教訓を引き出している。信長が割れた家臣の意見をいちいち全部聞いていたら、勝てる見込みの少ない戦いが、絶対に勝てない戦いになっていたとする論は説得力がある。欲をいえば、情報の勝利だったことに一言ふれてほしかった。
次が長篠の戦いである。私は、以前から、戦いがあった場所は設楽原なので、長篠・設楽原の戦いが正しいと主張していて、著者もそのことにふれていたので、最近の研究動向にも目配りしていることに好感がもてた。
長篠の戦いというと、まだ、1000挺ずつ3段になって、1000挺ずつ交代で撃ったとする旧来の説を信奉している人も多いようであるが、本書で、「ただこの戦法、実際には、なかった。っぽいです」と否定している。連続射撃の実際について解説し、「準備をキッチリ整えて、手堅い戦いをしようとしてるんです」とのまとめは説得力がある。
さて、今年(2020年)のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の放送でクローズアップされている明智光秀が引き起こした本能寺の変であるが、著者は絵のない絵日記という形で、本能寺の変までの天正10年(1582年)5月17日から6月1日までの、信長と光秀、二人の行動を追っている。そこから得られた結論は、「どうやら、信長を討つキッカケ=動機ってやつは、この2週間よりもっと前にありそう。で、信長がごく少人数で行動するというチャンスがおとずれたから……」である。ただ、これだと単なる突発説ということになってしまうが、著者はこれまでの野望説・怨恨説・朝廷黒幕説なども紹介しながら、特論「織田信長と明智光秀」で、最近浮上してきた四国問題説、すなわち長宗我部元親関与説にかなりのページを割いて解説を加えている。
合戦の最後として取り上げているのが関ヶ原の戦いで、著者は「戦国時代の総決算バトル」という表現をしている。慶長3年(1598年)8月18日の豊臣秀吉の死から関ヶ原の戦いまでの、徳川家康・石田三成それぞれの行動や諸将との関係についてくわしくふれているが、私が注目したのは、例の七将襲撃事件についてである。
著者は本書で、「七将襲撃事件という、おもくそ三成を襲っちゃう事件を起こすんですね(史料によってメンバーが違ったりするけど、この7人の可能性が高いよ。あと“襲撃”はしてなくて“訴訟騒動”だったって説もあるよ)」としており、この訴訟騒動というのはごく最近唱えられはじめた説で、こういう新説にまで目配りしているのには正直、びっくりさせられた。
以上、戦いとして取り上げられているうちのいくつかをみてきたが、ほかに、コラムとして、秀吉がらみの賤ヶ岳の戦い、小牧・長久手の戦いにもふれ、太閤検地をわかりやすく解説しており、歴史が苦手な人にもとっつきやすい書き方、内容となっている。
全体として、歴史を知識としてでなく、歴史から何を学ぶか、生き方を問うというとらえ方と、「勝ち方」からも「負け方」からも学べることがいっぱいあるという指摘は、かねがね私が主張しているところでもあり、共感できる部分が多かった。
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13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう
歴史ものの面白いドラマや映画はたくさんあるし、小説や漫画もたくさんあるのに、歴史っていうだけで「苦手!」と思ってしまう人は、多いですよね。「歴史の教科書」というだけで、拒否反応を示す人もいるのでは!?
しかし歴史は、知れば知るほど面白い。とくに「戦」からは、学べることがいっぱいです。
実際に勉強してみると、コロナ禍の影響で社会が大きな変化をしている”現代”とかぶることもたくさん。
だから。
今こそ、戦国時代の「戦」の話をしましょう!
『超現代語訳 戦国時代』の房野史典さんが、芸人ならではの「面白スパイス」をたっぷりかけて、かつてないほど頭に入るように歴史の話をしてくれます。
苦手だった人ほど、ハマりますよ。
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