「超現代語訳」で、歴史をするすると面白く読ませる! と人気の房野史典さんの新刊『13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。』が、13歳の少年少女ばかりでなく、歴史の専門家の先生方からもたいへん評価されています。
このたび、テレビでも活躍、著書もたくさん出されてる戦国に詳しい乃至政彦先生が、「身に余るお褒めの言葉!」(←房野本人談)を寄せてくださいました!
「本書を読む前に、この書評を読んでいただきたいほどです!」とのことですので、さっそくどうぞ。
* * *
歴史に学ぶための手引書
──『13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。』
ビギナーズガイドとしての一冊
先月『13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。』(以下『13』と略す)が刊行された。著者は房野史典さん。想定読者はタイトルにあるように、中学生ぐらいの少年少女であるが、実は大人が読んでも楽しい。なのでこのレビューは、子供たちではなく、大人たちに向けて書いていく。適齢のお子さんがいて、本書の購入を検討する人々に、参考としてもらいたい。
本書『13』は、戦国時代の話をする内容となっている。ただし、「正確な歴史の知識を真面目に提供する」──というお堅い概説書ではない。「これ一冊さえ読めば、必ず試験でいい点数が取れるぞ」──という都合のいい参考書でもない。
では、どういう内容なのか。それをいまから説明しよう。
そもそも『13』はビギナーズガイドとして、異質である。年表がないばかりか、どの事件がいつ起こったかという情報すらほとんど省略している。歴史小説であれば、年月日を可能な限り削り落とした作品もないわけではないが、ノンフィクションに類例を探すことは難しい。
だが、それでも『13』は“歴史を学ぶ”具体的情報ではなく、“歴史に学ぶ”抽象的思考を獲得するガイドブックとして傑出している。
具体的情報と抽象的思考
具体的情報とは、それこそ試験に出る年表と用語というような、覚えておけば実用できる具体の情報である。
抽象的思考はそうではなく、なにかイレギュラーの事態に直面したとき、自分の頭を使って解決を図るための能力である。抽象の思考を習得する方法は、人それぞれだが、そのひとつに、歴史を「ストーリー」として受け入れ、そこに自分の考えとぶつけ合うというものがある。
たとえば、「川中島合戦の勝者は、武田信玄かそれとも上杉謙信か」「戦国時代の最強武将は誰だったのか」「もし本能寺の変がなかったら、日本はどうなっていたのか」という、他愛もない歴史語りがそれだ。答えのない問いに、答えを探し求める。これが、おのれの主観を鍛えることにつながる。
房野さんは「偉人の行動」を、「現代でも活かせるもの」として受け止められることを述べている。わたしもまた対象を「ストーリー」として取り入れることで、過去の人々の判断や情緒を、自らの記憶と経験に昇華できると考えている。
これが、“歴史に学ぶ”ということで、過去の事件や人生を我が事として、主観的に教訓や模範を見出すのである。客観的な視点から“歴史「を」学ぶ”ことも重要だが、並行して“歴史「に」学ぶ”の感覚も磨くことで、想像力は豊かになる。
わかりやすい時代の説明
難しいことはここまでにして、そろそろ本書の中身を紹介しよう。タイトルで戦の話をしようと述べられてはいるが、合戦の話のみをするのではなく、その土壌となる時代環境や関連人物についての言及が豊かで、しかも楽しい。
たとえば「戦国大名」という用語があるが、これを近現代にできた言葉であることをちゃんと説明し、しかもかれらがもともと何者であったかも、わかりやすく書かれている。
戦国大名の前身は、守護、守護代、国衆(国衆は近年に意味を打ち直された用語。史料上に現れる国衆とは意味が異なる)で、しかもこれらがどういう存在であったのかまで、それこそ13歳ぐらいの知識でも一読して理解できる説明で、
こういうことは案外、歴史の専門家や敏腕のライターでも難しい。難しいことを噛み砕いて説明するには、付け焼き刃でなく、しっかりした知識を身につけ、熟成させておく必要がある。さらにイメージで語ろうとすれば、自分がどう受け止めているかをさらけ出すわけで、多くの書き手は恥じらいが先立って、なかなか筆が進まない。しかし房野さんは、思い切りのいい筆致で堂々と語ってくれる。
語り手としての誠実さ
論より証拠、房野さんの文章を一部見てみよう。本能寺の変の前夜を解説するくだりなんて、こうである(以下、引用。改行など一部修整)。
家康「この度は、駿河国をいただき、本当にありがとうございます」
信長「いや全然全然! もうぜーんぜんよ! それよりゆっくりしてってね。こっちはもてなす気まんまんなんだから覚悟しろコノヤロー! ハッハッハ……あ、そうだ、ここにいるあいだのお世話はこいつがやるから。光秀、ぷちょへんざ」
光秀「ちぇけら」
このとき、家康の接待役をまかされたのが、『本能寺の変』を起こした張本人、
明智光秀
です(会話の内容はもうぜんぶ無視して)。
信長、家康、光秀。戦国時代を大きく動かした役者がそろった、安土城レセプションパーティー。
信長と家康が「あれ、ちょっとやせた?」「え、前より太ったんすけどね?」なんて会話に花を咲かせ(てないでしょうが)、なごやかムードに肩までつかってるところへ、一通の手紙が届きます。
とんでもない文章だと思ったかもしれないが、ほんとうにとんでもない。
会話で読者に、重要部分を的確に伝えておきながら、それを即座に自己否定するのだ。
かつて人事の仕事をしていたとき、新人に教育をする人物を選出するとき、正確な情報を厳しく教育する指導員と、なにより人柄と熱意で教育する指導員があると考えていたが、房野さんは後者の側に入るだろう。歴史界に語り手として、これ以上の人はなかなかない。
本書では、房野さんのいう「意味もわからず覚えた100個の歴史用語より、意味を深く理解した1個の歴史ストーリーの方が大切です」という思想が、実践されている。
こういう誠実と熱意満ちたビギナーズガイドは、歴史が苦手だという少年少女らをもその世界に導く力があるだろう。このレビューを見て気になった方は、ぜひ書店で手に取ってみてもらいたい。
13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう
歴史ものの面白いドラマや映画はたくさんあるし、小説や漫画もたくさんあるのに、歴史っていうだけで「苦手!」と思ってしまう人は、多いですよね。「歴史の教科書」というだけで、拒否反応を示す人もいるのでは!?
しかし歴史は、知れば知るほど面白い。とくに「戦」からは、学べることがいっぱいです。
実際に勉強してみると、コロナ禍の影響で社会が大きな変化をしている”現代”とかぶることもたくさん。
だから。
今こそ、戦国時代の「戦」の話をしましょう!
『超現代語訳 戦国時代』の房野史典さんが、芸人ならではの「面白スパイス」をたっぷりかけて、かつてないほど頭に入るように歴史の話をしてくれます。
苦手だった人ほど、ハマりますよ。
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